ワクチンや緊急事態宣言解除への期待…2021年2月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2021年3月8日付で2021年2月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。
2021年2月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス10.1ポイントの41.3。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは40.7。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「住宅関連」のプラス2.1ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でプラス11.4ポイントの51.3。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは53.0。
→詳細項目はすべてが上昇。「住宅関連」のプラス3.6ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「小売関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年2月では新型コロナウイルス感染者数の減少やワクチンの接種開始という心理的影響や一部地域における時短営業の解除などから大きく上昇した。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。12月以降は上昇に転じ、直近の2021年2月では緊急事態宣言の解除や新型コロナウイルス流行の沈静化に伴う経済の回復への期待から、大きく上昇する形となった。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、2020年11月以降は流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年2月は新型コロナウイルス感染者数の減少やワクチンの接種開始、一部地域での時短営業の解除などが景況感にも貢献したようで、「家計動向関連」を中心に前回月比で大きなプラスを示している(「住宅関連」は小幅)。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。2020年10月時点では4項目もあったのだが。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「小売関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」の5つ。「住宅関連」は勢いが抑えめだが、それ以外は前回月比で大きく上昇している。
すべては新型コロナウイルス流行の行く末次第
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・緊急事態宣言は継続中であるが、1月と比べて若干改善傾向にある。売上が前年比で7割程度に戻っている。その傾向は、都市中心部よりそれ以外の店舗の方が強い(コンビニ)。
・家の中や近場でできる娯楽が主となっており、食を中心とした需要がある。食品の物産催事やバレンタインの企画などは高額品から品薄となり、自分への御褒美需要が顕著にみられる(百貨店)。
・時短営業が解除となり、僅かではあるが、客は戻りつつある。しかし、これまで外出自粛が続いたことにより、外出を控える傾向が強くなっている(一般レストラン)。
■先行き
・新型コロナウイルスワクチンの接種が始まることで、少しずつ人の流れが出てくるのではないかと期待している(タクシー運転手)。
・新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向であり、春に向かって暖かくなり新型コロナウイルス感染者の落ち着きが見られれば、外食、観光、新生活への消費が活発になる(スーパー)。
・緊急事態宣言の解除をきっかけに、今よりも来客数が増える。ステイホームでのストレスが発散され、購買意欲は更に高まると感じる(家電量販店)。
一部地域での緊急事態宣言は継続中ではあるが、感染者数の減少や時短営業の解除などもあり、消費性向が戻りつつあるとの方向が確認できる。一方で中食や内食の需要拡大が単純に外食控えだけではなく、身近にできるイベント向けアイテム利用としても生じているとの指摘は興味深い。外食をレジャーとして楽しむ行動意欲が、中食や内食に向けられたのだろうか。
先行きでは新型コロナウイルス流行の沈静化が望める複数の要素があり、人や物流が活発になることへの期待が寄せられているのが分かる。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・自動車関連や建設機械関連などで、堅調な受注を維持している(一般機械器具製造業)。
・2回目の緊急事態宣言が出てから、店舗の閉店が増えている。賃料の減額要求もきており、景気が悪くなっていると感じる(不動産業)。
■先行き
・少しずつではあるが、止まっていた北米自動車向け設備投資計画も動き始めた(東海=一般機械器具製造業)。
・すべては新型コロナウイルスの終息にかかっている。出勤率を抑えているテナントのほか、業績の悪化により事務所を解約したいと申し出るテナントが出てきそうで、この先の見通しは暗い(不動産業)。
企業動向もまた新型コロナウイルス流行の沈静化、ワクチン接種状況頼みではあるが、先行する形で具体的に回復の気配が感じられるところもある。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。
■現状
・新型コロナウイルスの感染者数の減少とワクチン接種に関する報道の影響で、若干ではあるが、求人件数が増加傾向にある。求人に対する反響もよい状態が続いており、介護や建設などの人手不足業界の求人が堅調である(求人情報誌製作会社)
■先行き
・求人数、求職者数ともに増加傾向にあり、年度末に向けて来月以降も業務量が多くなってくる(人材派遣会社)。
雇用市場は景況感を先読みする傾向があるため、現状において「求人件数が増加傾向にある」との表現は大いに喜ばしいもの。先行きでは特に期待が持てるコメントが寄せられている。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで1件(前回月7件)、先行きのコメントでゼロ件(前回月1件)の言及がある。新型コロナウイルス流行の影響が気になり、消費税の話など二の次になっている感はある。他方、特別定額給付金に関しては、先行きで「自粛の対価として支払いをすべき」との意見がある一方、「再度特別定額給付金などの特需が無い限り先行きは厳しい」との指摘もある。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で364件(前回月602件)、先行きで725件(前回月917件)。凄まじいまでの言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦もすべて吹き飛んでしまっているが、前回月よりは減っている。一方で「ワクチン」に関しては現状で25件(前回月7件)、先行きで379件(前回月113件)の言及があり、今後の状況好転の鍵として大いに期待されているようだ。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で沈静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い平常化を願いたいものだが。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
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