坂元裕二脚本『Mother』リメイク版がトルコでヒット、SNSで話題の世界トップ10ドラマに

坂元裕二脚本、松雪泰子、芦田愛菜出演『Mother』リメイク版がトルコでヒット。

坂元裕二脚本のひとつ、『Mother』(日本テレビ)が日本から遠く離れたトルコでリメイクされ、SNS上などで話題を呼んでいる。坂元作品は今期でいうと『カルテット』(TBS)、昨年では『いつ恋』(フジテレビ)がそうであるように、台詞の言葉選びに定評がある。リメイクによって日本のドラマも海外にも共感を広げることができるのか。

「赤ちゃんポスト」は「モスクの広場」にローカリゼーション

2010年4月クールに日本テレビ系で放送されたドラマ『Mother』は小学校教師が教え子を誘拐し、親子と偽って逃避行するストーリー。松雪泰子が主演し、芦田愛菜の出世作でもある。多くの賞を受賞し、評価を得たドラマだ。その『Mother』が昨年10月25日からトルコのStar TVで放送開始され、反響を得ているというので、トルコ版の第1話を見せてもらった。

日本テレビの監修のもと、リメイクされたトルコ版は母という意味の『ANNE(アンネ)』のタイトルが付けられている。主演は現地で人気の女優Cansu Dere(ジャーンス・デレ)を教師役に起用。松雪泰子とどことなく似た雰囲気の正統派美人だ。子役は現地で売れっ子のBeren Gokyildiz(ベラン・ギョキルデ)が演じている。主要人物はほぼオリジナルに沿ったイメージの俳優がキャスティングされ、第1話はどの場面も忠実に作られていた。日本の場合は尺が1話45分だが、トルコ版は1話90分と、倍の長さになる。その分、状況を詳しく説明している部分もあるが、長さを感じさせない程度にテンポがいい。2話がすぐ見たくなるような演出も加えられていた。

リメイクドラマは現地の文化や慣習などに合わせてアレンジする「ローカリゼーション」も必要になる。箸がフォークに替わるといったアレンジはよくあるが、違和感なくローカリゼーションする演出が必要な場合は腕の見せ所。第1話は「赤ちゃんポスト」のくだりがイスラムの音楽が流れるモスクの広場を使って、少女が救いを求める心情をトルコ風にうまく表現されていた。

国によって放送規制の事情も異なる。トルコの場合は「ドラマリテラシーが高い」と言われており、虐待シーンで少女がゴミ袋に閉じ込められる描写はそのまま使われていたが、これがNGになる国もあるということだ。

トルコ版のタイトルは『ANNE』、母という意味だ。
トルコ版のタイトルは『ANNE』、母という意味だ。
当時、話題を呼んだオリジナル『Mother』のポスター
当時、話題を呼んだオリジナル『Mother』のポスター

視聴率トップ、シェア25%超え、初回4万ツイートを記録

使用されている言語は現地語のトルコ語。英語字幕をみた限り、台詞もそのまま再現されている場面がほとんどだった。特に脚本家・坂元裕二の独特の言葉選びが見せ場の主役二人だけの会話や、誘拐を覚悟する重要なシーンは言葉が違えどオリジナルと変わらない印象だった。

「あなたは捨てられたんじゃない。あなたが(親を)捨てるの」

こうした台詞とストーリーに共感した感想が多くツイッター上に寄せられ、賑わしているようだ。世界中のテレビ事情を調査するフランスのリサーチカンパニーWIT社によると、『ANNE』(『Mother』)初回は4万740件のツイートを記録し(放送前後6時間の集計)、「SNS上で話題の世界トップ10の新作ドラマ」にランクインしたということだ。

実際にツイートされたものを抜粋。

"It is a realistic series in terms of how we define women and treat children" (@izmirIiyizbiz)

女性と子育てとは何かを定義するリアル感のあるドラマだ。)

"I'm still crying while thinking about some scenes" (@_bilgehan).

いくつもの場面で考えさせられ、涙がとまらない。)

日本では現在放送中の坂元脚本ドラマ『カルテット』(TBS)がツイッターのトレンドワードにランクインし、昨年のちょうどこの時期は月9『いつ恋』こと『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』もSNS上での反響が高かった。坂元作品は、「人間関係の本質を突くような台詞が魅力的」だと言われ、例え恋愛ドラマであっても、ありがちなラブコメタッチとは一線を画す。

トルコ版を制作するMF Yapim(エム・エフ・ヤプム)は『Mother』に興味を持った理由をこう話している。

「センセーショナルなストーリーを描きながらも決して視聴者に媚びない内容だと思った。深い情愛をベースにストーリーが展開し、いろいろな角度から“母性や血縁とは何か”を問う。これは世界で共有できるテーマであって、今あるドラマにはない内容だ。」

女性を中心に支持され、視聴率も好調。1月24日まで12回の放送の中で1位を6回も記録している(トルコの場合はその日に放送された番組の順位が発表される)。またこれまでの同時間帯シェア平均は21%を超え、中にはシェア25.31%をマークした回もある。数字からもトルコでヒットしていることがわかる。話数の追加が決定し、日本では11話で完結したが、トルコ版は回想シーンなどを厚くし、30話を予定している。今年6月ぐらいまで放送が続く。

トルコから中南米、北米へ、1エピソード2000万の高値

マーケット開催中のカンヌで大々的に宣伝。世界に売り出されているトルコ版『Mother』の看板
マーケット開催中のカンヌで大々的に宣伝。世界に売り出されているトルコ版『Mother』の看板

“日本から遠く離れたトルコで日本のリメイク版がヒットしている”と言われても、日本にまでその熱量は伝わりにくいが、このトルコのヒットは実は大きな可能性を示している。

テレビコンテンツの流通事情が掴める世界最大級の見本市MIPTV/MIPCOMではここのところトルコに話題が集中することが多い。トルコから世界に広がる事例が増え、トルコがドライビング・フォースになっている。トルコでヒットしたドラマは中東や東ヨーロッパなど周辺地域で売れ、見た目が近いという理由から中南米でもヒット。その後に北米にも広がるという好循環が生まれている。『RUNNER』『EZEL』といったタイトルのドラマがそうだ。“世界ヒットの引き金はハリウッドだけではない”ことを証明し、これが余計にトルコのドラマ市場を盛り上げているところもある。年々輸出額が上昇し、2015年は総額約350億円超えと言われており、以前は1エピソードが5000円ぐらいの価値しかなかったが、今では2000万円で取引されているものもあるという。

既にトルコ版『ANNE』の引き合いは多く、クロアチア、マケドニア共和国、イラン、イラク、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンで配給が決まったところだ。ヒットの法則通り、トルコ周辺と南米で売れている。これが更に広がる可能性は高く、世界的ヒットも夢ではない。

日本のドラマはアジアで売れてもそれから世界に広がりにくいが、ネックだった言語やキャスティングの問題をリメイクは解決できる。

日本テレビ海外事業部次長千野成子氏は「リメイクは効率の良い取引。世界の潮流でもある。ヒットがみえにくい企画書よりも、話題になったものを買う傾向が高まっている。実際にアジア以外の地域からも日本のドラマに関心が寄せられている。ローカライズが可能なテーマであれば成功率は高いはず」と話す。

年に4クールごとに新作ドラマを放送する国は日本ぐらいだ。深夜にまでドラマ枠が増え、各局で年間のドラマ本数は増えている。世界のコンテンツマーケットではNetflixなどSVODサービスの普及も影響し、ドラマ時代を迎えている。“とにかく新しい企画が欲しい”という声が高まる今、作品数の多い日本は攻め時である。オリジナルストーリーを書ける脚本家が育っていないとも言われているが、今回のケースのように海外でも注目される脚本家が出てくることによって、新たな人材を生み出すような好影響も期待したい。