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「高齢世帯ほどお金持ち」は当然なのか、世帯主の年齢階層別貯蓄額の実情をさぐる(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 高齢者と若者、お金持ちか否かとは関係があるのか。(写真:アフロ)

中年層で負債が増え、定年退職あたりで貯蓄が大きく増加

「年寄りほど金持ち」との話はよく耳にする。その格差の実情を、各種公的資料を集約した内閣府の高齢社会白書から確認する。

一般的には年上の人ほど働いている(いた)累計時間は長くなり、貯蓄する機会も多くなる。例えば毎月同じ額だけ貯蓄をして引き出していなければ、3か月後より3年後の方が貯蓄額は増える。二人以上世帯において世帯主の年齢で区切った上で、各年齢階層ごとの貯蓄額を見ても、貯蓄は年上になるに連れて増えていくのは当たり前の話。

↑ 貯蓄・負債、世帯年収、持家率(二人以上世帯、1世帯あたり、高齢社会白書(2019年版)、世帯主の年齢階層別)
↑ 貯蓄・負債、世帯年収、持家率(二人以上世帯、1世帯あたり、高齢社会白書(2019年版)、世帯主の年齢階層別)

30~40代で負債が大きな値を示すのは住宅ローンの負担によるもの。同じタイミングで増えている「持家率」が、それを裏付けている。50代に入ればローン完済組が増えるために全体平均としての負債額は減り、さらに世帯年収も増えるため、金銭的なプレッシャーは減少していく。

60代に至ると定年退職組が出てくるために世帯年収は減るものの、退職金などの上乗せで貯蓄額は増加する。持家率も9割を超え、家賃による家計への負担も極少化される。単純な貯蓄額の差異に加え、持家率の高さが、高齢層の金銭的余裕の裏付けとなる。

高齢層は高貯蓄層が多い

全般的には高齢世帯ほど金銭的に余裕があるように見える。しかしこれは全体平均としての値。実際には多様な世帯が存在し、貯蓄が100万円に満たない世帯もあれば、4000万円を超す世帯もある。そこで二人以上世帯のうち「全世帯」、そして「世帯主60歳以上に限定した世帯母体」(=原則的に定年退職後の世帯主がいる世帯)それぞれで、貯蓄の現在高分布を確認したのが次のグラフ。

↑ 貯蓄現在高階層別世帯分布(二人以上世帯、高齢社会白書(2019年版))
↑ 貯蓄現在高階層別世帯分布(二人以上世帯、高齢社会白書(2019年版))
↑ 貯蓄現在高階層別世帯分布(二人以上世帯、高齢社会白書(2019年版))(面グラフ)
↑ 貯蓄現在高階層別世帯分布(二人以上世帯、高齢社会白書(2019年版))(面グラフ)

ちなみに全世帯での平均値は1812万円・中央値は1074万円。世帯主の年齢が60歳以上の世帯では平均値2384万円・中央値1639万円。

やはりひと目で、「世帯主60歳以上に限定した世帯母体」の分布において「4000万円以上」世帯の比率が高いのが確認できる。これは退職金による上乗せによるところが大きい。面グラフにすると、高齢世帯母体で貯蓄額が多い世帯が、全体よりも多い傾向にあることがはっきりとわかる。具体的には1000万円以上で「全世帯」と「世帯主60歳以上に限定した世帯母体」の値の大小が逆転し(1200~1400万円以下で一度再逆転するが)、2000万円を超えた時点で差が一段と大きくなる。

高齢層は貯蓄を削って生活していく

高齢層の方が平均的な貯蓄額だけで無く、高額貯蓄層の率が高い。これは前述の通り「経年蓄積」によるものであり、同時に年金だけでは不足する生活費のための取り崩し用の蓄財に他ならない。

また公的年金や恩給を需給している高齢者世帯では、その多くで収入源が公的年金のみとなっている。そのため、事前の備えが前提となる世帯も多い。貯金などの取り崩しは収入では無い。

↑ 高齢者世帯の家計・収入面(円)(2018年)(家計調査報告より筆者作成)
↑ 高齢者世帯の家計・収入面(円)(2018年)(家計調査報告より筆者作成)
↑ 公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別・世帯数の構成比率(高齢社会白書(2019年版))
↑ 公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別・世帯数の構成比率(高齢社会白書(2019年版))

一方で、若年層の貯蓄が少なく、金銭的に余裕が無いのもまた事実。特に40代まではローンもかさみ、(持家率が少ないため)家賃負担も大きい。その上可処分所得の漸減などもあり、40代までは貯蓄性向が高いとの調査結果も他調査(例えば「国民生活に関する世論調査」)から見い出すことができる。

↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別)(2018年)(国民生活に関する世論調査から筆者作成)
↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別)(2018年)(国民生活に関する世論調査から筆者作成)

お金に関する(特に消費関連)アプローチにおいては、各年齢階層の事情への現状の確認と、それに基づいた十分な配慮が求められる。各年齢階層のお財布事情、将来に向けた金銭感覚は「数十年前」と「現在」では大きく異なることに留意しなければ、大きな空振りに終わることは容易に想像できよう。無い袖は振れないものである。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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