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コンビニの出版物販売額をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ コンビニでの出版物の売上はどのような動きをしているのだろうか。(写真:アフロ)

コンビニの店舗数は増えるが出版物の総売上は減る一方

以前はコンビニ(コンビニエンスストア)では欠かせない存在だった雑誌をはじめとする出版物も、昨今では肩身の狭い立場に置かれるようになった。費用対効果の問題などから、配置場所が狭くなる、イートインコーナーに代わられる状況も多々見受けられる。その出版物とコンビニの関係について、日販による「出版物販売額の実態」最新版(2018年版)のデータを基に、コンビニ業界全体と印刷物の関係を確認する。

まずはコンビニにおける出版物売上高とコンビニ店舗数。店舗数を併記したのは、単に売上だけの推移では「店舗数の増減も売上と関係するので、コンビニにおける出版物のポジションの変化がつかみにくい」から。コンビニ店舗数は増加傾向にあるが、それに反してコンビニでの出版物の販売額は減少の一途をたどっている。

↑ コンビニの店舗数とコンビニにおける出版物売上高
↑ コンビニの店舗数とコンビニにおける出版物売上高

店舗数は2004年度以降、一度頭打ちとなるが、2008年度に再び増加に転じ、2010年度のイレギュラーをのぞけばその動きは継続中。2010年度の減少はam/pmが最終的にファミリーマートに合併した影響が大きい。ただし、ここ数年では総店舗数が頭打ちとなっているが、これは大手コンビニによる他の中小コンビニの合併に伴う統廃合が影響している。

一方で出版物の売上高は2003年以降は漸減、2006年以降は加速的な低下傾向を見せている。直近年度では前年度比でマイナス15.2%。店舗数のプラス0.3%分を考慮すると2割近い減少とも表現できる。

この原因については多様な原因が考えられるが、

・減少開始時期がインターネットやモバイル端末の本格的普及時期と重なるため、時間を潰すためのツールとしての「コンビニでの雑誌(特にファッション誌や週刊誌、コミック廉価版など)」の立ち位置がインターネットやモバイル端末に奪われている。

・家計単位での雑誌販売額の減少。

・コンビニで販売される機会が多い雑誌、ビジネスやマネー誌、HowTo関連など、関連雑誌業界不調(質の低下、刊行数の減少)。

・コンビニで販売されるタイプの雑誌における付加価値や情報そのものの陳腐化。雑誌が最新情報を取得するルートではなくなりつつある。

・コンビニにおける利用客の消費性向の変化(お弁当などと一緒の「ついで買い」が出版物からスイーツやフライヤーアイテムに変化しつつある)。

・成人向け雑誌の販売スペース縮小、取扱の中止。

などが挙げられる。いずれも「単独」の理由としては弱いが、複合するものであれば昨今の動向に対する理由としては、十分納得はできる。コンビニで販売される出版物の具体的な種類別販売動向の推移が分かれば、列挙した推測のいくつかの裏付けはできそうだが、公開資料の限りでは、確認することはかなわない。

コンビニの売上全体に占める比率も…

店舗数と総店舗の売上が確認できたので、単純計算ではあるが「1店舗あたりの出版物売上高」の算出が可能となる。

↑ コンビニの1店舗あたり出版物売上高(万円)
↑ コンビニの1店舗あたり出版物売上高(万円)

全体額同様、2003年以降は漸減していることが改めて分かる。2013年以降は減少度合いがやや大人しくなった感はあるが、それでも減っていることに変わりはない。さらに直近年度では大きな下げ方を示してしまった。

他方コンビニそのものの総売上(出版物も含めた全物品・サービスを合わせた売上)は漸増している。

↑ コンビニ業界全体に占める上位4チェーンの売上高(ローソン統合報告書より、兆円)
↑ コンビニ業界全体に占める上位4チェーンの売上高(ローソン統合報告書より、兆円)

結果として、全売上に占める出版物の売上比率も大きく下がることになる。全体額が増えて、対象額が減れば、その対象額の全体比率が減少するのは当然の話。

↑ コンビニの総売上に占める出版物取扱い売上比率
↑ コンビニの総売上に占める出版物取扱い売上比率

雑誌をはじめとした出版物そのものの媒体力、集客力が低下しているのは否めず、場所の効率的利用が徹底されるコンビニにおいて、出版物の取扱比率が減るのも当然の結果。それにしてもこの下落ぶりは驚くべきもの、としか評しようが無い。このままではあと1、2年で、コンビニ総売上の1%を切ることだろう。

2017年分のデータでは、コンビニの売上高の約1/77にまで割合を減らしてしまった印刷物販売。週刊誌などの価格はむしろ上昇気味で、付録付き雑誌(もちろん価格はお高め)の増加も合わせて考えれば、「売上額」ではなく「冊数」では、上のグラフ以上の急降下を形成しているのは容易に想像できる。一部では復権の動きも見られる中で、今後出版物がコンビニにおいてどのような意味合い、存在価値を呈していくのか。気になるところではある。

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(C)日販営業推進室出版流通学院「出版物販売額の実態2018」

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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