オリンピックのマラソン・競歩 開催地移転を気象の面から考える

開催場所として名前があがった札幌大通公園(筆者撮影)

今大きな議論となっているのが、『オリンピックのマラソン・競歩の開催地問題』です。『開催地を札幌に変更の可能性』という突然の発表がIOC(国際オリンピック委員会)からあったのは今月16日。日本中の多くの人に驚きを与えました。筆者のような札幌の市民ランナーは、地元で世界トップの走りがみられると期待を寄せていると思います。

これまではあくまで『可能性』であったため、ぬか喜びになることもあるかと少し遠巻きに見ていましたが、ここ最近のコーツ氏の発言を聞くと、かなり札幌開催の可能性が高くなってきたことがうかがえます。

この、強引ともいえるような突然の変更は、『暑さの回避』というのが主な理由です。そして、ここまで強く変更したがっているのは、9月下旬から10月上旬にかけて開催されたカタール・ドーハでの世界陸上女子マラソンで出場した68人のうち28人が途中棄権、完走率も58.8%と過去最低を記録したことが大きく影響していると考えられています。

きょうから、この開催地について協議が開始されます。ここで改めて、気象の面から開催地を札幌に変更することについて考えてみたいと思います。

■最大の懸念事項『暑さ』はどのくらい緩和されるのか?

オリンピックのマラソンが開催されるのは8月9日です。8月9日の東京と札幌の気温の平年値を比べてみると、

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(気温比較 筆者作成)

最高気温、そして一日の平均気温ともに札幌のほうが4度ほど低いことがわかります。4度の差は、ランナーにとっては体にかかる負担がかなり軽減されると思われます。

■一方で、札幌でも必ず涼しいわけではい

気温についてもう少し詳しく見てみます。8月9日に過去、最高でどれだけ気温が上がったことがあるのか、そしてもう少し広く8月上旬にはどれだけ気温が上がることがあるのかも比べてみました。

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(8月9日の最高値・8月上旬の最高値比較 筆者作成)

東京はさすがに暑くて、8月9日の最高気温は37.7度、8月上旬で見ると39度台の日もあります。ただ、比較的涼しいとされている札幌でも8月9日の最高は34.6度、8月上旬では36.2度という猛暑日もありました。これは札幌であってもここまで気温が上がるポテンシャルがあるということを意味しています。

当然来年の8月9日の気温を現段階でピンポイントに予想するのは不可能で、もしも来年8月9日がこうした日に当たってしまうと、札幌に移転したとしても競技環境は厳しいものになってしまうでしょう。

もちろんこれを言い出すとキリがないのですが、変更を考える際にはこうしたリスクもあるということを把握しておくことも大切です。

■競歩についてはどうか

これまでのメディアの報道を見ていると、マラソンの変更については様々な角度から検証されてきましたが、競歩についてはあまり論じられていないように感じます。競技の日程は20キロが7月31日、50キロが8月8日で、暑さの条件は上記のマラソンとそう変わりないでしょう。では、コースについてはどうでしょうか。競歩は札幌に移転した場合、中心部にある大通公園を周回する案が軸になっているようです。

その環境を詳しく見てみます。

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(国道12号線 筆者撮影)

上の写真、大通公園の一本北の通りはオフィスビルが立ち並び、交通量が多い国道12号線が走っています。ちなみに写真右側の赤い屋根は有名な札幌時計台です。ガイドブックなどのアップの写真ではわかりづらいですが、実はコンクリートジャングルの谷間に位置しているのです。

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(大通公園と北側の道路 筆者撮影)

そしてこちらの写真、大通公園自体は緑が豊かですが、その南北にはオフィスビル、そして3車線の道路が走っています。

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(大通公園付近のビル 筆者撮影)

ちなみにこちらは大通公園沿いにあるビルで、温度計が設置されていてビルの壁面に常に表示されています。この温度計は、夏の暑い日では気象台の観測値よりも2度~3度ほど高い気温を示していることもあります。どこに温度計が設置されているかなどの観測条件や、どんな測器を使っているのかなどの詳細がわからないので一概に比較することはできませんが、都会の真ん中で競技を行うことになるため都市熱の影響は出るものと考えられます。

今回の記事では気象の面からのみの考察でしたが、オリンピックの開催ということになればそれだけでは決められないこともあると思います。

オリンピックはもちろん純粋なスポーツの祭典であるべきで、アスリートファーストで考えると平均気温が低い札幌に移転して、少しでもリスクを減らそうという考えはとても良いと思います。一方で、そこに多くの人がかかわり、多額の資金が投入されていることなどを考えると、都市アピールやビジネスの側面は排除できないものというのもまた事実です。

実際に先日行われたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)のコースは、東京の良いところを集めたような魅力的なコースでしたし、街並みが多くテレビに露出するマラソンはそうした開催都市アピールの側面も担っていることは言うまでもないでしょう。

そうしたことも含め、きょうから始まるIOC協議では総合的な判断が求められます。