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急な失速…主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移(2022年11月公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
テレビ(局)の成績表ともいえる視聴率。その推移は?(写真:アフロ)

HUTの意味とその推移

テレビ局の番組や局のメディア力のすう勢を推し量るのに、一番明確な指標が視聴率。キー局などにおける複数年の視聴率の移り変わりを確認する。

具体的には先行記事【主要局すべて下落…主要テレビ局の直近視聴率実情(2023年3月期・上期)】で行った手法と同じように、TBSホールディングス・決算説明会資料集ページに掲載されている各年の決算短信資料などを確認し、主要局(キー局とNHK)の視聴率を抽出、各種精査を行う(他局の決算短信資料で補完や確認も行っている)。直近分は2022年度(2022年4月~2023年3月)。

まずはHUTの推移を確認する。この「HUT」とはテレビの総世帯視聴率(Households Using Television、テレビをつけている世帯)を意味する言葉で、具体的には調査対象となる世帯のうち、どれほどの比率の世帯がテレビ放送をリアルタイムで視聴しているかを示す値(チャンネル別の区分はない)。

これには録画した番組の再生、家庭用ゲーム機でテレビ画面を使っている場合は該当しない。またパソコンやスマートフォンなどによるワンセグの放送視聴も当てはまらない。ただしインターネットテレビによるテレビ番組の視聴は該当する。

HUTの値として確認できるのは、ゴールデンタイム(19~22時)、全日(6~24時)、プライムタイム(19~23時)の3種類。そのうち一番視聴率が高く、変移が見やすいゴールデンタイムのもの、そして包括的な意味を持つ全日のグラフ、合わせて2つを併記し、状況を確認する。

↑ HUT(ゴールデンタイム)
↑ HUT(ゴールデンタイム)

↑ HUT(全日)
↑ HUT(全日)

かつてはゴールデンタイムで70%を超えていたHUTも、直近データでは52.0%にまで落ち込んでいるのが分かる(縦軸の最下方が50%になっていることに注意)。1997年度下期の71.2%をピークに、多少の上下はあれど、全体的には下降の一途をたどっている。また、年末年始は特番が多く放映される、正月休みで自宅待機率が高まることを受けてテレビ視聴率が上昇するため、毎年「上期より下期の方が高い」傾向があり、結果としてギサギザの形を示す。無論年度ベース、つまり通期の値は、上期と下期の平均値となる。

中期的には全日・ゴールデンタイムともにHUTは落ちているが、2010年前後からは(特にゴールデンタイムでは)横ばいの動きに転じていた。さらに2013年度に入ると、明らかに底打ち感から反転の兆し、トレンド転換の動きが明確化した。ところが2014年度上期以降、再び下落基調に転じてしまう。

2016年10月からはタイムシフト視聴率の調査が実施され、タイムシフト視聴率や統合視聴率が試験的に一部ではあるが公開されている。しかしながら各報告書の言及や他の公開状況の限りでは、HUTはリアルタイム視聴率のまま。HUTの下落傾向もあるいは、タイムシフト視聴をしている人が増えているのが一因かもしれない。

2020年度上期ではゴールデンタイムも全日もHUTは大きな増加を見せ、イレギュラー的な動きとなっているのが確認できる。これは新型コロナウイルスの流行による巣ごもり現象で生じたテレビ視聴の機会増加によるものと考えて間違いあるまい。もっとも2020年度下期以降では、その特需的な増加も無くなり、失速した形となっている。特に2021年度下期以降の下落具合は著しく、グラフ上の動きでもそれがはっきりとしたものとなっている。

主要キー局などの視聴率動向

次に各局の視聴率について。年度ベースにおける2009年度から2022年度(2022年4月~2023年3月。「2023年3月度」と同じ期間だが表記が異なることに注意)までの主要局のゴールデンタイムにおける視聴率の推移をグラフとして作成した。なお類似データとして全日・プライムタイムのものもあるが、大局的に違いは無いので、別途作成はしない。また併記している折れ線グラフは取得可能な全期の動向を対象としている。

なお直近分となる2022年度は上期のデータしか存在しないので、それをそのままグラフ上に反映させるが、上記説明の通り上期は下期と比べて視聴率では低い値が出る傾向があるため、2021年度までと比べると低めの結果が出ている可能性があることに注意しなければならない。これについては2022年度通期分の結果が出た際に修正を行う。

↑ 主要局年度世帯視聴率(ゴールデンタイム、年度ベース)
↑ 主要局年度世帯視聴率(ゴールデンタイム、年度ベース)

↑ 主要局年度世帯視聴率推移(ゴールデンタイム、年度ベース)(2003年度以降)
↑ 主要局年度世帯視聴率推移(ゴールデンタイム、年度ベース)(2003年度以降)

それぞれのテレビ局の傾向がつかみ取れて興味深い。フジテレビは視聴率の下落が問題視されていたが、ここ数年でようやく底打ちを見せたように見えたものの、直近2年で再び大きく落ちている。逆に堅調さが伝えられている日本テレビが、ここ数年でじわりと視聴率を落としているのに要注目。NHKはここ数年で大きな持ち直しを示していたのが頼もしい(直近年度では大きく落ち込んだが、上記説明の通り現時点では上期のみの値のための下落かもしれない)。

一部局で生じている2020年度のイレギュラー的な動きは、新型コロナウイルスの流行という特殊事情が影響していることは否定できない。

各局の中期的な視聴率動向が、今後どのような動きを示していくのか。テレビ全体の視聴動向、HUTにもかかわる話なだけに、大いに気になるところではある。また、新型コロナウイルスの流行で生じた生活様式の変化が、テレビ視聴にいかなる影響を与えるのか、視聴率の観点でも注目したいところだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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