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ガンダムはスタジアムスポーツになれるのか(MegaBots CEOインタビュー)

後藤陽一株式会社Pioneerwork 代表取締役
今日11:00、総重量18.5tのロボットの戦いが世界に公開された

アメリカで「MegaBots」と名乗る巨大ロボットとその制作チームが日本の「クラタス」にYouTubeの動画で戦いを挑んだのは2015年6月。すぐにクラタスの作り手である水道橋重工も動画でそれに応戦。本気でSFの世界の戦闘用巨大ロボットを現実にしようとしている2つの国のチームのインターネット上でのやり取りは大きな話題になり、動画の視聴回数は合計1200万回に達した。

その後もMegaBotsは2代目、3代目のロボットをYouTubeで発表。2017年4月には中国から新たなライバル「Monkey King」も出現した。

本日、10/18 日本時間11:00、MegaBotsとクラタスの対戦がついに世界に公開された!

世界中のファンが待ちに待った対決の結果はぜひ動画を見ていただきたい。

先月、忙しく準備に奔走していたMegaBotsのCEO、Gui Cavalcantiにインタビューした。彼の頭のなかにある世界は、ガンダムや鉄腕アトムの世界であり、未来の新しいライブエンターテイメントの姿だった。

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Gui Cavalcanti

Co-Founder & CEO of MegaBots, Inc

大学卒業後、Alphabet Inc.の子会社で、ソフトバンクが買収したロボットベンチャー、ボストン・ダイナミクスでメカニックエンジニアとして勤務。その後メイカースペースや、6足歩行の大型ロボット制作など複数のプロジェクトの立ち上げを経て2014年にMegabotsを創業。

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ガンダム好きがロボットエンジニアに

後藤:MegaBotsをはじめて見た人はどんな反応をするんでしょうか?

Gui:いつもアニメや映画で見ていたようなロボットが現実になるというのは、誰も想像していなかったことなので、最初はみなものすごく驚いて、その後に大声を出して笑い、最後に「ありがとう」と言ってくれます。(笑)

「夢を現実にしてくれてありがとう」と泣きながら言ってくれる人もいました。

後藤:MegaBotsのアイデアを最初に思いついたのはいつ頃なんですか?

Gui:今思うと、MegaBotsのプロジェクトは僕が小さい子供のときから始まっていたんだと思います。「ガンダム」とか「Robotech」、「トランスフォーマー」のようなロボットSFの映画やアニメが大好きで、「MechWarrior」というロボットを操縦するシューティングゲームをいつもやっていました。

とにかく大きなロボットが好きだったので、高校生のときにもう将来はロボットエンジニアになろうと決めていました。大学はロボティクス工学専攻に進み、バイオミメティクス(生体模倣設計学)という分野を専門に勉強していました。これは人間や犬といった動物の動きをロボットで再現する研究分野です。実際、現代のロボットを動かす技術の中には、自然界に存在するものの動きからヒントを得たものが多くあります。

ロボット工学の世界にどんどんのめり込んでいったところ、大学の先生がボストン・ダイナミクスに就職することを勧めてくれ、卒業後すぐにメカニックエンジニアとして働き始めました。ボストン・ダイナミクスでは、後にシステムデザインエンジニアの仕事もやって、有名なBigDogプロジェクト(下動画参照)など、いろんなプロジェクトに関わることができました。

トップシークレットではなくエンターテイメントを作りたい

Gui:ボストン・ダイナミクスのロボットには間違いなく世界最先端の技術が使われていて、デザインも美しく、本当に生きているような動きをしていました。

しかし、アメリカの最先端のロボットエンジニアリング技術というのは、最終的には軍事産業への転用を目的としています。どれだけ素晴らしいプロトタイプが出来ても、そこに使われている技術やロボットのアクションが一般の人の目に触れることは決してありません。

ボストン・ダイナミクスの仕事はとても楽しかったのですが、全てが秘密裏に進む世界にいつづけることが、本当の意味で社会的に意味のあることをしているように、僕には思えなかったんです。

後藤:確かに、ガンダムのように多くの人の心を動かすようなものとは違うかもしれません。

Gui:はい。それで4年間働いた後、ボストン・ダイナミクスを辞めることにしました。

ただ、ロボットエンジニアリングの世界からは離れたくなかったですし、子供の頃からずっと自分のインスピレーションになっていた、「SFエンターテイメントに出てくるようなロボットを作る」ことに対するモチベーションは失われていませんでした。

もう一度自分と向き合って、「何が自分にとって大切なのか」「人生の次のステップをどうするか」をじっくり考えるために、2012年に一度大学に戻ってエンジニアリングの授業で教えることにしました。教鞭をとりながら、また子供の時のようにロボットが主人公のアニメとか映画を観て、ゲームをやっていたんですが、ある時ふと「今ならこういったSFの世界に出てくるロボットを現実に出来るんじゃないか」「武器じゃない、エンターテイメントのための「戦うロボット」を作れるんじゃないか」と思ったんです。

どういった技術を組み合わせてアイデアを実現すればいいか分からなかったので、まずは趣味として、仕事の合間にロボットのパーツを一つずつ作っていくことにしました。SFの世界のロボットの動きと、それを実現するために必要なテクノロジーのリサーチを何度も行ったり来たりしながら、油圧システムで動くロボットの腕、蛍光インクが入ったボールが飛び出すキャノン砲、とか、そういうものを2年位、いろいろと作っていました。

bostonglobe.com
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「巨大なロボットを作ってる」とは恥ずかしくて言えなかった

Gui:僕がロボットのパーツを作っていた場所は、僕自身が仲間と一緒に立ち上げたメカニカルエンジニアやいわゆるMakerのための工具やツールが置いてあるコワーキングスペースだったんですが、ある時エンジェル投資家がそこにやってきて、何か面白いプロジェクトをやっている人はいないか、と僕に聞いてきたんです。

正直、「SFの世界のロボットを現実に動かそうとしている」と言っても冗談だと思われると思ったので、恥ずかしくて最初は言いませんでした。自腹で200万円以上も使って、巨大なロボットの腕とか足のプロトタイプを真剣に作ってる人なんて、僕も聞いたことがありませんでしたから。(笑)

投資家の人には巨大なロボットをパーツだというのは言わず、 そこらじゅうに散らばっていた部品を別々に説明しました。「この電気系統は建設機械に使えるかも知れません。」「こっちの油圧アームは△△のテクノロジーを応用していて、○○に使えるかも知れません。」といった感じで。

運営するMakerスペース「Artisan's Asylum」 (C)Chris Devers
運営するMakerスペース「Artisan's Asylum」 (C)Chris Devers

ただ、現実には電気で動く建設機械、例えば電動のパワーショベルのようなものは、建設業界では今は全く需要がありません。なので、その投資家の人は一通り僕の説明を聞いたあと、「これは何のために作ってるんですか?今のままでは何のビジネスにも使えないですが、あなたが“何か”特定の目的のためにこれに取り組んでいるのは明らかにわかります。」と逆に聞き返してきたんです。(笑)

その瞬間、自分でも、一緒にやっていた仲間の間でもまだ半信半疑だったことが一気にクリアになった気がしました。僕は、「実は、巨大な戦うロボットを作ろうと思っています」と彼に言いました。

後藤:そこからMegaBotsが本格的に始まったんですね。

Gui:そうです。そこで投資家の人に、MegaBotsのコンセプト画を見せて、改めてそれまで作ってきたプロタイプについて説明し、投資をしてもらえることになり、共同創業者のMattと一緒に2014年に会社を立ち上げました。まだ100%このコンセプトが事業になるのかどうかは分かりませんでしたが、子供の頃からずっと夢だったことに挑戦できることにとてもワクワクしていました。

後藤:共同創業者のMattはどんな方なんですか?

Gui:Mattはデトロイトで僕と同じようにMakerスペースを運営していました。

会社を立ち上げることが決まった時、すぐMattに電話して「今すぐボストンに来てくれ」と言うと、3週間後には引っ越してきてくれました。(笑)

彼は私と同じく、ロボットエンジニアリングの世界では非常に数が少ない油圧系統の専門家で、かつ、私がメカニック、Mattが電気系統とソフトウェアという、強みを補完し合った最高のコンビだったのです。

エンジニアリングの世界に感じていた課題も同じでした。僕もMattも以前、 ディスカバリーチャンネルの「The Big Brain Theory: Pure Genius」という番組に出たことがあります。これは2つのエンジニアのチームが与えられた技術的課題に3日間取り組み、プロダクトのクオリティを競うという番組です。実際に出てみて、テクノロジーやエンジニアリングの世界を世の中の人に広く理解してもらい、楽しませる「見せ方」にはもっと良い方法があるのではないかと感じていました。

MegaBotsのメンバーは、エンジニアも含め全員が「エンターテイナー」です。単純にものづくりをする会社ではありません。

赤い服が共同創業者のMatt
赤い服が共同創業者のMatt

ロボットを作る会社ではない

後藤:最近はドローンレースなど、新しいテクノロジーを使ったエンターテイメントが登場しています。「エンジニアリング」と「エンターテイメント」の間で事業を定義するのはとても難しいと思いますがMegaBotsは会社として事業をどのように定義していますか?

Gui:それはとても重要なポイントで、僕たちも会社を立ち上げるときにたくさん議論をしました。

僕たちはMegaBotsを「Entertainment Company Making Robots」と定義しています。これが逆になって、「Robotics Company Making Entertainment」となると全く意味が違ってきます。

後者であればMegaBotsはロボットの会社になり、全ての活動は高性能のロボットを作るために行われ、エンターテイメントの部分はあくまでサイドワークとして位置づけられますよね。

しかし、エンターテイメントが事業のコアであれば、毎日の問いは自然と「このロボットのアクションはどのように撮影すればよいか」「どうすればカッコよく見えるか」「観客は気に入ってくれるか」というものになります。

MegaBotsが作っているのは「新しいスポーツ」で、事業活動の先に、ファンがロボットのポスターを部屋に貼ってくれるような世界を見据えていなくてはいけません。ロボットを作ることはその手段であって、ロボットSFが大好きな人達がそれぞれに持っている夢の世界を実現させることがMegaBotsの目標です。

世の中に存在するたくさんのプロジェクトが、長い開発期間の末に全く誰にも知られないまま終わっていきます。友人の自動車のプロジェクトでは開発していた車は結局どこにも行けずずっとガレージの中にありましたし、ロボットベンチャーがプロダクトの存在を誰にも知られないまま会社を終えることは珍しくありません。

普通のロボットベンチャーは、プロトタイプが完成したら写真を撮ってインターネットにアップするくらいで、他には写真も、動画も、きちんとしたものはほとんど残さないため、10年経った後にはそのプロダクトが存在した証拠すらほとんどありません。

繰り返しますが、MegaBotsはエンターテイメントの会社で、スタートした瞬間からプロダクトのストーリーに焦点を当てています。製作過程でも常に「どこをどのように撮影しておくべきか」「写真や映像を残しつつ、製作期間を遅らせないためにはどうすれば良いか」を考えながら作業を進めます。開発と撮影、エンジニアリングとエンターテイメントの間のベストなバランスを見つけるために今も試行錯誤しています。

MegaBotsのコックピット
MegaBotsのコックピット

「SFのライブエンターテイメント」の市場ポテンシャル

後藤: ビジネスとしてのマーケットポテンシャルはどのように考えているんでしょうか?

Gui:「巨大ロボットが戦うライブエンターテイメント」にどのくらいの市場規模があるかは、SFエンターテイメントとスポーツビジネス両方の数字を参考にしています。なぜならMegaBotsはその両方の側面を備えているからです。

MegaBotsはまず、トランスフォーマーなど多くのSFコンテンツと同じように、映画館でのチケット販売やおもちゃの販売といったマーケットを取りに行けます。トランスフォーマーはこれまで映画で累計約5000億円の興行収入を得て、おもちゃのセールスも累計1000億円は下らないと言われています。

これに加えて、MegaBotsはスポーツイベントのようなスタジアムでのライブイベントのチケット販売が出来ます。現在最大規模のテクノロジースポーツであるF1の興行的な成功を見れば、危険と隣り合わせの勝負が作るライブエンターテイメントが大きなビジネスになるのは明らかです。

MegaBotsの構想を始めてからの3年間、ずっと自分たちに問いかけてきたのは、「MegaBotsはSFとライブエンターテイメントの両方の市場を取り込めるのか」ということでした。僕は、テクノロジーの進化がいま、それを可能にさせると考えています。

MegaBotsがイメージするスタジアムスポーツ(startupers.com)
MegaBotsがイメージするスタジアムスポーツ(startupers.com)

航空・建設・工作の最新技術の集合体

後藤:具体的には何のテクノロジーの進化が、MegaBotsのプロジェクトの実現を可能させているのですか?

Gui:MegaBotsを作るためには、複数の業界におけるイノベーションを集約させなくてはいけませんでした。特に、航空機と、建設機械と、工作機械のテクノロジーです。

例えば、人間で言う筋肉に相当するMegaBotsのバルブアクチュエータは、超精密に油圧を調整出来ますが、数年前にリリースされたばかりの最新の工作機械の技術を応用しています。

MegaBotsの足回りは建設機械のパワートレインシステムを使っていますが、建設機械の技術でこれほどのパワーが安定して出せるようになったのはほんとうに最近のことです。

それから、搭載しているソフトウェアはアメリカ国防総省(DARPA)の機関が主催する災害救助用ロボットコンテスト「DARPAロボティクスチャレンジ」で2015年に開発されたものをベースにしています。いまこれを使ってMegaBotsを2足歩行させるための技術も開発しています。他にも一部のセンサーには航空機で使われているものを使用しています。

コックピット
コックピット

MegaBotsを1台作るだけでも大変なチャレンジですが、僕たちが目指しているのは、何十台も同レベルのロボットを作れて、悪天候の中でも動作のクオリティが落ちないロボットです。そのレベルに到達しなければ、F1のような「ライブエンターテイメント」は作り出せません。あらゆる業界の機械の最新メカニクスを研究していて、既に10数台のロボットを作ることが出来る技術レベルには到達しています。

後藤:例えばドローンレースは今「スポーツ」として世界中でイベントが開かれる様になっていますが、ドローンはアメリカではおもちゃ屋で20ドルで売られていて、子供でも買って遊ぶことが出来ます。それに比べると、ロボットバトルはまだ「スポーツ」になるまでに大分時間がかかりそうな気がします。

Gui:確かに、対戦用巨大ロボットの値段が20ドルになることは無いかもしれませんが、MegaBots の制作コストは既にF1マシンや、ボストン・ダイナミクスで僕が作っていたヒト型や犬型のロボットよりは安いわけです。

これは、技術革新によって建設機械や工作機械として何百万個も生産されるコモディティパーツの品質が、MegaBotsを動かすのに十分な性能を備えるようになった証拠です。このまま技術の進化が進めばまだまだ製造コストは下がってくるはずです。

MegaBotsのキャタピラ(elchapuzasinformatico.com)
MegaBotsのキャタピラ(elchapuzasinformatico.com)

“ロボットのF1”から生まれるイノベーション

後藤:F1でメーカーがスピードを競うことで、自動車はいろんな部分で進化したと思います。MegaBotsのイメージする世界で、一番強いロボットを目指してチームが競うことで、どんなイノベーションが起きると思いますか?

Gui:F1レース用のマシンは、各メーカーにとって最新のテクノロジーのテストプラットフォームです。「もっとパワーを出すには」「動力効率を上げるには」。最新のテクノロジーをテストしてF1でフィードバックした結果が市販車に還元されます。これは、F1という舞台があって、そこで勝つことに対する価値が認められているからこそ起こる競争であり、イノベーションです。

MegaBotsが自動車で言うF1のように最強のロボットを決めるトーナメントになれば、同じように「勝つ」ためのイノベーションが起きます。

勝つためには、ロボットにパイロットの動きを速く正確に伝え、パイロットの安全を守り、かつ連続して戦うためにコストも下げなくては勝てるロボットにはなれません。

例えば、右ストレートを打つ動作を考えてみましょう。パイロットが右手を前に出すモーションをした後、MegaBotsの右手がそれに連動して振りかぶり、実際にパンチを繰り出すまでに0.5秒の遅れがあるとします。パイロットが右手を伸ばしきった後に遅れてロボットが回転してパンチすると、コックピットとパイロットの体が揺れて、コントローラーがぶれて制御が効かなくなり、次の攻撃が繰り出せません。ロボットが勝つ可能性を高めるには、パイロットの動きと実際のロボットの動きのタイムラグをゼロにするイノベーションが必要なのです。

このようなイノベーションが生まれたら、産業機械のテクノロジーに転用できる可能性があります。例えば、パワーショベルが掘削工事をしている際に、運転手の動きとショベルのアームがタイムラグゼロで連動していれば、掘削作業はもっと速く進めることが出来るでしょう。災害時に大きな瓦礫を除去するためのロボットにも、MegaBotsのテクノロジーが応用出来るかも知れません。このように、「巨大ロボットバトルで勝つことを目標にするからこそ生まれるイノベーション」というのが存在すると思っています。

後藤:なるほど。

Gui:良いロボット企業には全て、強みのある領域があります。

例えば、家庭用掃除ロボットのルンバや、軍事や災害時の無人探査に使われるPacBotというロボットを作っているiRobot社は、「不整地でも安定して走行出来る小型の電動ロボット」を作るのが得意です。同様に、「水中での動作に強みを持つロボット」を作る企業もありますよね。

MegaBotsのチームは、「約5-10トンの重量で 素早く動く電動ロボット」が得意です。この領域で培われたハード・ソフトの「強み」が、災害時など他のシチュエーションで役に立つ可能性は十分あると考えています。

MegaBotsのやっていることを見て、「ただの遊びだ」と言う人もいますが、それは正しくもあり、間違ってもいます。日常生活には全く関係のないところで生まれた技術がはたくさんあるからです。GPSは軍事技術から来ていますし、宇宙技術開発の中で生まれた素材は衣服などに利用されています。

世の中が良くなるのはいつも、誰かが何かにチャレンジした時で、人がチャレンジして競い合う環境があって初めて世の中が良くなります。「時速300kmで走る車なんて化石燃料の無駄使いだ」とF1を批判する人もいますが、車の限界に挑戦する仕組みと環境を作ったことで、自動車に関連するテクノロジーが大きく進化したのは紛れもない事実なのです。

MegaBotsのチャレンジを現時点では理解できない人がいるのは仕方ありません。確かに、機能がパンチや砲撃しか出来ない巨大なロボットを開発するのはバカバカしいように思える人がいるのも当然ですし、実際、MegaBotsに使われている技術はまだ実社会においては需要の無いものですから。僕たちの役割は、先駆者としてやり続けることだと思っています。

しかし、エンターテイメントはカルチャーを作って、カルチャーは人を動かします。アメリカにはこれまでも、MythbustersとかJunkyard Wars、Battlebotsといった、ロボットや機械を作って戦わせたり、何かにチャレンジさせるテレビ番組がありました。僕がそれを見てエンジニアになったように、本当にカッコいいエンターテイメントには、人はインスパイアされるはずです。

MegaBotsを見て子どもたちが「もっとすごいのをつくってやる」と言ってくれるようになったら、素晴らしいことです。

後藤:まさにMegaBotsとクラタスに刺激を受けて、中国も参戦してきましたね。

Gui:はい。「俺のほうが強くてクールなロボットを作れる」というエンジニアにはどんどん僕たちにチャレンジしに来てほしいです。

アメリカ、日本、中国、全てロボットに対する考え方が違うのはとてもおもしろいです。クラタスは、より人型のデザインを大切にしているので頭のパーツがありますが、MegaBotsにはコックピットはあっても頭はありません。

今後、ドイツのロボットとか、イギリスのロボットとかが現れた時にそれぞれどんなデザインになるかとても楽しみです。

F1では「勝つこと」と「速いこと」が同義なので、マシンのデザインからは自然と無駄が削ぎ落とされ、基本的には全て同じ構造になります。でも格闘技の数が国の数と同じかそれ以上にあるのと同様に、ロボットバトルで勝つ方法は、倒す、腕を掴む、コックピットにペイントボールを打って視界を奪う、など、いろんなやり方が考えられるので、チームの個性がF1よりもずっとマシンに現れると思うのです。

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エンジニアしか楽しめないコンテンツは広がらない

後藤:いろんなチームが勝つためにいろんなデザインや戦略を採用すると、スポーツとしてのルールを定めるのが難しい気がします。

Gui:そこはこれまで僕たちが一番議論を重ねてきたところで、結論から言えば、エンターテイメントとしてのロボットのバトルは、2本の腕があって直立に立つ人型ロボットでなくてはいけないと思っています。

本当に「勝つ」だけを追求してしまうと、実は戦車の形に行き着いてしまいます。しかし、装甲車同士が体当りしてぶつかり合ったり、くさびのようなものを相手の下に潜らせてすくい上げるようにして相手をひっくり返すのは、エンターテイメントとして全く面白くありません。

アメリカのテレビの人気番組で、BattleBotsというロボットバトルのショーがありますが、結局勝つロボットはみな前方にくさび型のエッジをつけて相手をひっくり返す形ばかりになってしまい、見ている方は面白みに欠けました。

エンジニアの観点で「勝ち」を追求することと、観客の目からみて「面白い」かどうかは必ずしも一致しないのです。観客が退屈してしまったらその時点でエンターテイメントとしては終わりです。

MegaBotsはエンジニアリングの会社ではなく、エンターテイメントの会社なので、優先順位は第一に見ている人に楽しんでもらうこと。多くの人が子供の頃から夢見ていたSFの世界を現実のスポーツエンターテイメントにすることが僕たちのゴールです。

過去50年のSFエンターテイメントの世界ではガンダム、トランスフォーマー、鉄腕アトムなど、常に主役は人型で2本の腕を使って敵と戦っていました。なので、MegaBotsに参戦するロボットは戦車ではなく人型のロボットでなくてはいけません。今のMegaBotsは足がキャタピラになっていますが、将来的には2足歩行にしなくてはいけないと思っています。

後藤:ロボットのバトルと言う意味では、人工知能を搭載した無人の自動車がスピードを競う「Roborace」も海外では話題になっていますよね。

Gui:人工知能同士で戦うレースがエンターテイメントとして面白いかどうかは、ちょっと疑問です。

BattleBotsも、コントローラーで操作してロボット同士が戦いますが、各試合の最後には負けた方のロボットの部品がバラバラに飛び散って終了です。パイロットにも、スポーツのトップアスリートが見せるほどの感情表現はありません。

Roboraceのように、人工知能を積んだ機械同士を戦わせるだけでは、F1レースのドライバーが限界に挑む時に見せる感情やその人のストーリーに勝るエンターテイメントは出来ないと思います。 スポーツで競うのはあくまで人であって、機械ではありません。よく、「MegaBotsのコックピットに人を載せて戦わせるなんて危ないから、リモートコントロールにしたほうが良いのでは」と言われますが、そうしてしまったら巨大ロボットの戦いなんてYouTubeの面白い動画の一つでしかなくなってしまいます。

確かに、パイロットがロボットの中に乗っているのは危険であり、安全には十二分に配慮しなくてはいけません。でも人が中にいて戦っていれば、それを見ている人はハラハラしてパイロットを心配(=Care)します。見ている人がパイロットを心配したら、僕たちの勝ちです。(笑)

見ている人が結果がどうなるかを心配しながら見るというのが、エンターテイメントの本質だからです。

後藤:全くリスクのないスポーツというのは存在しませんからね。

Gui:そうです。アメリカで総合格闘技(UFC)が出てきた時、世論の中には「人の体を壊し合うスポーツを観戦する行為は果たして合法なのか」という議論まで起きました。しかし、そうやって観客を他のどのスポーツよりもハラハラさせる事ができたのが、UFCが近年アメリカで最も早くメジャースポーツの一つになった要因です。見ている人が本気で心配するというのは、その人が強い興味を持って見ている証拠だからです。

エンジニアから見るとBattleBotsもRoboraceも最高のエンターテイメントですし、僕もBattleBotsを見るのは大好きですが、MegaBotsは「ロボットが戦うスポーツ」ではなく、「人がロボットに乗って戦うスポーツ」にならなくては、多くの人が求めるエンターテイメントにはならないと思っています。

後藤:「人が戦う」ところにエンターテイメントの本質があるというのはとても面白い視点だと思うのですが、どうやってそのことに気づいたのでしょうか?

Gui:それは、僕たちが既存のSFエンターテイメントのコピーをすることからスタートしたからだと思います。ガンダムでも、アメリカのロボットのアニメのVoltronでも、人が中に乗るタイプですし、トランスフォーマーや鉄腕アトムはそれ自体がキャラクターとしてストーリーの一部になっていますよね。僕が知っている限り、成功したロボットSFは全て人が戦っていましたから。

日本にはクラタス以外にもMegaBotsのリーグへの参戦に興味があると言ってくれているチームがあります。それから、日本にはたくさんのロボットアニメがありますから、それらのキャラクターやストーリーを、MegaBotsのテクノロジーで現実にしてみたいですね。

2018年中にはMegaBotsのライブショーを見せられるようにしたいと思っているので、2020年の東京オリンピックで、鉄腕アトムとかガンダムのような日本のロボットが実際にスタジアムで戦うショーを世界中に見せることが出来たら、最高ですね。

株式会社Pioneerwork 代表取締役

電通を経て、フリーライドスキー/スノーボードの国際競技連盟Freeride World Tour(FWT)日本支部マネージングディレクター、2019年11月に株式会社Pioneerwork創業。日本が誇るアウトドアスポーツカルチャーとそのフィールドの価値を爆上げすることをミッションにしています。ヤフーニュース個人では山岳スポーツ・アクションスポーツ・エクストリームスポーツをカバーします。

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