買い物などで人混みに出かけて帰ってくると「頭が疲れた」と感じることがあります。

この「人混み頭疲れ」現象には、頭の中の情報処理が関係します。

我々は、人の動きや物音など、外部の刺激に自然と注意が向く働きを持っています。この働きは、外から発せられる刺激で注意が制御されるため、「外発的な注意制御」といいます。

人混みには、人がたくさんいて、それぞれ行きたい方へ歩いたり、誰かとしゃべったりしています。そうした外部の刺激が、我々の目や耳を通して、頭の中にたくさん入ってきます。

つまり、人混みは、外発的な注意制御が働きやすい環境なのです。

したいことがあるほど疲れる

「人混み頭疲れ」現象に関わるもう一つの要因は、能動的な注意制御です。

文献1によれば、ある刺激が画面上に表示されても、そこを反射的に見ないよう抑え、意識的に目を刺激と反対側に動かす能力は、ワーキングメモリの容量が関係しているとされます(p30)。

ワーキングメモリとは、頭の中にある、刺激や情報を扱う(処理する)ための机のようなものです。

例えば、こんな場面を想像してみて下さい。

あなたが自分の机で集中して作業していると、次から次へと無関係な書類などが、あなたの机に放り込まれてきます。あなたは、いちいちそれらを机からどけて、作業を続けなければいけません。

人混みで目的地を目指して進むのは、このような場面と似ています。

人混みに出かける場合、例えば買い物をしたい、イベントに参加したいなど、何かしたいこと(目的)があるものです。

一方、人混みからは不要な刺激が入ってきます。

不要な刺激が割り込まないよう抑え、目的に注意を向け続けなければなりません。

このように目的に注意を向け続けることを、能動的な注意制御といいます。

机に放り込まれる書類をどけながら作業をすると次第に疲れがたまるように、能動的な注意制御を続けると、頭のバッテリーを消費します。

「人混み頭疲れ」現象を頭の中の情報処理という観点から考えると、人混みで外発的な注意制御が働かないようにしつつ、目的へ能動的に注意制御し続けなければならないということになります。

それを目的地まで続けて、頭のバッテリーを消耗してしまうことが、「疲れ」の背景にあるといえそうです。

力が発揮できないのは外発的な注意制御のせい?

「人混み頭疲れ」現象の背後にある仕組みは、人前で自分の力を発揮しにくい問題とも関係します。

例えば、技能五輪全国大会で選手が力を発揮できないケースでは、外発的な注意制御が働き、本来は自分のスキル発揮に使うべきワーキングメモリが使えなくなっているのでは?と思われる現象があります。

その結果、本来しないミスをしてしまうことがあります。

こうした問題は、技能五輪だけではなく、例えば重要なプレゼン、就活や転職の面接、資格試験や大学受験など、我々の日常でも起こります。

そういったときの対策として、技能五輪の例では、完璧に集中することを求める選手よりも、「まぁこんなものだ」といったように外発的な注意制御が働くのは当然と考えます。

そしてそうなったときに能動的な注意制御をする、つまり再び自分がやるべきことに集中するというトレーニングを行います。

プレゼンや面接ならば伝えるべきメッセージ、試験ならば目の前の問題文や持っているペンから伝わる感覚などに集中すると、頭が疲れた中でも、最低限の力を発揮するには効果的です。

人混みでは頭が疲れるもの

人混みで頭が疲れるのはなぜかを、注意制御の点から考えてきました。

人の動きに自然と注意が向く働きを外発的な注意制御の中で目的地に向かうためには、能動的に制御する必要があり、頭のバッテリーを消費します。

この仕組みが、「頭が疲れた」と感じる正体の一つで、誰にでも起こる上、避けがたい面もあるので、「まぁこんなもの」と思う気休めが、多少の疲労感を和らげてくれます。

引用文献

1.原田悦子, & 篠原一光. (2011). 現代の認知心理学 4―注意と安全. 日本認知心理学会 (監修), 北大路書房, 京都.