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半世紀以上にわたる大学授業料の変遷をさぐる(2022年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
大学の授業料はどのような推移を見せているのか(写真:イメージマート)

国立よりも私立の方が高い大学授業料

昨今では多くの人が通い卒業することになる大学。その修学費用に関して金額の負担の大きさが問題視される一方、かつて大学へ修学していた人たちによる「大学授業料ぐらいは自分の手で稼いだものだ」とする意見が見聞きされる。そこで総務省統計局における小売物価統計調査(※)の公開値から、大学授業料の推移を確認する。

具体的には東京都区部の小売価格を参考に、70年強前の1950年以降、1年間を終えて年平均が算出できる直近の2021年分までの値を随時取得。さらに月次に限れば記事の執筆時点で2022年3月まで取得可能であることから、その3月分を取得してこれを2022年分として適用する。

対象となるのは東京都区部の大学授業料のうち「国立・昼間部・法文経系」「私立・昼間部・法文経系」「私立・昼間部・理工系」。かつては「公立・昼間部・法文経系」も観測対象だったのだが、小売物価統計調査では2016年12月で「公立・昼間部・法文経系」を調査項目から外してしまったため、継続的なデータ取得ができなくなってしまった。そこで長期的な値が取得できる代替として「私立・昼間部・理工系」(ただし一番古い値は1967年で、他項目の1950年と比べると短期間)を用いている。なお国立の理工系も精査したいところだが、長期にわたる調査値が存在しないので取り上げていない。

↑ 大学授業料(東京都区部、年間、円)(2022年は直近月)
↑ 大学授業料(東京都区部、年間、円)(2022年は直近月)

↑ 大学授業料(東京都区部、年間、円)(1950年と2022年、2022年は直近月)
↑ 大学授業料(東京都区部、年間、円)(1950年と2022年、2022年は直近月)

大学授業料のイメージとしては、国立と比べて私立が高いとの雰囲気があるのだが、実際にもその通りの金額推移を示している。そしてどの種類の大学でも日本が高度経済成長を始めた1970年代まではほぼ横ばい、あるいはゆるやかな上昇だったものが、それ以降はやや上昇率を高め、右肩上がりの様相を呈している。20世紀末になると上昇も緩やかなものとなるが、私立はそれ以降も上昇し続け、国公立は同額を維持することになる。記録の限りでは国立は2005年以降、10年以上同一価格を維持していた。

ちなみにもっとも古い記録として残っている1950年時点では国立大学の年間授業料は法文経系で3600円、私立でも法文経系で8400円。私立の理工系は1967年時点で9万6800円。これが直近の2022年ではそれぞれ55万9388円、82万4895円、116万3679円にまで跳ね上がっている。単純に倍率試算をすると155倍・98倍・12倍である。

消費者物価の動向を考慮すると

これらはそれぞれの年における金額を示したものだが、当然物価水準は異なる。モノやサービスの値段の価格の推移を見る場合、当時の額面自身の流れだけでは無く、物価との相対的な位置づけを考慮する必要もある。例えば70年前の100円と、今現在の100円とでは価値が大きく異なるからだ。そこで消費者物価指数と連動させて価格を算出することによって、より正しい価格の実情を推し量ることにする。

具体的には各年の授業料に、それぞれの年の消費者物価指数を反映させた値を試算することにした。消費者物価指数の直近2022年の値を基準値として、各年の授業料を再計算した結果が次のグラフ。つまりそれぞれの年における物価が2022年と同じ水準ならば、どの程度の金額になるのか、その推移を示している。

↑ 大学授業料(東京都区部、年間、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2022年は直近月)
↑ 大学授業料(東京都区部、年間、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2022年は直近月)

↑ 大学授業料(東京都区部、年間、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(1950年と2022年、2022年は直近月)
↑ 大学授業料(東京都区部、年間、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(1950年と2022年、2022年は直近月)

消費者物価指数を考慮しない最初のグラフと比べても、形の上では大きな変化が無い。これは各授業料の上昇率が大きく、物価の上昇をはるかに上回る割合であるからに他ならない。物価を考慮しないグラフと比べていくぶん勾配が緩やかになってはいるものの、私立では高度経済成長期以前から一律な右肩上がりを示す一方で、国立では高度経済成長期まではむしろ下がっている動きすら見受けられる。

そして現在の物価に換算した上での1950年における大学年間授業料は、国立法文経系で3万157円、私立法文経系で7万367円、私立理工系で37万523円(1967年)。月次にするとそれぞれおおよそ2600円・6000円・3万1000円。この程度の金額ならそれこそ一日二日のアルバイト料金で満たせる額であり(私立理工系は1日分の稼ぎでは難しいが、これは1967年の値だからに他ならない)、当時大学生だった人たちが「自分達は大学授業料ぐらいは自分の手で稼いだものだ」と語っても、特に不思議ではない。一方で2022年時点の月額はそれぞれ4万6616円・6万8741円・9万6973円。かなりハードな額ではある(無論これは授業料のみの話。他に入学金や教材費など多様な学費が必要となる)。

少なくとも金額負担の観点に限れば、大学はより一層ハードルの高い場となっていることは間違いない。

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※小売物価統計調査

国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。

一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約28000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約7000事務所)を設けている。

価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。

価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査員が調査事業所を訪問し、事業主から家賃、延べ面積などを聞き取り、調査員端末に入力する。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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