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教師による性犯罪をどのように防ぐべきか 

原田隆之筑波大学教授
(写真:アフロ)

教師による性暴力

 教師が児童生徒に対して性暴力を働くという犯罪は、卑劣という言葉では表現しきれないくらいのものがある。

 教師という立場を利用し、児童生徒との関係性や信頼感を逆手に取って、相手の人権や将来にまで残る心の傷のことなどを一顧だにせず、自らの欲望の赴くままに行動することなど、到底許されるものではない。

 こうした事件が続発していることを受けて、文部科学省は教育職員免許法(教免法)の改正を検討している。現行の規定では、わいせつ行為で教員免許を失っても、3年がたてば再取得が可能となるのであるが、いくら何でもそれは甘すぎる。再取得した免許で再び教壇に立ち、再び事件を起こしたというケースもある。

 先日、文科省が検討している改正案は3年の期間を5年に延長しようとするものであるとの報道があった。これに対し、多くの驚きや反発の声が上がっている。

性犯罪の再犯リスク

 私は10年以上にわたって、刑務所や精神科クリニックにおいて、性犯罪者に対する「治療プログラム」を実施している。

 まず、性犯罪の再犯率について犯罪白書などのデータを見てみると、性犯罪全体では5年間の性犯罪再犯率は十数%程度であるが、痴漢、盗撮が最も高く約30%、小児わいせつは約10%である。また、同種犯罪での前科が2回以上ある者に関しては、小児わいせつの再犯率は約85%まで跳ね上がる(ただし、サンプル数は13人と少ない)。犯罪統計には明るみに出ていない「暗数」はつきものなので、実態はもっと多い可能性が大きい。

 したがって、これら繰り返されやすい性犯罪に対しては、刑罰だけでは限界があり、刑罰に加えて治療を実施する必要があるとの考えから、われわれは「治療プログラム」を開発し、実施しているのである。

 よく誤解されるが、それは性犯罪を「病気」であるとみて、罪を軽くしようということが目的ではなく、刑罰に加えて治療を実施することによって、より効果的に再犯を防止することが目的である。

 一般に性犯罪(に限らず一般犯罪も)の再犯リスク要因には、以下の8つがあることが大規模な研究によって見出されている。

 それは、1)犯罪の前歴、2)不良交友、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティ、5)家族の問題、6)学業・仕事上の問題、7)薬物・アルコール使用、8)不健全な余暇活用、の8つであり、これらを総称して「セントラル・エイト」と呼ぶ。

 児童生徒に対して性暴力に及んだ教師の場合、このうち、1)犯罪の前歴、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティを満たしていることは明らかである。1)は言うまでもないが、3)に関しては、規範意識の低さ、信頼関係の悪用、犯罪を容認する態度などが考えられる。

 また、4)に関しては、共感性の欠如、攻撃性、衝動性などがあてはまるだろう。さらに、ほかのリスク要因に関しても、一人ひとりを詳しくアセスメントすることによって、明らかにすることができる。

小児性愛とその治療

 子どもに対する性的欲求を抱くことは、一種の性の逸脱と考えられており、精神障害の1つとして公式の診断マニュアルにも「小児性愛(ペドフィリア)」としてリストアップされている。

 しかし、それ自体がすぐに犯罪に直結するわけではない。小児性愛傾向のある者であっても、実行するかしないかは大きな違いがあり、実行にまで至る者のほうがはるかに少ない。そして、そちらがより「重症」であると言える。

 だとすると、セントラル・エイトを見ても、1)に挙げたように子どもに対する性犯罪の前歴があるということは、実行にまで至った「重症の小児性愛者」と言うことができる。

 加えて、規範意識の欠如、共感性の欠如、衝動性など、そのほかのリスク要因が重なることによって、より危険性が増していくのである。

 こうした人々の治療はどのようなことを行うかというと、「認知行動療法」という心理療法が主流である。そこでまず行うことは、再犯に結び付く「引き金」を徹底して避けるということである。 

 ストレス、性的欲求不満、イライラなどが「引き金」になる者が多いが、言うまでもなく最大の「引き金」は、子どもとの接触である。現在クリニックで治療中の患者さんにも、学校や公園などを避けたルートで通勤する、児童・生徒の通学時間帯を避けて電車に乗る、などの方法を徹底している。

 ここでは便宜的に「小児性愛」として述べてきたが、それは相手が高校生だろうが、大学生だろうが同じである。同意のない相手に対し、あるいは性的自己決定力がまだ未熟で、十分な同意のできない相手に対して、関係性に付け込んで一方的な性的行為を行うことは、すべて同様の悪質さと心理的問題性(リスク要因)を有していると言える。

 このように、科学的に考えても、子どもに対する性犯罪を犯した「重度の小児性愛者」に、再度教員免許を与えて教壇に立たせるということは、わざわざ「引き金」に近づけることと同じで、きわめて危険であることは間違いない。

職業選択の自由

 もちろん、犯罪を真摯に反省し、二度と行わないと心から誓った者もいるだろう。しかし、これらの行為は、意志の力だけでは制御できないところに留意する必要がある。「引き金」が引かれたら、意志の力をはるかに上回る衝動に突き動かされてしまい、再犯に至るということが多いからだ。

 したがって、いくら反省して更生を誓ったとしても、わざわざ再犯リスクを高めるような選択肢を残すべきではないし、法の改正もその方向で行うべきである。言うまでもなく、それは子どもをみすみす危険に晒すことになるからだ。

 もちろん、人には職業選択の自由があるし、その自由は保障されるべきである。とはいえ、やはりリスクが残っているのであれば、被害者に与える大きなダメージを考慮して、その自由は制限されても仕方がない。どのような免許や職業においても、欠格事由は存在する。

 また、今ここに存在している人の自由を、まだ存在しない将来の被害者を想定して制限するのはおかしいという意見もあるだろう。犯罪の可能性があるということでその自由の制限をすることは、ある種の「保安処分」のような危険な兆候を感じ取る人もいるかもしれない。

 しかし、われわれが今、子どもに対する性犯罪を防止するためにできる最善の方法は、今のところ「再犯の防止」しかないのである。残念ながら、まだ一度も性犯罪に至っていない者を事前に見きわめて、犯行を防止するだけの知恵も技術もない。

 だとすれば、こうしたリスクの高い者には再度教員免許を与えないという方法を取るしかないのである。

 

不当な差別は許されない

 性犯罪の前歴がある者全員を危険視して差別するのはよくないという意見も理解できる。ならば、全員を危険視しないために、性犯罪者の再犯リスクを測定するためのツールを活用して、再犯リスクの大きさを把握するという方法も検討できる。

 これはわれわれの研究グループが日本版を開発した「スタティック99」という質問紙であるが、わずか10項目の質問で、再犯リスクの大きさが判定でき、その予測精度は80%弱である。とはいえ、20%は外してしまうのだ。これは、PCR検査などでもよく指摘される「偽陰性」が出てしまうということだ(再犯をしないと予測したのに、再犯してしまったというケース)。

 したがって、これが現時点での科学の限界である。科学には100%がないのは当然のことであるが、だからと言ってそれを許容し、「1人や2人の被害者が出るのは仕方ない」とは絶対に言えない。とすると、やはり現時点では、性犯罪の前歴のある者はすべて免許の再取得はさせないという方法が、一番合理的な選択である。

 繰り返すがこれは、前歴のある者を色眼鏡で見て差別しているのではなく、その犯罪を実行したというその事実が、本人の心理的問題性と将来の犯罪リスクの大きさの証明となるからであり、5年やそこらで「治る」ようなものでもないからだ。また、仮に改善していたとしても、かつてと同じような状況で「引き金」に近づけることは、再犯リスクを高めるからだ。

 その一方で、本人の更生のためには、彼らを社会から排除するのではなく、社会の中に受け入れて治療や就労支援など、できる限りの支援をすべきである。教員の道は絶たれたとしても、更生の道は他にも数多く残されているはずであるし、そこで「不当な」差別があってはならない。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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