【競泳日本】中高生スイマー強さの秘密

女子100mバタフライ決勝で躍動する池江璃花子(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

目立つ若手の躍進

競泳のリオデジャネイロ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権が終了した。競泳日本代表には、34人が選出された。

一発勝負で決まる五輪代表は記録も順位も求められるため、独特の雰囲気であり、何度も修羅場を経験してきたベテランであっても、この五輪選考会を「怖い」と表現する選手が多かった。

空気が張りつめる緊張感の中、若手の勢いが止まらなかった。正直、こんなにうまく勢いが続くものなのかと驚いている。日本代表チームには、中高校生5人が選出されている。中学3年生の酒井夏海(スウィン南越谷)、高校1年生の池江璃花子(ルネサンス亀戸)、今井月(豊川高校)、高校2年生の長谷川涼香(東京ドーム)、持田早智(ルネサンス幕張)だ。

~5人のリオデジャネイロ五輪 出場権獲得種目~

酒井夏海=女子400mメドレーリレー背泳ぎ

池江璃花子=女子100mバタフライ、400mフリーリレー、800mフリーリレー

今井月=女子200m個人メドレー

長谷川涼香=女子200mバタフライ

持田早智=女子800mフリーリレー

同世代の「絆」

彼女らは、初めての代表選考会でベストパフォーマンスをしてみせた。夢舞台の切符を掴むまで、厳しいトレーニングに耐え、成長してきたのは言うまでもない。しかし初めての選考会でベストパフォーマンスをするためには、トレーニングで培った自信だけでは、限界がある。そこで挙げられるのが、同世代の「絆」だ。

今大会、若手の勢いを作り出したのは、大会2日目に行われた女子100mバタフライ決勝で五輪代表権を獲得した池江璃花子。彼女の活躍が同世代の選手に与えた影響は大きい。それからは勢いをバトンタッチするかのようだった。「私にも出来る」そう思えることは、最高のエネルギーだ。

女子200mバタフライで代表権を獲得した長谷川涼香は、予選を終えた時点で「璃花子が先に決めちゃったんで、自分も決めたい」と池江の活躍に刺激を受けていた。女子200m個人メドレーで代表権を獲得した今井月は、池江と「一緒に五輪へ行こうね」と約束をしていたと言う。

「私も絶対に行ける」

その今井が五輪代表権を獲得した大会4日目は、決勝レースすべてが女子種目だった。まず100m背泳ぎで中学生の酒井が優勝を飾ると、次は200mバタフライで高校生の長谷川が代表権を獲得。若手の勢いを感じていたが、私は不安になった。若手が次々と結果を残す姿を見て、これから登場する今井は大きなプレッシャーを感じているのではないか、と。しかしその不安は、必要なかった。今井は会心のレースを繰り広げ、五輪代表権を獲得してみせた。そのレースを見守っていた親友の池江は、嬉し涙を流した。

レース後、今井に「同世代の活躍でプレッシャーはなかった?」と聞くと、私の想像を超える答えが返ってきた。「夏海も、涼香も凄くて。嬉しくて。次は私の番だ。私も絶対に行けるって思いました」この言葉に鳥肌が立った。彼女は、本当に強い。

5人の共通点は「SS合宿」

彼女らに共通しているのは、「ジュニアSS育成合宿」だ。SSとは、スーパースイマーズの略。日本水泳連盟主催で、オリンピック・リオデジャネイロ大会、東京大会に向けて、若手の育成を目的に、2年前から行われている。合宿は10月から翌年の6月まで、ほぼ毎月、合宿を実施している。

【「基本を正しく大切に」とし、泳法の基本、トレーニングの基本を重視した内容として実施。あわせて、研修会を行いコーチと選手の理論的なレベルアップを図る事も目的の一つとする。】 と合宿のテーマが掲げられている。

対象者は、日本水泳連盟が定めた強化指定選手となれる記録(ナショナル標準)を突破した者、尚且つ、その記録を対象大会の決勝で突破しなければならない。ある意味、日本代表選考会のような一発勝負となっている。これは、決して偶然ではない。代表選考会を見据え、決められた大会で結果を残す厳しさ、大切さを意識付けしている。

SS合宿は日本水泳連盟・競泳委員会の発案で、合宿を中心となって動かしているのは、田中孝夫先生だ。アテネ五輪女子800m自由形で金メダルを獲得した柴田亜衣さんを育てた名伯楽。金メダリストを育てた田中先生から直接指導を受けられることで大きな刺激となる。選手だけではなく、指導しているコーチにとっても、指導法を直接学べる大切な機会となっている。

水中練習はもちろん、陸上で行うストレッチや体幹トレーニングについても、合宿中だけ行うのではなく、それぞれの所属クラブに戻っても継続的に行うため、正しい姿勢のレクチャーを受ける。それに加え、礼儀や挨拶などの指導も行い、一人の人間としての成長も促している。

SS合宿の効果

五輪代表権を獲得した中高校生5人は、このSS合宿に参加し、トレーニングを積んできた。「SSは他のクラブの選手と練習できるので、どんな練習をしているのかなど勉強になっています」とは池江の言葉だ。背泳ぎの酒井は「SSはきついけど楽しい。みんなで頑張ろうと思える」と話し、個人メドレーの今井は「普段は短水路(25m)で練習しているので、月1回長水路(50m)で練習できるのは嬉しいです。SSがあって、調子が良くなったのはあります。同世代の選手と練習できて楽しいです」とSS合宿の存在に感謝する。SS合宿に参加する選手たちの目指しているものが「五輪」と明確に掲げられていることで連帯感を生み、質の高いトレーニングができていると言える。

「絆」は、最大のエネルギー

今大会、中高校生トップバッターで五輪代表権を獲得した池江は、「同世代の絆はあります。涼香のレースで感動しました。自分の100mバタフライより感動して泣きました。そのあと(今井)月が決めて。もう泣きました。同世代が代表チームに入ってくれると心強いです」と同世代の存在の大切さを教えてくれた。持田は「五輪の代表権をとれたのは嬉しいですが、璃花子も月も涼香も個人種目で私はリレーだけです。来年からは個人の派遣標準記録を狙いたいです。同世代がこういう大きな試合でいい結果を出すと、心強いし、勢いを感じます」と、同世代間での切磋琢磨も生まれている。水泳は個人競技だが、仲間との繋がりによって助けられ、励まされることもある。この絆が、最後の最後、極限の緊張感の中で、最大のエネルギーに変わる。

今後の若手強化

日本水泳連盟が進める若手強化策は、着実に実を結び始めている。しかし日本水泳連盟強化本部長の上野広治氏は「(五輪代表権を獲得した)5人が定期的に顔を合わせられることで連携がとれているが、それをもっと底辺まで広げていかなければいけない。2年目が終わって、ここでもう一度、強化のテコ入れをしなければいけない」と厳しい表情で語り、SS合宿に参加する中高校生の奮起に期待していた。

リオデジャネイロ五輪開幕まで、116日。どこまで若手が躍進するのか。その後の成長と共に見守りたい。