4月19日、悲しいニュースが飛び込んできた。2015年・2016年と2年連続でエクストリームスキーとスノーボードの世界選手権、Freeride World Tour(FWT)の年間チャンピオンになったEstelle Balet選手が、自身が主演する予定だったフィルムの撮影中に雪崩にあって亡くなったのである。若干21歳だった。

Estelle Balet選手(FWT Facebookページより)
Estelle Balet選手(FWT Facebookページより)

FWTのFacebookポストには数千の追悼メッセージが世界中から寄せられている。

FWTは毎年必ず最終戦がスイスのVerbierで行われるが、彼女はそのVerbierの出身であり、この街のアイコンであり、21歳にして「フリーライド」の精神を世界中に伝えるカリスマでもあった。

私は過去約2年間、この競技をフォローし、彼女がチャンピオンになった2015年、2016年ともVerbierのFWT会場で直接、彼女のライディングを見た。

「必ず日本に来て欲しい。」そう伝えた私に持ち前の明るい笑顔で約束してくれたのは亡くなる2週間前だった。彼女が美しいラインを日本の山に描いてくれたら、きっと世界中のスキーヤー、スノーボーダーたちが「日本の山に行ってみたい」そう思ってくれたはず。本当に、本当に、残念だ。

Estelle Balet選手のライディング(最後のFacebookポストより)
Estelle Balet選手のライディング(最後のFacebookポストより)

事故時の詳しい状況は公表されていないが、彼女は事故発生時、ヘルメットは当然のこと、電波を発し雪中に埋まった際に位置を知らせる雪崩ビーコン、バックパックに付いたレバーを引くと風船が飛び出し、身体を浮かび上がらせてくれるエアバッグも装備していた。撮影スタッフも待機していたため、雪崩の発生後すぐに駆けつけが間に合わなかったようだ……。

雪崩ビーコン(http://www.pieps.com/)
雪崩ビーコン(http://www.pieps.com/)

スキー・スノーボードはおそらく数ある山岳スポーツの中でも過去20年の間に道具が最も進化したスポーツの一つである。

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スキーは板の幅広化や軽量化が進んだ。

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スノーボードは登るときは半分に割って雪の上を歩ける「スプリットボード」が登場した。

板の進化は、バックカントリーへのアクセスやパウダーの上を滑るのを劇的に簡単にしたのだ。以前は限られた上級者しか出来なかった「バックカントリー」がこれほどブームになっているのにはこういった背景もある。

多い日には200人近い人が入る白馬のバックカントリー(2016 筆者撮影)
多い日には200人近い人が入る白馬のバックカントリー(2016 筆者撮影)

バックカントリー愛好者が増えているのは世界共通だ。正確な数字を出すのは難しいが、FWT創始者のNicolas Hale-Woods氏によれば、スイスでは過去20年間でバックカントリーに入る人の数は約20倍に増えたそうだ。しかし、こちらの調査(ドイツ語)によると、過去15年間、スイス国内での雪崩による死亡者数はほとんどフラットである。

死亡率が減っているのには様々な理由があると考えられるが、その一つは間違いなく雪崩事故から身を守る上記のようなアバランチギアの進化と、その普及活動の成果である。

私は雪崩やアバランチギアの専門家ではない。しかし、昨今のバックカントリー事故の報道を見ていると、何故バックカントリーが人気なのか、といった視点が欠けていると思うし、上記のようなアバランチギアはその存在にほとんど触れられていない。

Yahoo!ニュースに載ったEstelle Balet選手の事故の記事(記事削除済み)には150件を超えるコメントが寄せられた。その中には「また事故か」「危ないスポーツだ」といった声から、「そんなところに行くからだ」「迷惑だ」、そんなコメントまで見受けられる。しかし、どんなスポーツにも危険は伴うし、道を歩いていたって死ぬ可能性はある。

決して無謀な行動を取って亡くなったのではない。それを少しでも多くの人に分かってもらうのが、日本では全く無名なまま亡くなってしまった彼女のためにいま私ができることなのでは、と思い、本記事を執筆するに至った。

国土の70%を山岳地帯に覆われ、豊かな地形と四季を背景としたカラフルで美しい景色、さらに良質の雪が大量に降る日本は世界の山岳スポーツのメッカとなるポテンシャルを秘めた国である。特に、海外で「Japow」(Japan + Powder)とも呼ばれる日本の雪は世界中から人を呼べる可能性のあるキラーコンテンツであり、昨今ニセコや白馬に多くの外国人が訪れているのも、バックカントリーというアクティビティが日本の雪山の新しい魅力に光を当てたからである。

バックカントリーの安全な楽しみ方とともに、そのリスクだけでなく、魅力が日本にももっと広まることを願いたいし、私もそのための努力をしたいと思う。