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男女で異なる年功序列制のような賃金実態…年齢階層別に平均賃金の推移をさぐる(2022年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
賃金と年齢の関係を具体的な数字で確認(写真:イメージマート)

男女で異なる年功序列制のような賃金実態

以前と比べると随分と慣習としては薄れてきたが、それでもなお根強く残っているのが「年功序列制」。年を取れば誰もが昇進し、給与も増えていく仕組みだが、そのような制度が明確化されていなくとも、同じ職場で経歴・経験を積めば有能な人材となり、その実力にあった評価がされれば、次第に昇格・給与の上乗せが望める。日本ではどの程度、年齢と賃金との間に関係があるのだろうか。厚生労働省が2022年3月に発表した賃金構造基本統計調査の報告書から、その実情を確認する。

今回検証する賃金とは「賃金(所定内給与額)」を意味する。これは基本給に家族手当などを足したもので、通常はほぼ固定して受け取れる額。また今件はフルタイム労働者を指す「一般労働者」を対象とし、フルタイムなら契約社員や派遣社員も該当する。ただしパートやアルバイトは「一般労働者」ではなく「短時間労働者」なので、検証対象外となる。

まずは2021年における男女別・年齢階層別の平均賃金。

↑ 年齢階層別平均賃金(男女別、千円)(2021年)
↑ 年齢階層別平均賃金(男女別、千円)(2021年)

男性が50代前半まで年功序列制的に大きく上昇、以降はほぼ横ばいの後、下落傾向の動きをしている。女性もピークは男性とほぼ同じ50代前半(男性は数字の上ではピークは50代後半)だが、上げ幅は小さく、40代前半でほぼ上昇が止まっているような状態。他方、男女とも60代前半に大きな減少を示しているのは、(早期)退職で一度離職し、非正規社員として再雇用される事例が増えてくるからだと考えられる。

女性は男性と比べれば年齢階層間の差異は小さい。非正規社員率が男性と比べて高いことが影響している。

続いて同じ区分で前年比を計算したもの。

↑ 年齢階層別平均賃金(前年比、男女別)(2021年)
↑ 年齢階層別平均賃金(前年比、男女別)(2021年)

男性は伸びている年齢階層でも伸び方が女性と比べて大人しく、さらに中年層から壮齢層にわたっては減少してしまっている。一方で女性はほとんどの年齢階層で伸び、特に若年層と高齢層で大きく伸びている。今調査の結果では、2021年の平均賃金は男性で落ち込み、女性はそれなりに伸びているが(グラフ化は略)、その実情としては男性は中年層から壮齢層での落ち込みが、女性は若年層と高齢層で伸びたのが、全体的な挙動につながったことが分かる。

一部の年齢階層を経年推移で

続いて過去のデータを絡めた、平均賃金の経年推移を年齢階層別に確認する。男女のデータはそれぞれ存在するが、すべてを精査するとあまりにも雑多なものとなるので、男性に焦点を絞る。まずは一番気になる人が多いに違いない20代前半について。

↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、千円)
↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、千円)

↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、前年比)
↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、前年比)

金額の絶対額では値が確認できる限りの20年強の間ほとんど変化が無く、100円玉のやり取り程度の変化にとどまっていた。しかし2014年以降は明らかに上昇の動きにあり、2015年以降は毎年最高額を更新し続けている。

2007年から2008年では景気動向(サブプライムローンショックにはじまる「金融危機」は2007年夏から)に反して上昇しているが、手取りが低い非正規社員(契約社員、派遣社員など)の失職が想定できる(実際、2008年分の該当属性の動向を見ると、前年比で正規社員はプラス1.6%なのに対し、非正規社員はマイナス1.3%を示している)。全体に占める「手取りの低い非正規社員」の比率が下がれば、その母体での平均賃金は上昇するからだ。

直近の2021年では賃金は前年に続き上昇。今回確認した期間内では最高値を更新し、当然のことながら金融危機ぼっ発直前の水準を超えている。2013年以降前年比でプラスを示し続けているのは、グラフの形状から見ても珍しい、そして喜ばしいパターンであることがうかがえる。

続いて、20代前半だけでなく30代前半・40代前半・50代前半の前年比を一つにまとめたグラフ。

↑ 年齢階層別平均賃金(20・30・40・50代前半男性、前年比)
↑ 年齢階層別平均賃金(20・30・40・50代前半男性、前年比)

中期では30代前半が一番下側にいることに違いないが、金融危機ぼっ発以降(2008年以降)ではむしろ40代の下げ率が大きい。20~30代、50代と比べ、1ランク下の動きのように見える。この年代の男性非正規社員が増えたのか、あるいは元々賃金が高く、しかも下げやすい層として経営陣側に目をつけられた可能性もある。

これらのグラフから分かるのは、今回対象とした1993年以降(前年比では当然1994年以降)では多少の起伏があるものの、賃金に大きな上昇・下落の変移は無い(毎年プラスマイナス2%から3%内に収まっている)こと、そして年齢階層別に賃金の上下の点で格差が生じていること。すべての年齢階層で一斉に上昇・下落するパターンはほとんど無く、必ず互いに補完し合っているように見える。例えば2005年は30代・40代・50代がプラス、20代が大きくマイナスといった形である。今回はグラフが雑多になるため各年齢階層の後半(20代後半など)は略したが、仮に入れたとしても同じような傾向が確認できている。

ただし2009年は例外。補完云々などは無く、皆が大きく下落している。2009年の急落ぶりと翌年の反動(ただし前年比プラスの動きを示したのは20代前半と50代前半のみ)がいかにレアケースであったか、つまり「リーマンショック」の影響力の大きさが改めて理解できるというものだ。新型コロナウイルス流行の2020年以降が、リーマンショックと同じような状況にならなかったのは幸いではある。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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