日本のドラマはNetflixと韓国から学ぶ時代

Netflixが9月上旬に韓国・仁川で開催の「アジアドラマカンファレンス」に登壇

「アジアからハリウッドを超えるドラマを作ろう」。この呼びかけで脚本家とプロデューサーが集まる会議がある。今年の「アジアドラマカンファレンス」の目玉はNetflix。開催地の韓国・仁川で日本のドラマ界は何を学んだか?

Netflixがサポートするアジアドラマカンファレンス

 今年で第14回を数えた「アジアドラマカンファレンス」が9月4日~7日に韓国の首都ソウルに隣接する都市、仁川で開催され、アジアのドラマ脚本家とプロデューサーが参加するこの国際会議に計10か国から約200人が参加した。日本からは『リーガル・ハイ』『デート』『コンフィデンスマンJP』などのヒット作を持つ古沢良太氏、韓国からはNetflixオリジナルドラマ『キングダム』の統括プロデューサー、オ・スンジュン氏など、ほか中国、タイからも現役の作家陣やプロデューサーが集まった。

脚本家の古沢良太氏らが並び、「アジアからハリウッドを超えるドラマを作ろう」と作家たちが議論した。
脚本家の古沢良太氏らが並び、「アジアからハリウッドを超えるドラマを作ろう」と作家たちが議論した。

 アジアのドラマの作り手が年に一度、この規模で集結し、交流を図る会議は珍しい。今年は日韓関係が悪化する最中だったが、途切れることなく実現できたのは、それだけこの国際会議の価値を主催者側も参加者も認識しているからだろう。文化と政治は切り離すべきという考え方もあるだろうし、荒波をくぐり抜けてでも番組ビジネスを進める事例は必ずあるからだ。そもそもこの会は、数々の名作ドラマを手掛け、日本放送作家協会の会長を務めた故・市川森一氏の呼びかけによって2006年から始められた。「アジアが力を合わせて、ハリウッドを超えるドラマを作ろう」という想いから、日韓が中心となり、続けられている。

 とは言え、想いだけで継続できるものでもない。今回はNetflixによるサポートも大きかったと聞く。Netflixが後援企業に名を連ね、期間中は全世界配信前にNetflixオリジナルドラマ『ザ・ポリティシャン』の特別スクリーニングや商談会、特別セッションといった特別企画が組まれ、Netflix色が反映された。会場にはNetflixを代表してNetflixアジア太平洋地域コンテンツ統括副社長ロバート・ロイ氏が参加し、「豊かなストーリーをアジアは持っている。韓国の『キングダム』や日本の『リーガル・ハイ』などNetflixでも人気のある作品が並ぶ。アジアのエンターテイメントが世界に広がることを期待している」とスピーチで述べていた。コンテンツ流通市場でアジアのコンテンツに注目が集まり始めていることは事実にあり、この動きを意識した上での発言だろう。

Netflixアジア太平洋地域コンテンツ統括副社長ロバート・ロイ氏
Netflixアジア太平洋地域コンテンツ統括副社長ロバート・ロイ氏

 今や世界のコンテンツ業界で最も存在感を示すNetflixから学べるものは多い。特別セッションではNetflix人気シリーズ『ブラック・ミラー』から生まれたNetflixオリジナル映画『バンダー・スナッチ』のプロデューサー、ロセル・メックリン氏らが登壇し、制作過程などを語る場面が作られた。同作はNetflix初のインタラクティブ作品であり、視聴者がストーリー展開を選択できることが売りだ。メックリン氏は「制作予算規模は通常のNetflixオリジナルシリーズとはそう変わりはしないが、5つのパターンがあるラストから何通りもあるシーンを練り、撮影する作業がとにかく大変だった」と本音をこぼしつつ、「初の試みだったが、世界中から反響を得ることができ、今、視聴者のニーズは多様に広がっていることを実感した」と話していた。つまり、今、世界のドラマ市場で求められているのは「多様性」。これはNetflixが示したメッセージのひとつだった。

ライバル視するのは国内の同業他社ではない

 では、日本のドラマ界が今、学ぶべきコトは何だろうか。Netflixがやんわりと伝えた世界のドラマ市場の潮流も知るべきことのひとつだが、隣国の韓国、中国から今、学ぶべきは「誰が見ることを想定してドラマ作りを行っているか」だ。

 例えば、先ほどから話題に触れているNetflix『キングダム』は2019年1月に公開されて間もなくしてシーズン2の制作が発表された人気作である。Netflixアジアのロイ氏も先の通り人気作と認めている。歴史ドラマ×ゾンビという最強の要素をしっかり盛り込んでいることが人気の理由にあるとは思うが、制作したAstory(エーストーリー)という韓国の大手制作会社がライバル視しているのが国内の同業他社ではないことも大きいのではないかと思うところがあった。

 Astoryに所属する統括プロデューサーのオ・スンジュン氏が登壇したセッションで『キングダム』と並んで全世界同時公開ヒット作に並べていたのはNetflix初の外国語制作シリーズ『ナルコス』とドイツ初のNetflixシリーズ『ダーク』だったからだ。オ・スンジュン氏の説明によれば、『ダーク』は全体視聴の90%以上が制作国であるドイツ以外の地域で占めたという。この超難解なミステリー作品として話題になった『ダーク』も、闇社会を舞台にした『ナルコス』も、そして『キングダム』もそれぞれ、視聴する国や年齢に縛られずに「誰に刺さる作品に仕上がるか」に重きを置いている。そう考えているからこそ、自国だけに目を向けていないのだ。これは日本のドラマ界も学ぶべきことである。

 中国から学ぶべきことは、デジタルネイティブ世代を徹底的に意識したドラマ作りだろう。中国を代表して講演を行った『老九門』など人気オンラインシリーズを手掛ける脚本家、ザン・ヨヒャン氏は自身もデジタルネイティブ世代のひとりであり、「中国のオンラインドラマの多くは90年代生まれの女性をターゲットにしたものが多く、作家の低年齢化も進んでいる」と話していた。一方で、課題は作品の質。「制作陣に若い人材を多く雇った結果、大量の作品発注をさばく能力に欠け、作品の品質が落ちてしまっている」という。解決策には経験の蓄積。中国はそれさえも凄まじい早さで積み上げていくだろう。経験の豊富さに自信がある日本も油断してはならない。

韓国のドラマ制作撮影現場は6日から8.5日に、働き方改革進む

 質の追求に対する議論はこうした会議の場で必ずや話題になる。日本の場合は、制作工程を見直す、いわゆる「働き方改革」を進めることも重要なポイントだろう。韓国では制作現場の改善を図り、ドラマ1話の平均撮影期間は6日から8.5日に、制作費はこれまでの倍の予算が組まれるようなったという話を聞いた。だが、日本はいまだ6日平均のままである。こうした日本のドラマ界の現状について、日本を代表してATP理事沼田道嗣氏(テレパック取締役プロデューサー)が、今日本の制作会社が抱えている働き方改革や制作費減少の問題を言及した場面があった。

日本の制作会社が抱えている働き方改革や制作費減少の問題を言及した場面もあった。
日本の制作会社が抱えている働き方改革や制作費減少の問題を言及した場面もあった。

 沼田氏は今後の取り組むべき施策として「テレビ局からの自立」「グローバルな作品づくり」「世界市場の開拓」の3つを掲げ、「国内向けドラマのみ制作しているガラパゴス現象のままでは死んでしまう。リスク背負って、日本のドラマ制作を世界に流通させていくことにも取り組む必要がある。日本人は精神力があるが、時に排他的になり、独りよがりになりがちだ。『ムクゲ』を国花とする韓国は、花言葉通り『新しい美』を追求し、新しいことをして今の発展がある。日本もそこから学ばないといけない」と述べると、各国の参加者から共感を呼んでいた。

 最近の日本の地上波ドラマはターゲットの高年齢化が進み、キャストも、キャラクターも、ストーリー展開も、40代以上のドラマファンに馴染みやすいものばかりだ。例え、海外にも流通経路がある日本発ドラマであっても、日本市場でヒットすることが大前提である。数年前まではそのやり方に誰も疑問視することはなかっただろうし、ビジネス上も間違ってはいなかった。だが、状況は変わりつつある。制作予算は削られつつあり、ヒットドラマを作り出すことも難しくなってきた。ふと外に目を向けると、いつの間にやら韓国や中国、インドのドラマが世界でヒットしている。沼田氏が自戒の念を込めて伝えた危機感は決して大袈裟なものではないのである。

 現地で実は、参加した日本の作家やプロデューサー陣から「Netflixと新たな仕事を進めている」「脚本家発の企画の実現に取りくみたい」「韓国勢と世界市場を見据えたドラマ作りを始めている」といった水面下で動いている話も聞けた。語る表情からは「攻め時を逃したくない」という心の内が見え、危機意識が前向きに転換していく続きに期待を募らせもした。

*掲載写真は全てKOFICE提供。