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テレビニュースの報道姿勢や有権者への賄賂の観点で選挙の公正さへの認識をさぐる(2017~2020年)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ テレビニュースは選挙に関して公明正大に伝えているはずだが。(写真:PantherMedia/イメージマート)

民主主義を支えるのに欠かせない仕組みの一つとして挙げられる選挙だが、その結果は大きな影響力を持つことから、色々な思惑による画策が生じ得る。今回は世界規模で国単位の価値観を定点観測している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)の結果を基に、自国の選挙におけるテレビニュースの報道姿勢や、選挙とお金の関係への認識について確認をしていくことにする。

最初に示すのは報道のあり方にもかかわる問題。自国の選挙においてテレビニュースは政権政党を(不公平な、非公正な形も含め)支持する形で報じていると認識しているか否か。報道は公明正大が原則であり、投票行動の意思決定のために重要な情報を得られるテレビニュースは極力その姿勢が求められるのだが。

↑ 自国の選挙においてテレビニュースは政権政党を支持する形で報じる(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)
↑ 自国の選挙においてテレビニュースは政権政党を支持する形で報じる(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)

もっとも強い形で設問の通りであるとの認識をしているのは台湾。次いでポーランド、コロンビア、ブラジル、スペイン、ギリシャ。逆に政権政党を支持する形ではテレビニュースは報じていないとの認識が強いのはスウェーデン、オランダ、チリ、ニュージーランドなど。

日本はマイナス0.163で政権政党を支持する形ではテレビニュースは報じていないとの認識。値が少々小さい気がするのだが。なお「分からない」が21.4%と諸国中では最大値を示しており、これがマイナス幅を小さくした一因の可能性はある。

一方でアメリカ合衆国はプラス0.302。調査時点における大統領は共和党のトランプ氏であり、ほとんどのメディア、特にテレビは反トランプを掲げていた実情を合わせみるに、あれでもまだ政権寄りの報に受け止められたのかという実情が確認できる。

続いて有権者に賄賂が渡されているか否かの話。もちろん贈賄側は望んだ候補への投票を期待した上での行為となる。公正な選挙を妨げる行為に他ならず、ほとんどの国では原則禁止となっている。

↑ 自国の選挙において有権者は賄賂を受け取っている(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)
↑ 自国の選挙において有権者は賄賂を受け取っている(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)

プラス幅が大きい、つまり有権者は賄賂を受け取っているとの認識が強いのはコロンビア、メキシコ、ブラジル。中南米諸国で固まっており、地域性のようなものが感じられる。次いでイラク、フィリピン、さらには台湾、イタリアが続く。

逆にマイナス幅が大きいのはスウェーデンやドイツ、フィンランドなど。これらの国は選挙の公正性、厳粛性の観点では常に上位についており、少なくとも国民の認識として選挙が公明正大に行われているとの考えが支配的であるものと考えられる。

日本はといえばマイナス0.143、アメリカ合衆国はマイナス0.429。日本のマイナス幅がやや小さいような気もするが、これもまた「分からない」の回答値(21.9%)が足を引っ張っているようだ。

最後は贈賄側の問題。自国の選挙においてお金持ちは票を買っている、つまり贈賄をしているとの認識があるか否か。あるとの認識が強ければプラス幅が大きくなり、ないとの認識が強ければマイナス幅が大きくなる。

↑ 自国の選挙においてお金持ちは票を買っている(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)
↑ 自国の選挙においてお金持ちは票を買っている(ほぼ常に=+2、おおよそ=+1、あまりそうではない=-1、まったくそうではない=-2での平均値)(2017~2020年)

選挙においてお金持ちによる買収行為が行われているだろうと強く認識しているのはコロンビア、ブラジル、そして意外にも台湾。さらにイラク、メキシコ、フィリピン、さらにはアメリカ合衆国が続く。あの国ならば、というものもあれば、あの国が、というものもあり、複雑な結果ではある。

他方マイナス幅が大きい、つまり選挙でお金持ちによる贈賄行為は行われていないだろうという認識が強いのはスウェーデン、オランダ、ドイツ、スロベニア、アゼルバイジャンなど。日本はマイナス0.518でかなり低い値ではある(ただし「分からない」が26.7%いる)。

今件取り上げた設問はあくまでも国民の認識によるもので、実際にそれらの行為が行われているか否かを意味しない。単なる印象的な話に惑わされている、過大表現に揺さぶられている部分もあるだろう。

他方そのような認識をするのにはそれなりの情報があり、その情報にはウソや出まかせではなく事実が紐付けされている場合もあるのも事実。そしてそれらの行為は、公正な選挙においては間違いなく足を引っ張るものとなる。国民に疑問の目を向けられないよう、関係方面は目を光らせ、厳しく取り締まり、姿勢を正してほしいものである。

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※World Values Survey(世界価値観調査)

世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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