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Tencent担当者インタビュー「中国でゲームがeSportsと呼ばれるまで」

後藤陽一株式会社Pioneerwork 代表取締役
2016年に行われた賞金総額22億円の大会(foreignpolicy.com)

世界のeSports市場概要

「eSports」は、エレクトロニック・スポーツの略であり、チームや個人がビデオゲームで対戦し、勝敗を競う“スポーツ”のことである。

日本ではまだ、ゲームの業界は(ほぼ)任天堂やSONYなどのゲームコンソールメーカー、バンダイナムコやCAPCOM、GreeやDeNA、mixiやガンホーといった、スマホアプリを含むゲームソフト開発の企業など、ゲーム自体の販売・課金から収益を上げる企業のみでそのエコシステムが形成されているが、アメリカや中国、そして韓国といったeSports先進国では、全くゲームと関係のない企業がチームを持ったり、巨大なアリーナで行われるイベントのスポンサーになったり、米では最大のスポーツチャネルESPNがイベントの放映権を購入している。

海外ではeSportsという言葉が一般的に使われるようになり、既に「ゲームはスポーツなのか?」「そもそもスポーツの定義は何なのか?」という議論まで起こっている。筆者個人の意見としてはスポーツを「決められたフィールドとルールの中でパフォーマンスを競うゲーム」だと考えれば、eSportsはバーチャルなフィールドで非常に複雑なスキルを競う、立派なスポーツである。チェスや将棋、囲碁などと同種類の「マインドスポーツ」の1つだと考えれば分かりやすいだろう。

リサーチ会社のNewzooによれば、eSportsの市場規模、すなわちゲームそのものの販売・課金以外のところで生まれている「スポーツとしてのビデオゲーム」の市場規模は、2017年に世界で$696million(≒700億円)に達するとみこまれており、前年比で +41.3%成長、2020年には$1488million(≒1670億円)まで成長すると予想されている。

下の図がその市場規模の内訳で、現状では選手やチームへのスポンサーシップが最大の収入源となっていることが分かる。同レポートでは今後イベントの放映権が大きなマーケットになっていくことが予想されている。

・イベントの放映権(MEDIA RIGHTS)

・イベントにおける企業広告(ADVERTISING)

・選手やチームへのスポンサーシップ(SPONSORSHIP)

・チケットやグッズの販売(MERCHANDISE & TICKETS)

・ゲームタイトルの販売会社からの資金(GAME PUBLISHER FEES)

Global Esports Market Report 2017
Global Esports Market Report 2017

eSportsが「スポーツ」の新しいジャンルとして急速に成長している理由は、格闘ゲームやシューティングゲーム、カードゲーム、サッカーゲームなどにもともと存在した「対戦する」という要素に、

  1. グラフィックの進化
  2. PC・スマートフォンで不特定多数といつでもプレー出来るようになったこと
  3. ゲーム配信プラットフォームの拡大

の要素が掛け合わさったためである。

特に 3 によって「プレーはしない人もゲーム配信を視聴する」という新しい楽しみかたが生まれたことが、近年のeSportsの成長を加速させている。eSports(ゲーム)の配信はカメラなどの撮影機材等が必要なく、プレー・コンテンツ制作・配信を全て個人がオンラインで完結できるのが、他のスポーツと最も違うところだ。一人で、自分がプレーしている画面のスクリーンショットを配信するだけでプレー動画コンテンツが作れるので、大量のゲーム動画コンテンツがシェアされ、ゲームをしない人にもリーチし、コミュニティが拡大している。

「オンラインゲーム配信」は既に動画コンテンツとして1つの大きなジャンルを形成している。ゲーム配信専門のプラットフォームとして現在世界最大のサービスTwitchは、2014年にAmazonが$970million(≒1000億円)で買収し、中国・韓国でも同様のサービスが存在する。Youtube、Facebookなどの動画配信プラットフォームもeSportsに力を入れ始めている。

参考記事:

YouTubeがeSports最高峰のリーグ「ESL Pro League」の独占放送契約を締結(2017)

FacebookがBlizzardエンターテイメントの「Heroes of the Storm」のeSportsイベント独占放送権をESPNから獲得(2017)

Heroes of the Stormゲーム画面(gamewatcher.com)
Heroes of the Stormゲーム画面(gamewatcher.com)

現在のeSportsのタイトルは、PC向けゲームが中心だが、スマートフォンのeSports向けゲームタイトルも増えており、こちらも大きな大会が開催されるようになっている。

ゲームタイトル別に見ると、eSportsにおいて(圧倒的に)世界で最も人気のあるタイトルが、アメリカRiot Games社の「League of Legends」で、なんと一ヶ月あたり1億人がゲームをプレーしていると言われている。他のスポーツと単純な比較をするのは適切ではないかもしれないが、世界のサッカーの競技人口が約2.5億人、テニスの競技人口が約1.1億人と言われているところから、その規模をイメージしていただきたい。

また、世界のeSportsトップ選手の年収がこちらのサイトで集計されているが、ここに載っているだけでも$1million(≒1.1億円)を超えるプレーヤーが30人以上存在する。上位選手の殆どがプレーしているゲームのタイトル、「Dota 2」は、世界大会の賞金総額が最も大きいeSportsで、2016年にアメリカのシアトルで行われた5人チームで戦い世界一を決める大会の賞金総額は$20million (≒22億円)、優勝した中国の「Wings Gaming」というチームには$9.1million(≒10億円)が支払われた。スタジアムには5万人以上の観客が詰めかけたという。

参考までに、いま行われているテニスのウィンブルドン2017年大会の全種目賞金総額は39億円だ。

「Dota 2」2016年世界大会決勝の様子(esports.yahoo.com)
「Dota 2」2016年世界大会決勝の様子(esports.yahoo.com)

急成長する中国eSportsの歴史と変遷

eSportsのビジネスポテンシャルを語る上で欠かせない国が、その市場規模で見てアメリカに次いで世界2位の中国である。

E-sports Content Ecosystem in China 2016
E-sports Content Ecosystem in China 2016

左のグラフは中国のeSportsのプレーヤーの数とその伸び率、右のグラフは大会やプレーヤー同士の対戦をオンラインのライブストリーミングで視聴する人の数とその伸び率である。(2015年以降は予測値)

中国に注目すべき最大の理由は、2017年には2億人を超えると予測されている、急速に成長するプレーヤーコミュニティが存在することだけでなく、深センに本社のあるTencentが多数の大規模eSportsタイトルを持つ、世界最大のeSportsの企業だからである。

下の表はTencentが持つ主なサービスと子会社のリストである。(出所

左端から社名・株式保有率・業種・月間アクティブユーザー数となっている。

画像

Tencentは時価総額30兆円を超える世界トップ10の大企業で、それぞれ8億人を超えるユーザーを抱えるインスタントメッセンジャーの「QQ」と「WeChat」のサービスが日本でもよく知られている。

しかし、Tencentが上述した世界最大のeSportsのゲームタイトル「League of Legends」を運営するRiot Gamesを2015年に100%子会社とし、モバイルゲームのカテゴリでは世界最大級のeSportsのゲームである「Clash Royale」を運営するSupercellの株式の84%を保持している(ソフトバンクが2016年に7700億円で売却)世界最大のゲーム会社であることは日本ではあまり知られていない。

Tencentは昨年12月に、7つの大きな部門の中でゲーム運営などを担当する最大のグループ、Interactive Entertainment GroupにeSportsの専門部署「Tencent E-sports」を新設、今年6月には今後5年間で$15billion(≒1.7兆円)をeSportsに投資し、eSportsのテーマパークも建設する計画を含むことを発表した。(ちなみに、1年あたり$5billionという投資規模は、上で紹介したNewzooが予測する2020年時点のeSports市場規模をTencent 1社で超えている)

日本ではほとんど知られていない、中国のeSports事情について、TencentのeSports担当者にインタビューをすることが出来た。匿名希望だったので、Aさんとさせて頂きたい。

Tencent担当者インタビュー「中国でゲームがeSportsと呼ばれるまで」

後藤:日本ではまだ、ゲームは「ゲーム」であり、「スポーツ」とは認識されていません。

A:日本のゲーム業界のことはあまり知らないのですが、一人で最後までクリアするRPGゲームが多い印象です。中国でも、2005年くらいまでゲームはほとんどがRPGで、一人で楽しむものでした。Tencentはそのころ、RPG以外にも、シューティング、ダンス、レースのゲームを作っていましたが、これらのゲームでユーザーが「ステージをクリアする」ことでなく、「相手に勝つ」という楽しみ方をしていることに気づいたんです。

それで、「ゲームを使って相手と競う」、すなわちeSportsに投資することがゲームの市場を広げることに繋がると考え、eSportsのイベントを開催するようになりました。何年か続けていくと、チェスが「マインドゲーム」と呼ばれているのと同じように、ビデオゲームによる対戦も「スポーツ」と呼んで良いのではないか、と思い始めました。

また当時は、一般家庭の親世代の人たちはみな、子供がゲームをするのが教育の妨げになると考え、よく思っていませんでしたので、ゲームそのものではなく、ゲームのルールの中で「勝つ」事に知恵とエネルギーを使うeSportsがそういったネガティブな世の中のイメージを変えるきっかけになるかも知れないと思ったんです。

過去10年ほど、eSportsのコミュニティを育てるために様々な施策を打ってきましたが、中国におけるeSportsのイメージはだいぶ変わってきたと感じています。今ではインターネットストリーミングプラットフォームだけでなく、テレビ局もeSportsを放送したいと言ってくれていますし、大会を主催したいと言ってくれる自治体も増えています。最近4年は「League of Legends」(以下 LOL)のシーズン最終戦を毎年違う場所で開催しています。いまeSportsのイベントは、NBAの試合よりも大きなスタジアムをいっぱいにするくらいのコンテンツ力があります。

国の政府もスポーツ産業を重点産業にして、eSportsも後押ししてくれています。その証拠に、今年のLOLの最終戦は2022年にオリンピックが行われる首都北京で開催されます。

他にも、eSportsのプロや解説者、チームオーナーを育てる学部を新設する大学が増えてきたり、eSportsの競技やビジネスにに関する教科書も出版されました。こういった動きを後押ししていくことが、私たちTencentの役割だと考えています。

後藤:eSportsに対する世の中の見方が変わってきた理由は何なのでしょうか?

A:一番の理由は、eSportsの競技人口が巨大になって、ビジネスとして多額のお金が入るマーケットになってきたことだと思います。

特に、LOLというゲームタイトルの登場は、ゲームをプレーしない人にまでコミュニティを拡大して、eSportsの市場形成に大きな役割を果たしました。Tencentは、「スターウォーズ」とか「Warcraft」といった人気のゲームタイトルを多く持っていますが、それらのファンコミュニティは基本的にゲームをプレーする人だけに閉じています。LOLはコミュニティをゲーマーの外に広げたという意味で、ゲーム以上の存在だと思っています。

中国でeSportsのコミュニティを育てるにあたって、私たちが重点的にリサーチした国は韓国です。中国でも確かに数億円の年収を得るプレーヤーが存在しますが、まだ韓国のようにeSportに関わっている全てのステークホルダーがWin-Winとなるエコシステムは形成されていません。いまは中国に健全なeSportsコミュニティを育てるための投資フェーズだと考えているので、私たちが大会を主催したり、選手のPRをしたりしていますが、ゆくゆくは韓国のサムスンのように、ゲーム業界以外の企業からの協賛金が業界を支えて、eSportsのアスリートが世の中から尊敬されるような存在になって欲しいですね。

韓国のようなマーケットを作るためには、eSportsの社会的地位を上げる必要があり、そのために、スター選手を作る取り組みをしてきました。強くて発信力のある選手を育てて、その選手の人生にとってeSportsがどういう意味を持っているのかを世の中に伝えてもらうのです。ゲームのポジティブな側面を伝えるために、北京大学の学生でeSportsの強豪選手だった選手をクローズアップするということもやってみたりしました。

後藤:中国のeSportsが巨大な市場になるまでにはどういったターニングポイントがあったんでしょうか?

A:Wang Sicongという人をご存知でしょうか?1988年生まれで、中国最大の不動産デベロッパー、ワンダグループの御曹司です。彼は自分の資産を投じて、 LOLや「Dota 2」の強豪チームを抱える「Invictus Gaming」という中国最強のeSportsチームを2011年に創設し、運営しています。

彼以降、80年代生まれくらいの若いお金持ちの間で、「eSportsチームを持つこと」がカッコいいとされるようになりました。チームに所属する選手たちは、eSportsに専念して生活出来る「アスリート」となり、強くて人気のある選手は自分のグッズを中国最大のEコマースサイト淘宝網(タオバオ)で売って収入を得はじめたのです。タオバオでは、選手が使ってる服、選手の写真からキーボードやマウス、選手の名前入りスマートフォンケースまでなんでも売られていて、簡単に高収入を得られる方法になりました。

選手にとっては、自分のプレーしている画面を中継するストリーミングも収入源になります。広告収入だけでなく、トップ中のトップ選手の中には、インターネットストリーミングの放送局からプレー動画の放映権として、年間1億ドルから2億ドル(≒110-220億円!)を受け取る人もいます。

後藤:まずはeSportsの選手が稼げるようになったんですね。

A:そうです。次に、「ゲーム解説者」と呼ばれる人たちが現れます。彼らは、ゲームの腕前はプロほどではないのですが、自分がプレーしながらだったり、プロの試合を見ながらゲームの内容を解説して、それをゲームをしない人も面白がって見るようになったのです。こういった人たちの動画が視聴者数を獲得するようになり、スポンサー収入や放映権の販売で稼ぐようになりました。

こうして徐々にゲームをしない人の中にもeSportsのイベントをオンラインやスタジアムで観る人、特定のアスリートのファンになる人が増えてきて、スポンサーにもIntelやPepsiなど、ゲーム業界以外の企業がつくようになってきました。

プロ選手と、解説者、この2種類の人たちが、eSportsの世界で稼げるようになりましたが、先ほど述べたWang Sicongのようなチームオーナーたちにとってはまだ、eSportsのチームに投資することは「リターンを得られること」にはなっていません。中には既に収益を上げているオーナーもいるのかもしれませんが、大多数のチームオーナーたちは、選手の給料、渡航費、その他運営費などで毎年多額のお金を使っています。

私は、今の中国のeSports産業は、まだ市場として健全な状態ではないと考えています。理想を言えば、選手だけでなくそれを支えるチームオーナーも稼げるようにならないといけないし、eSportsのコンテンツに投資している放送局もそうです。チームを持つオーナーが、チームの価値が上がったら、投資した値段より高い値段で他の人に売れるようになれば良いと思っています。オーナーたちは今は出費を気にしていない人も多いですが、将来的にはチームオーナーになることで収益を得られるようになるべきだと思っています。

eSportsに関わるステークホルダー全てにとって、中国のマーケットが魅力的なものになるために、Tencentは年間に主催するイベントの回数、ルール、プレーヤーの参加方法、賞金の額などを毎年調整して、ベストなところを探っています。 大会の数は多いほうが、チームや選手に対して多くのチャレンジやメディア露出の機会を与えられるので、自分たちが主催する大会以外にも、企業が主催するイベントの運営をサポートしたりもします。逆に、自分たちで主催するイベントには、WeChatやQQといったTencentのメディアのクライアントにスポンサーセールスに行って、eSportsの魅力を伝えています。

Intel、Pepsi、BMW、Audi、Coca-Cola……。この数年間で、eSportsのイベントとか選手に協賛したいと言ってくれる企業はずいぶん増えました。

BMWのスキンをまとった中国のモバイル版LOLのキャラクター
BMWのスキンをまとった中国のモバイル版LOLのキャラクター

後藤:企業は、どんなメリットがあると考えてeSportsのイベントに協賛するのでしょうか?

A:例えば中国でとても人気のあるサッカーとかバスケットボールは、だいたいファンの80%が男性だと思います。でも、eSportsには女性のファンが沢山います。(筆者注:2016年のpwcの調査ではeSportsをプレーまたは観戦すると答えた女性の割合は男性の割合より多かった)

中国で行われるLOLのプロトーナメントでは、女性の選手はそれほど多くありませんが、ファンは約半分が女性です。好きな選手やチームを応援する彼女たちのエネルギーは、歌手やアイドルに対するそれと全く同じです。なので、若い人たちがターゲットとなる企業やブランドにとって、eSportsはとても魅力的なコンテンツになっています。

後藤:100年以上続くサッカーなどのスポーツに比べて、ゲームのタイトルの寿命は数年と短いと思います。eSportsを育てていくにあたって、そこは障壁にならないのでしょうか?

A:確かに、LOLを含むPCのゲームの寿命はもうそれほど長くないかもしれません。しかし、スマートフォンのゲームはまだまだ成長すると思います。Tencentは、モバイル版のLOLもリリースしていますが、中国では既にこちらの方がユーザーが多いです。スマートフォンゲームには、これまでゲームをしたことのない人もゲームに参加させる力があります。なので、いま私が考える唯一のリスクは、スマートフォンが他のデバイス代わって新しいゲームのフォーマットが登場することです。

eSportsの本質は個別のゲームタイトル自体の面白さではなく、「個人やチームがゲームのフィールドで競うこと」にあると思っています。対戦相手に勝利する喜びや、チームワークを発揮する楽しさが盛り込まれているゲームがある限り、個別タイトルの浮き沈みはあってもeSports自体は続いていくと考えています。

後藤:今後TencentはeSportsのどういった分野に投資していくのでしょうか?

A:eSportsを題材にしたエンターテイメントコンテンツ、例えば、映画、マンガ、ドラマ、などを作っていきたいと思っています。今年リリースしようと思っている映画は、有名なeSportsの解説者を主人公にしたものです。

スポーツとして見たeSportsの現状とポテンシャル

下の図は、Deloitteが発表している、eSportsと他のメジャースポーツの収益規模を比較したグラフである。左端がヨーロッパサッカー、右端が同年のeSportsの収益規模である。

メジャースポーツの収益規模(単位:10億ドル)
メジャースポーツの収益規模(単位:10億ドル)

グラフから分かる通り、他のメジャースポーツと現在のeSportsのマーケット規模では、まだ大きな差がある。今後どこまで伸びるかも意見が分かれるところだ。また、日本国内に目を移すと、テレビ優勢のメディア環境、海外とのゲームカルチャーの違いなど、eSportsが普及しない理由は挙げればきりがない。

しかし、始まって10年程度で1億円稼ぐプレーヤーが何十人も現れているeSportsの競技人口・市場規模の拡大のスピードの速さは注目に値する。上のグラフにあるようなメジャースポーツ、すなわちサッカー、アメリカンフットボール、野球、バスケットボールは100年以上前に生まれ、 テレビの登場をきっかけに成長したスポーツだ。デジタルメディアが既にインフラとして存在する時代に生まれたeSportsのマーケティングからは、既存のスポーツが学べることも多い。

デジタルメディアで拡散・消費される映像コンテンツをプレーヤー自身が作ることで新しいファンにリーチする手法は、既にRed BullやGoProがサポートするような、プレーヤー自身が一人(または少人数で)で魅力的な映像を撮れるエクストリームスポーツでは行われている。 上述した賞金の額が世界一のeSportsタイトル「Dota 2」では、ゲームの中でアイテムを買う「課金」の一部を大会の賞金としてプールする手法を取っており、バーチャルな世界でのメリットとリアルな世界で行われるイベントのチケットを合わせて販売する手法は将来他のスポーツでも参考になるかもしれない。

“eSports化“していくスポーツ

スマートフォンの登場で、世の中で撮影される写真の数は20年前の約7倍になっており、2020年にはコネクテッドデバイスの数が500億個に達すると予測されている。人の行動がより精緻にデジタルデータ化されるトレンドが今後さらに加速していくのは疑う余地がなく、現実の世界のアクションや体験はよりリアルな状態のままデジタルの世界でシェアされるようになる。ランニングや自転車の走行経路をスマートフォンやスマートウォッチのGPSでトラッキングし、シェアするのは既に一般的になっているし、アクションカメラやドローンなどプレーヤーが一人で自分のアクションを映像コンテンツに出来るツールもどんどん高度化・普及が進んでいる。

将来、例えばダンスやフィギュアスケートなどの採点競技において、衣服や靴に入ったセンサーで自分の演技をデジタルデータ化したり、演技の映像をAIが解析して得点を出すことが出来るようになれば、違う場所にいる相手とバーチャルな空間で競うことができるようになったり、全くスポーツが普及していない地域から突然世界トップの選手が誕生するかもしれない。

リアルとバーチャルの世界の境界線が薄くなり、スポーツもデジタルの世界と融合していけば 、これまで思いもよらなかったスポーツが突然成長したり、ドローンレースのような、これまでに無かった全く新しいスポーツが生まれてくるだろう。

まとめ

スポーツ庁は、5兆円の国内のスポーツ産業の市場規模を2025年に15兆円にするというビジョンを掲げて、スポーツの参加人数(プレー人口・視聴者数)を増やし、そこから収益を上げていく仕組みを様々なステークホルダーと共に模索している。

パリ・サンジェルマンやシャルケなど、海外のサッカークラブの中には世界的に人気のサッカーゲーム「FIFA」のeSportsチームを抱えるところが出始め、オランダリーグではサッカーチームと同じ名前のeSportsチームのリーグ戦が始まっていて、NBAにも同様の動きがある。

海外ではスポーツとゲームが交わり始めているが、日本ではまだeSportsは一部のゲーマーの中で閉じた小さなトレンドでしか無い。スポーツでは多くの競技で世界トップ選手を輩出し、ゲームでは世界3位の市場を持つ日本でも、この2つの業界の交わりが今後のスポーツ産業の発展において1つのキーになるのではないかと思う。

株式会社Pioneerwork 代表取締役

電通を経て、フリーライドスキー/スノーボードの国際競技連盟Freeride World Tour(FWT)日本支部マネージングディレクター、2019年11月に株式会社Pioneerwork創業。日本が誇るアウトドアスポーツカルチャーとそのフィールドの価値を爆上げすることをミッションにしています。ヤフーニュース個人では山岳スポーツ・アクションスポーツ・エクストリームスポーツをカバーします。

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