「自国の民主主義の実情には満足していない人」の割合が増えている国は多い
民主主義国家の国民は自国の民主主義の実情をどのように認識しているのだろうか。アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2019年4月に発表した報告書「Many Across the Globe Are Dissatisfied With How Democracy Is Working」(※)から確認すると、1年前の調査結果と最新の調査結果との間では、満足していない人が増えていることが明らかになった。
調査対象母集団においては、回答者自身の国における民主主義の実情に満足している人は、全体中央値で45%、満足していない人は51%となっている。地域別傾向の類は見出しにくいが、おおよそアジア地域では高め、南米では低め。
この値は、最近においては固定的なものなのだろうか、それとも少なからぬ動きを示しているのだろうか。対象国における1年前の調査結果と比較し、「自国における民主主義の実情に満足していない人」の割合の変移を計算した結果が次のグラフ。
27か国のうち19か国で値がプラス、つまり自国の民主主義の実情に満足していない人が増えている。これは先進国でも新興国でも変わりがない。報告書でも「不満が大幅に増加」「不満の高まりは世界的に顕著」と言及している。
10%ポイント以上の増加を示したのは6か国、減少幅を問わず減少したのは韓国、フランス、メキシコ、イスラエル、オーストラリアの5か国のみ。報告書では分析としてプラスマイナス5%ポイントまでは誤差領域とし、増加したのは14か国・減少したのは3か国のとしている。なお韓国でイレギュラーともいえる減少ぶりを示しているが、これについては「この1年間に朴槿恵大統領は弾劾訴追を受け、懲役24年を言い渡された」とあり、これが韓国内の人にとって民主主義が正しく履行されていると認識されたようだとしている。
インドやドイツ、ブラジルのような高い値、つまり民主主義の実情に満足しない人が増えている国では、同調査別項目で精査されている、経済状態の悪化が生じていると認識している人も増えている。例えばインドでは2017年では経済状態が悪いと認識している人は12%に留まっていたが、2018年には30%に増加している。経済状態が悪くなると、民主主義が正しく行われていないからだと責任を転嫁する人が増える次第。
逆にフランスや韓国のような、民主主義の実情に満足しない人が減少している国では、経済状態の改善認識をする人が増えている(韓国では多分に朴槿恵大統領の問題も影響していそうだが)。経済がよくなると、民主主義が正しく行われていると考えるわけだ。
ただしアメリカ合衆国は唯一、経済状態が改善していると認識されているにもかかわらず、民主主義の実情に満足しない人が増えている国であると報告書では伝えている。先の大統領選挙以降顕著化している、保守層とリベラル層の対立激化が影響しているのだろうか。
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※Many Across the Globe Are Dissatisfied With How Democracy Is Working
おおよその国では2018年3月から5月にかけてRDD方式で選出された18歳以上の1000人前後の人に対し、電話経由によるインタビュー形式で行われたもので、それぞれの国の国勢調査の結果に基づき男女別、年齢、教育、地域などの属性によるウェイトバックが実施されている。一部の国では対面方式による調査方法が用いられている。
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