増加する需要に伴い遅延化する救急搬送

総務省消防庁は2019年12月26日、2019年版「救急・救助の現況」を発表した。それによると119番通報を受けてから対象患者を病院に搬送するまでの全国平均時間は、2018年(中、以下略)においては39分30秒であったことが明らかになった。これは2017年の39分18秒と比べて12秒延びる形。また通報を受けてから現場に到着する時間は8分42秒となり、こちらは2017年の8分36秒から6秒延びる結果となった

次に示すのは消防庁内の公式サイトから抽出可能な数字を抽出し、「救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間」、さらにそこから「現場到着後・病院収容までの平均時間」を算出してグラフにしたものだが、次第に時間が延びている実情がうかがえる。

↑ 救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間
↑ 救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間
↑ 救急自動車による現場到着平均時間と現場到着後病院収容までの平均時間
↑ 救急自動車による現場到着平均時間と現場到着後病院収容までの平均時間

「現場到着時間」とは通報を受けてから現場に着くまで、「病院収容平均時間」とは通報を受けてから現場に到着し、対象患者を救急車に収容して病院に収容するまでの時間を意味する。いずれの時間も年々増加の傾向を見せていたのが分かる。

そして、ここ6年ほどの間はほぼ横ばいでの推移となっており、救急側の対策と搬送人員数の増加がほぼ均衡している状況にあることがうかがえる。ただし現場到着平均時間と病院収容平均時間双方とも、記録の中では2018年のものがもっとも長い時間を示す形となった。

進む搬送者の高齢化

「病院収容時間」などの時間が延びている原因はいくつか推測でき、「救急・救助の現況」を基に毎年消防庁が分析の上で提供している消防白書でも問題点として指摘している。そのうちの大きなものが「軽症患者、あるいは救急搬送が不必要な事例による出動が増え、救急活動がオーバーフロー気味となっている」と「高齢者の呼び出しによる出動回数の増加」。それを裏付けるデータを確認していく。

まずは傷病程度別運搬人員の状況。もっとも古い1998年から直近の2018年までのデータをもとに算出して比較したもの。軽症者比率はほぼ横ばいで、中等症者(3週間未満の入院が必要な傷病の者)比率が増加、重症者以上が減少している。

↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、比率)
↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、比率)

ただしこれは全搬送者数に対する比率。1998年当時は約354万人だった搬送者も10年後の2008年には約468万人、そして直近の2018年では約596万人にまで増加している。その上で比率に変化があまり無いことから、軽症の搬送者数は増加していることが分かる。もっともここ数年ではそれ以上に、中等症者が増加しているが。なお中等症搬送者の70.0%は高齢者(65歳以上)で占められている(2018年)。

↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、人)
↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、人)

ケガにしても病気にしても本人自身ではその重度が判断しにくい。「軽症に思えるのなら救急車は呼ぶな」との意見に正当性は無い。しかし同時に、数字の上ではこのようなデータが出ている事実を認識しておく必要はある。

もう一つは年齢階層別区分。消防庁でも年齢階層別構成に係わる問題については近年注視しており、2008年以降からデータを公開している。

↑ 救急自動車による搬送人員数(年齢階層別、比率)
↑ 救急自動車による搬送人員数(年齢階層別、比率)

明らかに高齢者の比率が上昇しているのが確認できる。また確定値が出ている直近の国勢調査(2015年実施)の人口比も併記したが、高齢者の搬送比率が人口比よりはるかに多いのも一目瞭然。

病状の悪化やケガの発生比率を考えれば、高齢者搬送比率が人口比率より高いのは当然。しかし一方で、総務省などの統計データによる人口比率の変移と比べても、非常に高い上昇率を示しているのが気になるところだ。あるいは「高齢者」(65歳以上)区分の中でもよりリスクの高い年齢層の比率・絶対数の増加によって、必然的に搬送人員数が増えていると見た方が妥当かもしれない。

ちなみに直近年における、高齢者に区分される年齢階層をさらに細分化した搬送人員状況は次の通り。

↑ 救急自動車による搬送人員数(65歳以上の内訳、年齢階層別)(2018年)
↑ 救急自動車による搬送人員数(65歳以上の内訳、年齢階層別)(2018年)

年を取れば取るほど傷病リスクは高まるのだから当然ではあるが、単純な人口比では65~74歳の比率が一番高いが、搬送人員数比率では75~84歳がもっとも高い。ちなみに単純試算だが2018年においては、85歳以上の24.6%は救急自動車で搬送されたことになる(65~74歳は5.5%、75~84歳は12.4%)。無論、1年間で複数回搬送された事例もありうることから、実際にはもう少し低い比率になるのだろうが。

消防庁でも限られたリソースの中で、できる限りの効率運用を成して状況の改善を図るべく、さまざまな施策を打ちだしている。しかし急増する対応事例には応じきれず、病院収容時間などが延びてしまっている。ここ数年はかろうじて搬送者数の増加と対策の効果が均衡しているようだが、この均衡がいつ崩れるか予測は不可能ではあるし、また現状がベストの状況であるとは言い難い。状況の改善のためには救急体制の抜本的な改革(例えば論議に挙がっている、救急搬送の一部有料化による、実際には救急自動車を必要としない傷病者の利用減少模索)や、投入リソースのさらなる増強が求められよう。

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