音楽離れの実態は…年齢階層別の「音楽との付き合い方」の中身をさぐる
・全体的には音楽には対価を支払わず、新曲に興味は無く、曲そのものを聞かない「音楽離れ」が進んでいた。
・直近の2017年では対価を支払い音楽を聴く人、無料だが新たに知った曲を聴く人など、音楽への対価に意味を見出す人や興味を持つ人が増加している。
・年齢階層別では若年層ほど音楽への対価支払いや新曲への興味を持つ人は多い。
進む音楽離れ、か?!
昨今の音楽業界、特にCD市場の不調要因として、メディア環境の変化・競合の登場以外に、視聴者の音楽離れが進んでいるとの意見がある。そこで今回は日本レコード協会が2018年4月に発表した「音楽メディアユーザー実態調査」(※)の最新版となる2017年度版などから、「主に音楽と対価との関係から見た、年齢階層・経年における音楽との関わり合いに対する姿勢、考え方の相違」について確認を行う。音楽の入手ルートも多様化し、無料で楽しめる手段も増える中、音楽への思いにはどのような動きがあり、それは年齢階層で違いがあるのだろうか。
音楽に対する興味関心のある無し、その気持ちをきっかけにどのような行動に移すかについては人それぞれ。また、同じ気持ちを持っていても、表現手段も多様に及ぶ。今件では音楽との付き合い方に関して、新曲への関心の度合いや対価の支払いの面から、大きく次の4つに区分を設定。回答者には自分の音楽への姿勢として、もっとも当てはまる選択肢を選んでもらっている。
・有料聴取層:
「音楽を聞くためにCDや有料音楽音源など音楽商品を購入したり、お金を支払ったりしたことがある」
・無料聴取層:
「音楽にお金を支払っていないが、無料動画サイトやテレビなどで新たに知った楽曲を聴いた経験がある」
・無関心層(既知楽曲のみ):
「音楽にお金を支払っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴かず、新曲は(テレビなどでも)聴かない」
・無関心層:
「音楽にお金を支払わない。特に自分で音楽を聴かない(音楽には特段積極的な好意、関心を持たない。音楽への本当の意味での無関心派)」
全体的な経年動向としては少しずつだが「音楽へ対価を支払う層」が減り、「既知の曲のみを聴きまわす」「音楽そのものに無関心」の人が増えている。2014年は未調査のために1年分が空いているが、それを考慮しても2015年には大きな「有料音楽離れ」だけで無く「音楽離れ」が進んだ。
直近の2017年では漸減していた「有料聴取層」が初めて前年比で増加し、大きな懸念が持たれていた「音楽に対価を見出せない雰囲気の浸透」が和らいだ感はある。また、少なくとも新曲に興味を感じる「無料聴取層」も前年比で増加しており、新曲離れに憂慮していた人達も一安心させる結果が出ている。「音楽への対価離れが進んだ」「新曲にすら興味を感じなくなりつつある」とのこれまでの説明を使わなくてもよくなっただけでも幸い。
たとえ現状で対価を支払わない層でも新曲に興味を持つのなら、今後「魅力ある、お金を出す価値があると認めた新曲」を購入し、「有料聴取層」に転じる可能性はある。しかし「新曲にすら興味を持たない」場合、何か特別なきっかけが無ければ、購入する可能性は低い(ただし既知曲のリバイバルなどなら可能性はある)。
その観点から各回答値を見直すと、市場の活性化を期待できない層(右側二つ)が増加していた状況は、音楽業界にとってはあまり好ましいとは言えなかった。直近2017年ではそれらの層の値の合計値が大きく減少し、さらに「有料聴取層」が大幅に増加したのは、まさに希望の光が見えてきた状況に違いない。2015年では大幅に増加し過去最大値を計上した「無関心層(曲聴かず)」が2年連続で前年比マイナスを示したのも、よい傾向と見受けられる。
若者の音楽離れも足踏み、後退?
これを年齢階層別に区分した上でグラフ化したのが次の図。直近となる2017年分のみを別途抽出したものも併記する。
音楽業界にとって一番のお得意様は学生。その学生でも少しずつだが「有料聴取層」が減り、「無料聴取層」ですらも減少し、無関心層が増加していた。直近年では「有料聴取層」が大きく増加しているのが確認できる。「無料聴取層」の増加はわずか。
20代(社会人)から30代も似たような動きだが、特に20代(社会人)における直近年での「有料聴取層」の増加ぶりが目に留まる。実に前年比プラス16.2%ポイント。
40代以降は2015年の急落以外は「有料聴取層」にさほど変化が無く、2016年以降は前年比で増加する動きすら見受けられる。2015年の急落もよく見直すと、「無関心層(曲聴かず)」の急増は30代以降だが、「有料聴取層」の急減は40代以降で生じており、音楽に対する姿勢が30代から40代で大きな変化を見せていた感はある。
「無関心層(曲聴かず)」は音楽そのものへの興味が薄れてしまっている層で、音楽業界にとってこの層の増加は非常に由々しき事態に違いない。直近2017年では50代までのすべての層で前年から減少して胸をなで下ろせる状況だが、60代では増加しているのが気になるところ。
直近年2017年における大きな回復の動きは主に30代までの若年層と50代で生じている。とりわけ20代(社会人)、さらに今回の分析では学生としてまとめているが、大学生における「有料聴取層」の大幅増加(前年比で17.9%ポイント)が影響している。若年層の音楽への関心が、対価を支払うように向き始めたのは、素直に喜んでよい状況に違いない。この動きが単年の、イレギュラー的なものか、それとも業界全体へのムーブメントの兆しなのか、次年以降の動向が大いに気になるところだ。
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※音楽メディアユーザー実態調査
直近分は2017年8月に12歳から69歳の男女に対してインターネット経由で行われたもので、有効回答数は1952人。男女別・年齢階層・地域別(都市部とそれ以外でさらに等分)でほぼ均等割り当ての上、2010年度の国勢調査結果をもとにウェイトバックを実施している。また設問の多くは過去半年間を対象に答えてもらっているため、2017年1月から6月時の動向が反映されていることになる。過去の年の調査もほぼ同じ条件で実施されている。
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