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交通事故による2019年の死者数、前年から317人減少して3215人に

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 交通事故は痛ましく、多数の被害者を生むことも。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

減少傾向にある交通事故での死者数

警察庁が2020年1月6日に発表した報告書「令和元年中の交通事故死者数について」によれば、2019年における全国の交通事故死者(事故発生から24時間以内に死亡)の数は3215人となり、2018年の3532人から317人減少(9.0%減少)したことが明らかになった。そこで直近分も併せ、日本の交通事故による死者数動向を確認していく。

まずは以前の統計値や今回発表された値を用い、過去20年間における年間交通事故死者数の推移を見ることにする。今統計値における「死者数」は、事故発生から24時間以内に死亡した人数を指す。統計ではその他に30日以内の場合の「30日以内死者数」、さらには厚生労働省の公開値として「1年以内死者数」も存在する(後述)。

↑ 交通事故死者数(年間、人)(直近20年間)
↑ 交通事故死者数(年間、人)(直近20年間)

多少のでこぼこはあるが、確実に減少の一途をたどる状況が把握できる。2000年はイレギュラー的にわずかに前年比で増加したが、それ以外は過去20年間、交通事故による死者はおおよそ年々減少していた。

4年前の2015年分はわずか4人ではあるが増加に転じている。これは当時の報告書の解説文に「交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が近年の交通事故死者数を押し上げる要因の一つとなっており、昨年の交通事故死者に占める65歳以上の高齢者の比率は過去最も高くなっております」「交通事故死者数が増加した要因としては、事故に遭った際の致死率が高い高齢者の人口が増加していることなどが挙げられる」と説明があり、高齢者の交通事故死者が増加したのが主要因であることが確認できる。

過去にさかのぼって確認しても、若年層・中年層と比べて高齢者の死者数の減少度合いはゆるやかで、増加する年もしばしば確認でき、これが2008年ぐらいからの年間交通事故死者数の減少度合いのゆるやかさ、2015年の増加の原因と見て大体間違いはない。

↑ 交通事故死者数とそのうち高齢者の数(65歳以上)(人)
↑ 交通事故死者数とそのうち高齢者の数(65歳以上)(人)

もっとも2019年においてはその高齢者の死者数も人数の上でも減少を示し、全体数も減少している。

元々高齢者は人数、全人口比率ともに増加中であることから、若年層・中年層と比べて減少度合いがゆるやかであることは仕方が無いとする面もある。一方で、事故発生リスクそのものや、事故に遭遇した際の致死率は高齢者の方が高いのも事実。単に人口の増加だけでは説明できない要因もあることは否定できない。むしろその要因の方が、全体の交通事故死者数の減少率のゆるやかさや、全死者に対する比率増加傾向の原因としてウェイトが大きい。

今件発表値を用い、年間交通事故死者数の前年比を算出したのが次の図。

↑ 交通事故死者数前年比(直近20年間)
↑ 交通事故死者数前年比(直近20年間)

前世紀末、2000年ごろまでは多少の減少度合いの縮小化、さらにはプラス化の動きもあった。しかし今世紀に入ってから、特に2005年以降は数年にわたり、死者数が加速度的に減少しているようすが実感できる。2008年以降は減少幅が落ち着きを見せ(高齢者の死者数減少度合いがゆるやかになってきた時期と一致する)、2015年では今世紀に入って初めて死者数の前年比がプラスを示す結果となった。今回発表分となる2019年は2018年に続き死者数は減少、しかも前年比では9.0%のマイナスと大きな下げ幅を示している。

定義を変えても死者数は減っている

今件における交通事故死者の数はあくまでも「事故発生から24時間以内」のもの。発表を見聞きした人の中には「望みが無くとも24時間は延命させて、都合の悪い数字減らしをしているのでは。実際は事故状況は悪化しているかもしれない」と陰謀説を巡らせる人もいる。しかしその考えは間違いである。

次に示すのは事故発生から24時間に限定した今件報告書による死者数以外に、警察庁が別途集計している「30日以内」、さらには厚生労働省の統計(人口動態統計)に基づいた交通事故死者数(1年以内)などの動向を示したもの。今世紀に入ってからはすべての値が減少しているのが把握できる。

↑ 交通事故発生件数・負傷者数・死者数
↑ 交通事故発生件数・負傷者数・死者数

1960~1970年における「第一次交通戦争」は経済発展の中で自動車、特に商用車の急速な普及とともに、立ち遅れた交通行政と自動車社会に対する啓蒙不足、法整備不足を原因としている。そして平成元年からの数年間における「第二次交通戦争」は自動車交通の加速化に対して行政の対応が間に合わなかった(環境整備予算、人員数、若年層への啓蒙)とする意見が有力。

しかし第二次交通戦争以降は

・車両台数は増加、その後十年強の間は横ばい。

・事故発生件数、負傷者数は上昇、その後横ばいから減少の傾向へ。

・死者数(24時間以内、30日以内、1年以内)は一貫して減少。

の様相を見せている。特に事故発生件数と負傷者数は2004年から2005年にかけて減少したのを皮切りに、ようやく減少傾向に転じたのに対し、各種死者はそれ以前から一様に急速に減少しているのは注目に値する。

これら一連の減少傾向について警察庁のレポートなどによればその理由として、

・シートベルト着用者率の向上。

・事故直前の車両速度の低下(安全運転の徹底化や取り締まり・法令強化、警告装置の充実)。

・悪質・危険性の高い事故の減少(∴死亡事故が減る)。

・歩行者の法令遵守。

・自動車技術の進歩(エアバッグ、ABS、車体構造、シートベルト)。

・シートベルト着用、飲酒運転などに関する交通ルールの規制強化。

・医学、生存技術の進歩による事故死の減少(事故数と負傷者数が比例していることも裏づけ)。

などの複合効果による成果としている。一つ一つだけでは決定打となるものではないが、これらの対策が積み重なり、確実に交通事故による悲劇を減らしている。それは上記の各種データが語っている。

他方、今後高齢者そのものの数の増加に伴い、高齢者の交通事故死者数の減少度合いがゆるやかに、さらには増加する可能性は否定できない。交通事故は当事者だけでなく周囲の人も巻き込む可能性が多分にあることを考慮すれば、早急に法令の改正も併せ、的確な対応が求められるに違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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