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貯蓄額別・日頃のお金の使い道をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ お金の使い方は貯蓄額でどのように違ってくるのだろうか。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

貯蓄額が増えると消費支出も増える

貯蓄は多様な状況に対応できる究極の保険でもある。貯蓄額別に世帯が日頃どのようなお金の使い方をしているのかについて、2020年5月に公開された総務省統計局による「家計調査」の「貯蓄・負債編」最新版速報値などから、二人以上世帯限定ではあるが確認する(「貯蓄・負債編」では単身世帯は対象としておらず、その値は精査できない)。

今件記事で用いる支出と収入との関係を示す用語を説明すると次の通り。

・(実)収入…税込み収入。世帯主の収入(月収、そしてボーナス臨時収入)+配偶者収入など。要は世帯全体の収入

・支出…消費支出(世帯を維持していくのに必要な支出。「食料費」「住居費」「光熱費」など)

     +非消費支出(消費を目的としない費用。税金・社会保険料など)

     +黒字分(投資や貯金など)

「消費支出」とは「収入の中から、社会生活の過程でお財布から出していく金額」を意味する。

最初に確認するのは、貯蓄額階層別「一か月あたりの」消費支出を示したグラフ。現在貯蓄をどれだけ持っているか、その額面で区分した、一か月における生活費の違いを示している。なお今件では単純に二人以上世帯を対象としているため、世帯主が勤労者以外、例えば年金生活者や個人営業、役員の世帯なども該当する。さらに貯蓄高は単純な貯蓄の額であり、負債との相殺は行われていない。

↑ 消費支出(二人以上世帯、月次、貯蓄額階層別、万円)
↑ 消費支出(二人以上世帯、月次、貯蓄額階層別、万円)

個々の世帯を検証すれば例外のパターンも存在するに違いないが、全体としては貯蓄額が大きい人ほど収入も大きい傾向がある。そして税金や社会保険料なども収入が上がれば増えるが、完全な正比例ではないので、当然「貯蓄現在高≒収入が大きい方が、消費(できる)支出額も大きくなる」。

実際、貯蓄額の違いにより直近年では最大で約5割の消費支出の違いが出ている。また経年変化を見ると、各貯蓄額階層別で大きな傾向だった動きは見られない。

具体的消費支出項目では

漫画やドラマに登場するような豪邸に住む、湯水のようにお金を使える富豪でない限り、多少収入額が大きくても「食費」が跳ね上がり「光熱・水道費」が急上昇することはない(無論多少の上昇はある)。従って、消費支出全体が大きくなれば、「食費」「光熱・水道費」の”割合”は漸減していくことになる。これを確認できるのが、次の貯蓄額別に区切った、主要項目別の消費支出の中身を確認したもの。

↑ 消費支出の費目別構成比(二人以上世帯、貯蓄額階層別)(2019年)
↑ 消費支出の費目別構成比(二人以上世帯、貯蓄額階層別)(2019年)

おおよそ貯蓄額が大きい階層の方が「食料」「光熱・水道」「交通・通信」などの比率は落ちる。3000万円以上の貯蓄があったとしても、毎日執事とメイドさんが身の回りの世話をしてくれるわけではなく、運転手がリムジンでお出迎えを受けることもないからだ。

また「貯蓄額≒収入」が大きいほど(グラフ上では右側になるほど)「その他の消費支出」「教養娯楽」の2項目(一番上と上から二番目)の比率が大体増加している。このうち「その他の消費支出」とは具体的に「諸雑費」「こづかい」「交際費」「仕送り金」が主な項目として例示されており、簡潔には「色々雑多に自分の自由意思で使えるお金」と表現できる。

消費支出額そのものも増え、自由裁量の強い支出項目が占める割合も増える。結論として「貯蓄現在高≒収入が大きい方が、自分の思う通りに使い回せるお金の額が大きい」ことになる。当たり前の話だが、今件の数字・グラフはその常識的な話、あるいはイメージ的な事象について、数字的・統計的に裏付けたものとなる。

他方、同一年における貯蓄額の違いによる各品目別の構成比は金銭的な豊かさによって差異が出てくるが、経年変化における差異は、昨今では特に食費(エンゲル係数に直結する)においては以前ほど意味が無いものとなりつつあることを加えておく。ここ十年ほどの間にスーパーやコンビニの急速な日常生活への浸透、それに伴う惣菜や冷凍食品などを用いた中食文化の普及が進んでおり、食の上での投資額の増加が、生活の豊かさを表す指標の一つとなりつつあるからだ(自炊料理を敬遠しがちな高齢者の全体に占める比率の増加もそれに拍車をかけている)。エンゲル係数の経年的変化上の比較は、あくまでも食文化・食生活の環境が同一である場合にのみ有効となる。昨今の状況変化は、その前提をくつがえしかねないほどの動きに違いない。

今件で抽出・算出し、グラフを作成した各種値も含め、家計調査報告の公開値はあくまでも平均値であり、絶対的な基準値では無い。しかも二人以上世帯に限定されており、単身世帯の状況はまだ別のものになる。当然、平均値を大きく外れる世帯も無論多数存在するはずだ。

だが社会全般の動向を概要的に表現していることもまた事実。今件結果を眺めていると、記事内で解説した動き以外にも色々と、世の中のお金関連の動向が見えてくるに違いない。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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