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ウレタンマスクを注意する「不織布マスク警察」が話題 その心理と対処の仕方は?

原田隆之筑波大学教授
(提供:koni/イメージマート)

不織布マスク警察とは

 1回目の緊急事態宣言が出されたあたりから、わが国ではマスク警察、自粛警察と呼ばれる人々の存在がクローズアップされていました。

 彼らの行動は、ともすれば過剰な言動にもつながることがあり、私はかつてその心理を斉一性への圧力(同調圧力)や不安という観点から心理学的に分析しました(現代ビジネス『日本でも多数出現・・・「自粛警察」の心理を理解できますか?』)。

 最近になって、注目を集めつつあるのが「不織布マスク警察」と呼ばれる人々です。いまやマスクをしていない人は、都会ではほとんど見かけません。しかし、最近はウレタンマスクをする人がとても増えてきたように感じます。日常的になったマスクをよりおしゃれに楽しもうという人、肌触りがなめらかなほうがいいという人など、理由はさまざまでしょう。

 その一方、ウレタンマスクは飛沫を防止する機能に劣るというデータが出され、専門家からは不織布マスクを推奨する声が聞かれるようになりました。そこで現れたのが「不織布マスク警察」です。Twitterなどでいっときトレンドにもなりましたが、街なかや電車などで、ウレタンマスクを着用していた人が注意されたというのです。

 今やマスクをしていてもその素材によって厳しくチェックされ、注意されてしまう時代になりました。細かいことですが、私は最初、ウレタンマスク着用者を注意する人々を指す言葉なので「ウレタンマスク警察」と呼ぶのかなと思っていましたが、「マスク警察」はマスク着用を強要する人々、「自粛警察」は自粛を強要する人々を指す用語なので、「不織布マスク警察」と呼ぶのが正しい(?)ようです。

 それでは、こうした「〇〇警察」と呼ばれる人々の心理を、前回と違った観点から分析したいと思います。

原因帰属とリスク認知

 まず取り上げたいキーワードは、原因帰属です。原因帰属とは、自分の置かれた状況を認識する際に、その原因をどのようにとらえるかというわれわれの認知的傾向のことを言います。そして、それはわれわれの行動の方向性を決めるものでもあります。

 原因帰属には、主に2つのパターンがあり、それは「内的原因帰属」「外的原因帰属」です。「内的原因帰属」とは、物事の原因を自分の内部に求めがちなパターンを言います。たとえば、コロナウイルス感染症にかかるのは、自分の健康状態や免疫に左右されるというとらえ方をする人がこれに当たります。

 「外的原因帰属」とは、原因を環境や他人に求めるタイプです。コロナが蔓延するのは、政府の施策が悪いからだとか、周りの人々がちゃんと感染防御策を守っていないからだなどととらえがちな人々です。

 さらに、これら原因帰属スタイルのほかに、コロナ禍におけるわれわれの行動の大きな影響を与える心理として、「リスク認知」が挙げられます。これは自分がコロナにかかったり、感染が蔓延したりするリスクをどのように評価しているかという認知です。

 言うまでもなく、リスク認知が大きい人は、感染を脅威的にとらえています。反対に、リスク認知が小さい人は、自分は感染しないとか、感染は大したことないなどととらえています。楽観主義バイアスが大きな人であるとも言えます。

 それでは、原因帰属スタイルとリスク認知の組み合わせで、どのような考え方が生まれるかを整理してみましょう。

(筆者作成)
(筆者作成)

  1. 内的原因帰属・リスク認知小「無関心タイプ」:若いし健康だから大丈夫
  2. 内的原因帰属・リスク認知大「悲観タイプ」:年だし、免疫も衰えているので心配
  3. 外的原因帰属・リスク認知小「自信過剰タイプ」:防御策を講じているから大丈夫
  4. 外的原因帰属・リスク認知大「〇〇警察タイプ」:あいつらのせいでコロナが蔓延する

 これを見ておわかりのように、一番下のタイプ、すなわち外的原因帰属をしがちで、リスクも大きく認識しているタイプの人々は、「〇〇警察」になりやすいタイプだと言えます。つまり、コロナのリスクを脅威的にとらえており、その原因は周りの人々の行動にあるととらえている人々です。

 さらに、彼らに関して指摘できる点は、「コントロール可能性の認識」の大きさです。外的要因が大きいけれども、それに対するコントロール可能性を大きく認識している人は、怒りや苛立ちを抱き、それをどうにかして変えようとし、実際にそのように行動します。だから、感染拡大の原因となっていると見なした人々に注意をして、何とか変えようと試みるのです。

 一方、同じように外的原因帰属をしがちで、リスク認知が大きくても、コントロール可能性の認識が小さい人もいます。こういう人々は、「何をしても無駄だ」「かかるときはかかる」ととらえ、悲観的になったり、感染防御策を無視したりしがちです。その場合は、「悲観タイプ」「無関心タイプ」に似た行動を取ります。

研究データを見てみると

 イギリス・リーズ大学の研究者は、イギリス人114人の原因帰属スタイル、リスク認知を分析しました。その結果、原因帰属のパターンがどちらかに偏るのではなく、バランスの取れているタイプが全体の4分の1ほどいて、彼らはリスク認知は適度で(大きくもなく、小さくもない)、感染防御策もきちんと守っていることがわかりました。

 外的原因帰属をしやすくリスク認知が高いタイプは、全体の半数程度いましたが、「〇〇警察」になりやすいタイプと「何をしても無駄」ととらえているタイプは、ほぼ半々でした。ただ不思議なことに、彼らはいずれも感染防御策をあまり取っていませんでした。

 これはイギリスの結果なので、感染状況やマスク着用習慣などが大きく異なる日本に当てはめるとかなり結果は違ってくると思います。

 日本では、「不織布マスク警察」になりやすいタイプの人は、しっかりとマスクの着用はしているでしょう。しかし、三密回避などの徹底をしているかどうかは、データを取ってみないとわかりません。

 また、大阪大学が行った国際比較では、「コロナは自業自得」と考える人の割合は、日本はイギリスの約10倍でした。だとすると、外的原因帰属をするタイプや「〇〇警察」になりやすいタイプは、イギリスよりも多いのかもしれません。日本においても、コロナ禍の人々の心理について、こうした心理学的研究が必要です。

「不織布マスク警察」にどう対処すべきか

 さて、このように分析してみると、わかってきたことが2つあります。まず、誰でもが「不織布マスク警察」などの言動に出やすいわけではないということです。彼らは、

  1. コロナのリスクを大きくとらえている
  2. それを他者のせいにしやすい心理的傾向を有している
  3. 加えてそれがコントロールできると考えている

 これらの心理的傾向ゆえに、「コロナも蔓延は、感染防御策を徹底せず、政府や専門家の言うことを聞かない人々のせいだ」ととらえ、攻撃的な言動に出てしまうのだということです。さらに、かつて指摘した「同調圧力」「不安」の大きさも指摘できます。

 だとすれば、これらの心理的傾向のどれかが変化すると、その言動も収束してくるのだと考えられます。緊急事態宣言が出るたびに、こうした「〇〇警察」がSNSなどでトレンドになることを考えると、やはり感染状況が落ち着いてくることが一番有効なのではないでしょうか。それによってリスク認知や不安が緩和されることが期待できるからです。

 もちろん、本来彼らが有している心理傾向を変えて、バランスの取れた見方ができるようにならなければ、根本的な解決にはなりませんが、それには長い時間がかかります。心理療法などが必要でしょうし、そもそもそれを本人に受けさせるのは現実的ではありません。

 このように考えると、やはり感染を収束させる、少なくとも減少するように皆が努力するしかありません。「〇〇警察」の出現は、彼らだけの責任とも言えないのです。「〇〇警察」の人は、自分の行き過ぎた外的原因帰属傾向を修正する必要があります。さらに、それ以外の人々も、それぞれ少しずつ自分の認識を見直し、その認知や行動を変容することによって、感染の収束に向けて努力することが必要なのです。

 「自分は若いから大丈夫」「何をしても無駄」とだけ考えるのではなく、社会には高齢者や基礎疾患のある人やコロナを脅威に感じている人がいます。その人々の視点で物事をとらえてみてください。さまざまなタイプの人々が共存するのが社会であり、さまざまな人々の価値観や認識が衝突するのが社会ですが、少し視点を変えてみることで、感染の拡大も無用な対立も和らげることができるのです。

 コロナはわれわれの身体だけでなく、経済や社会をも壊そうとしています。社会には分断が生まれ、対立があちこちで見られます。コロナを治療することは、医療従事者でなければできません。しかし、われわれ全員にできることがあります。それはコロナがたくらむ対立や分断に抗うことです。そしてそのためには、少なくとも上に述べたような意識的な努力が必要です。

文献

Dunning, A.; Pownall, M. Dispositional and situational attribution of COVID-19 risk: A content analysis of response typology (preprint). PsyArXiv 2020.

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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