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主要国のエネルギー輸入依存度をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 偏在するエネルギー。乏しい国は余剰を持つ国からの輸入が必要。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

国を維持するのに必要なエネルギーは地域偏在が生じ、多くの国が互いに不足分を他国から輸入し、余剰分を不足時に備えて蓄積したり他国へ輸出している。その実情を「エネルギー輸入依存度」として確認する。

今件を確認するにあたり用いるデータはIEA(国際エネルギー機関:International Energy Agency)が毎年発行している白書「WORLD ENERGY BALANCES」。日本原子力文化財団などが発行している「原子力・エネルギー」図面集の最新版などにおいて、この白書の2019年版(データの中身は2017年分)の値を確認することができた。そこでこれを用いてグラフを作成する。

次のグラフは各国が消費エネルギー全体のうち、どの程度を国外に依存しているかについて図にしたもの。100%なら国内消費エネルギーの100%を海外からの輸入に頼っている計算になる。逆にマイナスの場合は、自国内で生産したエネルギーで国内消費エネルギーのすべてを(原則的に)まかなっており、さらに余った分(マイナスの分)を海外に何らかの形で輸出している計算。

もっともこれらの値は全部の総和。例えばプラスの国(輸入国)が一切エネルギーを国外に輸出していないわけではない。逆にマイナスの国(輸出国)がエネルギーを一切輸入していないはずもない。

↑ 主要国のエネルギー輸入依存度(マイナスは輸出)(2017年)
↑ 主要国のエネルギー輸入依存度(マイナスは輸出)(2017年)

原子力発電の場合、燃料の輸入問題はあるが、それを別にすれば備蓄できる燃料の効率の観点から、自国内でエネルギーを生産していると考えることもできる。そこでこのグラフでは原子力発電を含めた場合と、除外した場合の2通りで算出した値をグラフにしている。

イタリアは脱原発政策を貫いているため、「含む」「除く」双方で同じ値を示している。一方、エネルギーの自給自足・自活を(他国に影響されない、政略上の独自基調を裏付けるための)国策としているフランスでは、積極的な原発推進をしている。その関係で、含む・除くの差が非常に大きなものとなっている。原子力を自国算出エネルギーと換算すればフランスでは5割近くを自活できているが、そうでない場合は日本とほぼ同じレベルの輸入依存度となる。

それらの特異的な動向を除けば、グラフの左から順に、日本、韓国、イタリア、ドイツまでがエネルギー輸入大国、フランス、インド、イギリス、インド、アメリカ合衆国、中国までが輸入小国(「原子力含む」の値で50%以上か否かで判断)、そしてブラジル、カナダ、ロシアが輸出国であるのが分かる。

意外に思えるのが「カナダがエネルギー輸出国」であること。これは同国では石油が採掘できるだけでなく、各種自然に恵まれており、水力発電が極めて盛んなのが要因。自国内の電力料金も安めで、他国に輸出できる余裕すらある(もちろん無駄使いをしているわけではない)。

整数値までの公開値のためぶれが大きいのが残念だが、年単位での変移の概要を計算したのが次のグラフ。国の並びは上のグラフと揃えてある。

↑ 主要国のエネルギー輸入依存度(前年比、概算、ppt)(2017年)
↑ 主要国のエネルギー輸入依存度(前年比、概算、ppt)(2017年)

1%程度は誤差の範囲と見ると、インドがプラス、日本、アメリカ合衆国、カナダ、ロシアがマイナスとの動きが確認できる。対外戦略上は当然国内だけでエネルギーをまかなえる=輸入依存度が低い方がよい(海外の思惑に翻弄されることなく、国内の経済政策が行える)ので、日本、アメリカ合衆国、カナダ、ロシアはポジティブ、インドはネガティブにエネルギー状況が変化したことになる。もっともこれが、景気動向に伴うもの(景気悪化≒エネルギー消費量減少≒輸入依存度減少(国内算出分でまかなえる))の場合には、一概に「マイナス=よいこと」とは言い切れない。

また、日本にスポットライトを当てると、少資源国であるため、エネルギーの多くを輸入に頼っている現状が改めて認識できる(例えば石油の場合、国内産出量はごくわずかに過ぎない)。輸入でエネルギーが十分に、安定した状態で確保されている状況に慣れていると、それが当たり前のものとして認識し、忘却し、大切さを忘れてしまう。しかし実際には多くの人の手によってその「気がつかない当たり前」が支えられている。インフラとは、かくも地味で、そして大切なものであることを忘れてはならない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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