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天候要因と人手不足が悪影響…2018年2月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の善し悪しはどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが…。(写真:アフロ)

・現状判断DIは前回月比マイナス1.3ポイントの48.6。

・先行き判断DIは先回月比でマイナス1.0ポイントの51.4。

・天候不順と人手不足が景況感に大きなマイナスの影響を与えている。

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2018年3月8日付で2018年2月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは先回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「天候要因などにより一服感がみられるものの、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足やコストの上昇に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資などへの期待がみられる」と示された。

2018年2月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.3ポイントの48.6。

 →原数値(季節調整前の値)では「よくなっている」「ややよくなっている」「やや悪くなっている」が減少、「変わらない」「悪くなっている」が増加。原数値DIは48.4。

 →詳細項目は「飲食関連」「住宅関連」以外で下落。「製造業」のマイナス2.9ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは先回月比でマイナス1.0ポイントの51.4。

 →原数値では「変わらない」「悪くなる」が減少、「ややよくなる」「やや悪くなる」が増加。「よくなる」が変わらず。原数値DIは52.6。

 →詳細項目では「飲食関連」のみ上昇。最大の下げ幅は「製造業」のマイナス2.1ポイント。基準値の50.0を超えている項目は全項目。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復しているのだが。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年2月)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年2月)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から1.3ポイントのマイナス、詳細項目では「飲食関連」「住宅関連」以外で下げ。もっとも最大の下げ幅はマイナス2.9ポイントで、小幅な値の動き。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」以外はすべて下げ。下げ幅は最大で「製造業」の2.1ポイント。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年2月)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年2月)

前回月では基準値割れだった「飲食関連」も今回月では超えることができ、すべての項目で基準値を超えている。

天候不順と原油価格の上昇、人手不足が大きな影響

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・2月は大雪に見舞われた月であったが、冬の恒例のイベントや春節などの効果で助けられた。ただ、当地全体でみると、企業の倒産が続いているなど、景況感は余りよくない。倒産の約3割は人手不足によるものであり、隣接する都市部で賃金水準が上昇し、当地の若者が流出していることが原因となっている(一般小売店[土産])。

・アジアからの外国人観光客は家族連れが増えている。日本人観光客は、大河ドラマの影響でツアー客が増えている(高級レストラン)。

・野菜価格の高騰で、家族客からは様々な買い渋りの声が聞かれる(スーパー)。

・大雪や積雪による来客数の減少が大きい。また、平昌オリンピックも来客数減少の要因になったとみられる(百貨店)。

■先行き

・春休みやゴールデンウィークの国内旅行の申込みや、夏の海外旅行の予約が始まっており、前年と比較しても上昇傾向にある(旅行代理店)。

・春夏物スーツなどのオーダーが、早い時期から増えている。また、制服の引き合いも多い(衣料品専門店)。

・株価の不安定要因もあり、引き続き高額品の動きが厳しいと想定される(百貨店)。

・今後、県内での大型建築現場などとの職人の取り合いによる、人件費高騰や職人不足が懸念される(住宅販売会社)。

日本海側を中心とした大規模な降雪をはじめとした天候不順による影響が多方面、主にマイナス方向に生じているのが分かる。食料品の価格上昇は売り手からすれば販売単価の引き上げにつながるため善かれ悪しかれだが、客足動向そのものや原油価格の上昇に伴うガソリンや灯油の価格上昇は総じてマイナスに働いており、消費マインドを冷やす形となっている。

今回月では全国規模でも人手不足に関わる話も見受けられた。もっとも「他地域の方が就業条件がよいのでそちらに人材が逃げてしまい、自分のところでは人手不足となった」とは、ある意味自業自得とも受け止められるのだが。むしろ縛り付けられることを強要される人材の方が可哀想ではある。変わったところではオリンピック鑑賞に熱中するあまり、外出機会が減り、来客数が減ったのではとの推測も見受けられる。

企業関連の景況感では原油価格の動向や為替など、海外要因による反応が複数で見られる。

■現状

・現在は新生活関連商材や白物家電、花粉の季節を前に空気清浄機などの輸送依頼量が前年を上回っている。しかし、燃料価格の高騰などにより、利益は少なくなっている(輸送業)。

・仕入原料のプラスチックの価格が上昇し、利益が減少している(化学工業)。

■先行き

・金融機関の得意先は、マイナス金利継続により来期も経費削減対策継続のため、広告費等の削減が見込まれる。また多くの得意先も競合が厳しく広告費等は削減傾向であり、余り大きく変わらない見込みである(広告代理店)。

・国内受注量は堅調であるが、海外需要の変動が大きい上に、為替の動向が不透明である(一般機械器具製造業)。

原油価格は燃料費に直接影響するだけで無く、原材料費にも影響を及ぼしているのが確認できる。

雇用関連では人手不足に関わる懸念が見受けられる。

■現状

・派遣登録者数が全く伸びず、客の依頼に対応できない状況である(人材派遣会社)。

■先行き

・企業業績が好調な企業も多いが、人手不足を解消できなければ、今後の見通しは不透明となる(人材派遣会社)。

雇用市場が完全な売り手(優位)市場(就職側の有利市場)である現状では、企業としては現状の人手をつなぎ止め、新規を呼び寄せるための環境改善を行わねばならない状況にある。そのような状況下においては、例えば派遣よりは正規をとの考えが企業・就職希望者双方に及ぶため、派遣登録者が少なくなるのは致し方ない。そのような場面で相変わらず派遣に頼る企業のは、状況協判断としてはどうなのだろうか(職種として仕方が無い、むしろ好ましいケースもあるが)。派遣業者が人材不足に陥る状況は、雇用市場全体としては悪い話であるとは言い切れない感もある。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を見渡すと、「人手不足」の文言を多数見受けることができる(現状27件、先行き47件、合わせて74件)。人手不足を解消しようとするとコストがかさむが、販売価格に反映させると競争力が落ちる、売上減と経費増で困るなどの話が目に留まる。これらは見方を変えれば労働条件の改善やコストの適正化への動きにつながるだけに、正しく市場原理が作用するための一プロセスと見ることもできよう。

昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成した、あるいは資料から引用したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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