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部数増減に一喜一憂…ビジネス・金融・マネー系雑誌部数動向をさぐる(2020年1~3月)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ スピード感の重要性がより高まったビジネス界。その専門誌は?!(写真:アフロ)

「PRESIDENT」ダントツ状態継続中

インターネットやスマートフォンの普及で、時間との闘いが激しいビジネス、金融業界。その分野の専門雑誌の部数動向の実情を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。

最初に精査するのは、直近分にあたる2020年の1~3月期とその前期に該当する、2019年10~12月期における部数。

↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2019年10~12月期と2020年1~3月期)
↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2019年10~12月期と2020年1~3月期)

「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリーの雑誌は定期刊行誌では全部で6誌だったが、その後「BIG tomorrow」も休刊に伴いデータの非公開化が行われ、5誌に減ってしまった。そして2018年10~12月期を最後にPHP研究所の「THE21」が姿を消してしまう。

「THE21」は現在も定期的に刊行を続けており、休刊のお知らせは公式サイトなどでは確認できない。何らかの理由により単純に印刷証明付き部数の非公開化に踏み切ったものと考えられる。

↑ 印刷証明付き部数(THE21、部)
↑ 印刷証明付き部数(THE21、部)

部数が低迷していたのは事実ではあるが、その動向を推し量るすべが無くなるのは残念な話ではある。

不定期刊化し、出入りが激しかった「¥en SPA!」は今期でも顔を見せていない。「¥en SPA!」は2019年12月16日に発売された2020年冬号が最新号。今期の対象時期では新刊は出ておらず、部数も非公開のまま。以前は半年ぐらいごとに刊行し、部数も1期ごとに公開・非公開を繰り返していたが、2017年4~6月期を最後に公開されないままの状態が続いている。編集部、あるいは出版社がこれまでとは方針を変え、非公開との判断を下したのかもしれない。なお同誌公式サイトでは発行ペースについて「不定期刊」との表記が確認できる。

対象誌の中では「PRESIDENT」が前期から継続する形でトップの部数。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍以上もの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年1~3月期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。

その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形に。2013年までの沈滞期と比べれば5万部ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。そして2016年の10~12月期に大きな伸びを見せ、その後はほぼ横ばいのままだった。2018年4~6月期以降は減少傾向を示しているのが気になるところ。

↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)
↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)

同誌は昨今の動向を見る限りではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。よいパターンを見つけたのだろう。ここ数期の低迷ぶりを見るに、そろそろ新しいヒット企画が出てくる期待もあるのだが。

全誌マイナス…前四半期比較

次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明付き部数の変移。前期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手短に各雑誌の状態を知るのには適している。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2020年1~3月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2020年1~3月)

今期では4誌すべてが前期比でマイナス。誤差領域(5%内の振れ幅)を超えた下げ幅を示したのは3誌。

一番下げ幅の大きい「週刊東洋経済」だが、部数動向は緩やかな下落の動き。ここ数期において、やや下げ方に加速がついた感はある。

↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)
↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)

「週刊東洋経済」は週刊で畳みかけるように世の中のトレンドを捉えた経済方面の特集が多く、これが部数の安定を支えているのだろう。該当期発行号の中では「病院が壊れる」「今年こそ始めるプログラミング」「信じてはいけない クスリ・医療」「資産運用マニュアル」などが、話題性も高く評価も集めている。他方、タブロイド紙的なあおりを思わせる見せ方の記事も少なからずあり(特に公式ウェブサイトに転載されたもので多く見受けられる)、経済誌としての評価は分かれるところ。

前年同期比動向はどうだろうか

続いて前年同期比を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きのためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2020年1~3月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2020年1~3月)

「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」が誤差領域内のプラスで、それ以外の3誌はマイナス。しかもマイナスの雑誌はすべて誤差領域を超えた下げ幅を示しており、前期比で一番大きい下げ幅を示した「週刊東洋経済」は前年同期比でも同様で、しかも下げ幅は1割を超えている。

前年同期比で唯一プラスを示した「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」だが、長期的な部数動向は緩やかな下落傾向の中にある。

↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)
↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)

「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」はグローバル・マネジメント誌を名乗る経営学誌。1922年にアメリカ合衆国のハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として創刊された雑誌で、今では日本も含め14か国で刊行されている。該当期における刊行誌は3誌。「デュアルキャリア・カップルの幸福論」「戦略を実行につなげる組織」「女性の力」とビジネスの現状に合わせた魅力的な特集が並び、電子版も用意されている。もっとも読者の感想の限りでは、読み物としては高評価ではあるが、実用的ではない、具体的な話が無いとの意見も見受けられる。雑誌の方向性の上では難しい話に違いない。

部数動向は長期的には下落傾向に違いないが、ここ数年に限れば現状維持で持ちこたえているようにも見える。何かをきっかけに上向きへの転換ができればよいのだが。

コミック系雑誌では進んでいる、定期刊行の雑誌の現時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。特にビジネス・金融・マネー誌は電子化との相性がよいので、読者の紙媒体からのシフトは大きな動きとなりうる。それに伴い今件「印刷」証明付き部数の動向が、その雑誌の勢いそのものを反映し難くなるのも仕方が無い。上げ底をせずに厳密な電子版の販売数を合算した、総合的な刊行部数の公開が望まれよう。

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※印刷証明付き部数

該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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