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高齢層は何歳頃まで対価の得られる仕事をしたいのだろうか(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 働く高齢者もよく見かけるようになったが。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「働ける限り働きたい」約3割

高齢者人口の増加や年金支給開始年齢のシフト、医療技術の進歩に伴う健康状態を維持できる年齢の伸張などを背景に、定年の引き伸ばしや退職後の再雇用などが社会の注目を集めている。内閣府が2015年3月に発表した「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査」(※)の公表結果を基に、高齢層が何歳ぐらいまで収入を伴う仕事をしたいと考えているかについて確認する。

調査対象母集団に「何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか」と尋ねたところ、もっとも多い回答は「働ける限り」となり、男女とも3割近い結果が出た。なお「収入を伴う」とは一般的な就労を意味し、ボランティア活動や地域活動などの無報酬労働、交通費程度の必要経費のみの支払いが行われる就業は該当しない。あくまでも対価を得るのを目的とした仕事に限定されている。

↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(男女別)(2014年)
↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(男女別)(2014年)

「働ける限り」が具体的にどのような状況を意味するかは回答者の解釈次第。雇用する側が許容する限り、自身の肉体に無理を感じない限り、自分の現状で働ける場所においてコストパフォーマンス的に容認できる限り、色々と想定できる。とはいえ、就労意欲が旺盛なことに違いはない。

「可能な限り」以外では65歳から70歳がボリュームゾーンとなるが、一方で「したくない(望まない)」「分からない」との回答も多い。定年退職の年齢以降は、再就職はしたくない、しても数年で終えたいとの意見も多い。

男女別では男性の方が就労意欲は強い。具体的な年齢区分ではほぼ男性の方が回答率が高く、「したくない」「分からない」では女性の方が多い。もっともこれは家事を任される・する必要があるなどの都合も影響しているのかもしれない。

属性別に確認

続いていくつかの属性に区分した上で、回答の違いを確認していく。まずは回答者の年齢階層別。同じ高齢者でも現時点の年齢で、大きな違いが生じている。

↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(年齢階層別)(2014年)
↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(年齢階層別)(2014年)

「働ける限り」がどの年齢でも最多回答に違いないが、年を取るに連れて減っているのは、自身の現状を認識しての結果だと考えられる。ただし逆の動きを示すのが「したくない」ではなく「分からない」「無回答」であることから、気力の問題では無く体力や雇用する側の事情で就業できないかもしれないとの発想が優先されているものと考えられる。

具体的な年齢区分では60~64歳時点では「65歳」がもっとも多く、65~69歳では「70歳」が最多回答。自分の現在の年齢からプラス数年ぐらいは働きたいが、最長でも5年以内に留めたいとの思惑が見て取れる。

続いて世帯構成別。

↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(世帯構成別)(2014年)
↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(世帯構成別)(2014年)

世帯構成別では傾向だった違いはない。あえて法則性を見出すとすれば、大世帯にいる人、他世代と同居している人ほど就労意欲があるように見える。単身世帯では特に就労意欲が薄い感はある。同居人によいところを見せたい、存在意義を示したい、少しでも生活を支えたい、色々な想いが就労願望に表れているのだろう。

最後は就業形態別。

↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(就業形態別)(2014年)
↑ 何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか(就業形態別)(2014年)

こちらは明確な違いが出ている。農林漁業や自営業など、個人の力量・状況で仕事を判断できる職種では、「働ける限り」の回答率が群を抜いて高い。他方、勤め人では65歳・70歳といった区切りのある年齢までの就労を望む人が多い。ただし役員の場合は定年制が無いことが多く、(例えば非常勤などで)負担も軽いことから、特定された年齢は75歳がもっとも高い値を示し、「働ける限り」の回答率も大きめなものとなる。

もともと回答時点で仕事をしていない人は、働けるとしても65歳ぐらいまで、できれば働きたくない、あるいは分からないとの回答が多い。事情は多種多様だが、すでにリタイアをしている人、せざるを得ない人が多いことが考えられる。

生き甲斐や生活費の補てん、コミュニケーションの場を求めてなど、(定年)退職後に新たな対価のある就業を求める高齢者は多い。雇用する側もそれを求めている事例も少なくない。実際、労働力調査などでも、高齢層の非正規における雇用人口が急増しているのが確認できる。

他方、マッチングの問題があるとはいえ、公的支援も含めて高齢層への就労需要・サポートへの注力が進むと、相対的に若年層への就業支援はおろそかになりかねない。バランスのよい対策を願いたいものだ。

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※平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査

2014年12月4日から26日にかけて層化二段無作為抽出法によって選ばれた日本国内に住む60歳以上の男女に対し、郵送配布・郵送回収形式で行われたもので、有効回答数は3893件。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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