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電通推定の日本の広告費を詳しくさぐる(経年推移)(2022年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
街中のあらゆる場所で見受けられる広告。その費用はいかなる変化を?(写真:アフロ)

電通は2022年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2021年 日本の広告費」を発表した。その内容を基に今世紀における広告費の実情を確認する。

「2021年 日本の広告費」をはじめ電通の年次報告書「日本の広告費」からは2001年以前の値も取得が可能だが、「インターネット広告」の項目は2001年に入ってから用意されたため、今回は2001年以降の動向を確認する。

また2004年と2005年の間では、広告費の項目区分で変更が行われており、その前後では数字上の連続性は厳密には無い。グラフ上では点線を引いたが、その線をまたいだ年同士の比較には注意を要する。

最初に作成するのは単純な金額の積み上げ式グラフ。金融危機発生時で、まだ大きな影響が広告費には表れてなかった2007年が天井となり、その後は景気の後退、リーマンショック、さらには東日本大震災などを受け、下落や低迷状態にあったことが分かる。2012年以降は少しずつ復調しつつあるが、その歩みは遅い。そして新型コロナウイルス流行による影響を受けて2020年が大きな失速を見せたのも一目瞭然。

↑ 媒体別広告費(電通推定、積み上げ式グラフ、億円)(2001年以降)
↑ 媒体別広告費(電通推定、積み上げ式グラフ、億円)(2001年以降)

プロモーションメディア広告費が2004~2005年の間に大きく増加している。しかしこれは前述の通り、区分の変更で色々と新規に追加(他区分からの移動ではない)が行われているのが原因。この時期に今項目が飛躍・成長し、全体額も1兆円ほど躍進したわけではない。

中期的には新聞や雑誌など、紙媒体が大きく落ち込んでいる。代替メディアの浸透に伴い購入者数の減少、購入者の購入数量の減少、さらには質の低下などの要因から、広告媒体としての実力、少なくとも広告出稿主から見た評価が減っているのが大きな要因。

従来型の4マスとインターネットにおける、広告費から見た影響力の変化が確認できるのが、次のシェア動向。それぞれの年における各媒体の広告費を、対総広告費比率で示したもの。

↑ 媒体別広告費(電通推定、2004~2005年で推定範囲変更のため厳密な連続性は無し、構成比)(2001年以降)
↑ 媒体別広告費(電通推定、2004~2005年で推定範囲変更のため厳密な連続性は無し、構成比)(2001年以降)

4マスを黒枠・青系統色で装飾し、動向が分かりやすいようにした。2004-2005年に項目基準の変更が行われたが、それをきっかけとするかのように青系統色部分が少しずつ、そして確実に減少していくのが分かる。またその中でも詳しく見ると、テレビメディアは一定のシェアを維持し続けており、新聞・雑誌・ラジオがシェア低下の原因であることも確認できる。そしてその低下分をインターネット広告が侵食したように、さらにプロモーションメディア広告までを侵食し、食い広げるような図式が構築されている。とりわけ新型コロナウイルス流行の影響を受けた2020年以降はその傾向が著しい。

2004年~2005年をきっかけとしていることから、区分変更が問題ではとの発想も頭に浮かぶ。しかしこのタイミングはインターネットの普及が本格化した時期でもあり、また同時にそのインターネットを媒体とするインターネット広告が上昇していることから、区分変更には関係が無いことがうかがい知れる。実のところ2005年の区分変更において4マスが影響を受けているのは雑誌のみで、しかも対象誌の増加が行われているため、数字的にはむしろ有利になるはずである。

絶対額、シェアともに減少著しい紙媒体では、電子媒体へのコンテンツの移行が進むに連れ、出版社などが払う広告費は同じでも「雑誌広告が減る」「インターネット広告が増える」動きが生じることになる。「雑誌」部門の広告費の減少が、そのままコンテンツベースとしての雑誌全体(紙と電子双方)の減少を意味するものとは限らないことに留意しなければならない。

またスマートフォンやタブレット型端末の急速な普及に伴い、それら単独の広告だけでなく、その機動力・柔軟性を活かした、複合型広告の展開も大いに見込める。うまくその勢いの波に乗ることができれば、低調さを見せている分野でも盛り返しが期待できよう。

■関連記事:

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【新聞広告費とインターネット広告費の金額はどちらが上なのか(2020年12月発表版)】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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