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4マスでは雑誌のみマイナス、ネット広告はプラス20.4%(経済産業省広告売上動向2021年10月分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
マスク姿は多いが人通りが戻る街並み(写真:Keizo Mori/アフロ)

4マスでは雑誌だけがマイナス

経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2021年10月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でプラス11.0%となり、増加傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・テレビ・ラジオと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)ではテレビ、ラジオとインターネット広告がプラス、雑誌がマイナスを示した。下げた部門では雑誌が一番下げ幅は大きく、マイナス2.7%。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2021年9~10月)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2021年9~10月)

今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない。また前回月分からの動きが確認しやすいよう、2021年9月分のデータも併せてグラフに反映している。

しばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月では雑誌のみがマイナスを示した。2015年以降4マスは概して軟調が続いており、特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が22回、雑誌は37回。幸いにも今回月は新聞も雑誌も2ケタ台の下げ率は示さず、回数を更新することはなかった。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)

一方、インターネット広告はプラス20.4%と前回月から続きプラスを示す形となった。新型コロナウイルス流行による経済活動萎縮の影響はインターネット広告への出稿にも生じていたが、回復の動きも他部門と比べて力強いものがある。

4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。

↑ 一般広告の広告費(前年同月比)(2021年10月)
↑ 一般広告の広告費(前年同月比)(2021年10月)

全部門で最大の上げ幅を示した屋外広告だが、金額は約40億円。売上高合計にはあまり影響を与えていないものと思われる。

インターネット広告は新聞の約4.76倍

部門別の具体的売上高は次の通り(億円単位における小数点以下は四捨五入しての表記となる)。

↑ 月次広告費(億円)(2021年10月)
↑ 月次広告費(億円)(2021年10月)

ここ数年で新聞とインターネット広告の金額的な立ち位置は逆転してしまった。現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はテレビ・インターネット広告・新聞の順となっている。なおその新聞は今回月では前年同月比で大きなプラス幅を示しているが、これは2021年10月31日に投票が行われた、第49回衆議院議員総選挙の影響によるものと思われる。

今回月では両者の金額差は約884億円。約4.76倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約275億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち、紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。

次のグラフは主要5部門、そして売上高合計(主要5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が調査されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)

雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額が漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。

昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の業種とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたことが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。

2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる。2014年同月からの反動でもなく、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。とりわけ新型コロナウイルスの流行による影響を大きく受けているように見える。

他方、インターネット広告も2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示している。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比でみる限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。

2020年夏ぐらいからの持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の基準に戻り、その上勢いよく成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。4マスも大きな上昇を見せていたが、これは前年同月の大幅減からの反動でしかないため、早くも失速の動きを示している。

何はともかく新型コロナウイルスの流行が片付かないとお手上げ状態なのが実情には違いない。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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【電通推定の日本の広告費を詳しくさぐる(経年推移)(2021年公開版)】

【総広告費は6兆1594億円・4マス揃ってマイナス、インターネットは5.9%の伸び…過去30年あまりの媒体別広告費動向(最新)】

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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