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連休の影響と海外情勢や消費税率引き上げの不安強まる…2019年5月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが。(写真:アフロ)

現状は上昇、先行きも下落

内閣府は2019年6月10日付で2019年5月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、海外情勢などに対する懸念がみられる」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が3月分以降、3か月連続する形となっている。

2019年5月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.2ポイントの44.1。

 →原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは46.7。

 →詳細項目はすべてが下落。「住宅関連」のマイナス3.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.8ポイントの45.6。

 →原数値では「よくなる」「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」が減少。原数値DIは47.9。

 →詳細項目はすべてが下落。「製造業」のマイナス4.1ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

昨今では現状判断DIにおいてやや低迷状態と表現できよう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

ここ数か月は現状判断DIのさらなる低下傾向、つまり景況感の悪化が確認でき、報告書のコメントもそれを裏付けるようなものに変わっている。また概況のフレーズの変化は注目に値すべきもの。さらに今回月では先行き指数も急落してしまっており、景気の足踏み感どころか後ずさり感すら覚えるところがある。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2019年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2019年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは合計で前回月から1.2ポイントのマイナス。詳細項目ではすべてが下落。もっとも大きな下げ幅は「住宅関連」による3.4ポイント。

景気の先行き判断DIでは詳細項目ですべてが下落。下げ幅は「製造業」の4.1ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2019年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2019年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は皆無。

大型連休の反動や悪影響と、国際情勢や消費税

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・令和への改元や、ゴールデンウィークの10連休などで、客の動きが良かった。先行きにも新たな希望を感じているのか、明るい雰囲気となっている(旅行代理店)。

・10連休では、周辺の観光施設や飲食店は景気が良かった。一方、商店街は来街者が少なく売上が上がらず、物販は非常に厳しい状況である(商店街)。

・10連休期間中は例年の110%ほどの集客があったが、7日以降は散々な集客となり、5月のトータルでは例年より若干の集客減となる(高級レストラン)。

・青果の価格が前年並みに戻ってきているが、加工食品の値上げが相次いでおり競合他社との兼ね合いで売価に転嫁できない状況であり、特売商品は動くが定番が動かない(スーパー)。

■先行き

・消費税の引上げ前の駆け込み需要は必ずあると期待しており、景気は一時的に盛り上がるとみている(家電量販店)。

・人件費負担の増加が経営の重荷になりつつある。特に当業界のような労働集約型の事業では、合理化もままならないなかで、直近の業績に多大な負荷がかかっている(その他飲食[給食・レストラン])。

・本格的に消費税増税を意識した買物が出てくる。高額品のほか、軽減税率などの情報を見極めた動きになるため、全体的には慎重になり、節約や倹約志向が強まる(百貨店)。

・夏の繁忙期の予約状況がよくない。10連休の反動もあるとみられるが、道内客、国内客、外国人観光客のいずれも予約の問合せが少ない(観光型ホテル)。

ゴールデンウィークの10連休はボーナスステージ的な盛況ぶりを見せたところもあれば、自分の売上には好影響が生じなかったとする意見もあり、すべてにプラスをもたらすイベントは難しい現実を再認識させられる。また連休があまりにも大型のものであったため、その反動が早くも連休直後に生じて5月のトータルではマイナスになるなど、興味深い動きも見受けられる。

企業関連では10連休の影響の他、米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済の後退感への不安が強く表れている。

■現状

・初めての10連休明けで、多少の取扱量があるものの、中旬以降は大きく減少し、半導体を中心に精密機械関係も大きく減少している(輸送業)。

・大型連休があったこともあり、稼働日数が少ないためか、販売が振るわない。その上、業界が米中貿易戦争の影響を少なからず受けているのではないかと思われる(電気機械器具製造業)。

■先行き

・取引量は現状維持の見込みであるが、燃料や原材料の値上げが実施される予定なので、利益が圧迫される(その他サービス業[廃棄物処理])。

・米中間の関税問題で、中国向けの出荷が減少傾向となる製品が多く、先行きが不安である(金属製品製造業)。

10連休の影響は企業、中でも製造業にとっては稼働日数が減ることによるマイナスの影響が生じる形となっている(あるいはこれも米中貿易摩擦の影響によるものかもしれないが)。他方、前回月から動きが確認できていたが、米中貿易摩擦の激化で世界的な景況感、特に中国における後退ぶりを受け、具体的な影響が生じ不安を覚える企業の動きが確認できる。

雇用関連でも米中貿易摩擦の激化によるものと思われるマイナスの影響らしきものが確認できる。

■現状

・人手不足の状態は続いているものの、ここにきて製造業の景気が少し低迷気味である。求人募集広告を掲載する企業が少なくなってきている(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・企業からの受注はあるものの、人材確保の状況が改善する見通しは立たないため、変わらない(人材派遣会社)。

米中貿易摩擦の激化で大きな影響を受けているのは製造業だが、その製造業で求人動向が不安な状態になっているとの報告が見受けられる。景況感の後退のドミノ倒し状態が生じているようだ。

雇用関連の話として人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。人材プールそのものが枯渇しているのなら話は別だが、現状は多分に「適切な対価引き上げをしていないので人手が集まらない」状況に他ならない。一部で「人手不足だが賃金が上がらない」との意見もあるが、責任回避のための表現の差し替えに過ぎない。

今件のコメントで全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計25件、先行き計45件、合わせて70件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好13件、やや良好19件、不変93件、やや悪い39件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

コメントには人手不足の現象が、多分に労働環境の改善が求められているとの労働市場のシグナルであるにもかかわらず、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。上記で触れているが、「人材不足は賃金不足」である(賃金だけに限らないが)。他方、現状を見据えた上で問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きや状況認識もある。

消費税増税に関しては先行きのコメントにおいて「消費税」だけで338件もの言及が確認できる。駆け込み需要や景況感対策の施策への期待の声もあるが、不安や懸念といったネガティブな内容が圧倒的に多く、景況感の悪化が危惧される。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見受けられず、これが現状なのだろう。

また米中貿易摩擦に関しては先行きのコメントにおいて「中国」で42件、「米中」で113件が確認できる。こちらもネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。特に製造業で影響が顕著化しているのが目に留まる。事態の改善が無い限り、今後も景況感に大きな影響を与えることだろう。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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