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【追記変更あり】トランプ米大統領の「殺人」発言の中身

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 2月12日に行われたインフラに関する会合でのお話。(写真:ロイター/アフロ)

・トランプ米大統領の発言として報じられた「殺人を犯しながら逃げている」は比ゆ表現であり、そのまま直訳したのでは意味を違える。

・元の発言は「They've gotten away with murder」。慣用表現として「好き勝手なことをしておきながら罰を免れる」を意味する。

先日、複数の報道機関で、トランプ米大統領が「米国は中日韓その他多数の国で巨額のお金を失っている。それらの国は25年にわたって殺人を犯しながら許されている」と伝えている。記述内容は次の通り。

「米国は中国や日本、韓国、その他多数の国で巨額のカネを失っている。(それらの国は)25年にわたって『殺人』を犯しておきながら許されている」(They’ve gotten away with murder)」と述べ、異例の表現で非難した。

出典:「日本など『殺人』」トランプ氏、貿易巡り非難(読売新聞)(2018年2月21日時点でリンク切れ)

今件部分の原文は、例えばロイター電などで確認できる。

“We cannot continue to let people come into our country and rob us blind and charge us tremendous tariffs and taxes and we charge them nothing,” Trump told reporters at a White House event to announce a proposed infrastructure plan.

The United States loses “vast amounts of money with China and Japan and South Korea and so many other countries ... It’s a little tough for them because they’ve gotten away with murder for 25 years. But we’re going to be changing policy,” he said.

出典:U.S. to push for 'reciprocal tax' on trade partners: Trump(ロイター)

該当部分は「(We lose)“vast amounts of money with China and Japan and South Korea and so many other countries ... It's a little tough for them because they've gotten away with murder for 25 years. But we’re going to be changing policy.”」。直訳すると確かに「我が国(アメリカ合衆国)は対中国、日本、韓国、そしてそれ以外の多くの国(との貿易)で巨額を失っている。しかし彼らはほとんど痛い目に会っていない。この25年もの間、殺人の罪から逃げている。だが我々(アメリカ合衆国)は今後この構造を変えていくつもりだ」となる。

しかしながらこの「they've gotten away with murder」の部分は慣用表現としての言い回しであり、そのまま直訳するのは報道としては不適正。第一、前後の話のつながりがおかしくなる。

get away with murder

好き勝手なことをしておきながら罰を免れる

出典:研究社 新英和中辞典

get away with murder

悪いことをしても罰せられない、何をしても許される[とがめられない]、好き勝手にする

出典:英辞郎 on the WEB

get[or go]away with (blue) murder

悪事を見つけられずに[処罰されずに]過ごす;なんでもし放題である;自分の望みどおりにする

出典:小学館ランダムハウス英和大辞典

要は「中日韓などの国は貿易で好き勝手にやってきてアメリカ合衆国は巨額の損をしている。今後はこの構造を変えるつもりだ」となる。

トランプ米大統領はこの類の言い回しを使うことが多い。本人の性格上仕方が無いのであろうし、不特定多数に直接訴えかけるとの視点ではむしろメリットでもある。専門家による専門用語では無く、一般的な話し言葉で語るのと発想的には同じ(そのような意図で使っているのか、結果としてそのような効用が期待できるのかは不明だが)。

今件報道は例えるなら、「これぐらいのことは朝飯前だ」と発言したら「朝食はすでに御済みのはずですが」、「頭をひねって考えました」と発言したら「命を落としかねませんよ」、「へそで茶を沸かす」と発言したら「それは物理的に不可能です」と突っ込みを入れるようなものに等しい。少なくとも直訳をそのまま載せるのみで、意味を加えないのは適切では無い。

※追記(2018年2月15日16時15分)

今件問題に関してはAFPBB Newsでも同様の問題を持つ記事を2月13日5時44分付で配信していました。その後同社では2月15日の昼前に次のような形で告知を行い、訂正をしています。

見出しで「日本が」としていましたが、トランプ氏の非難対象には日本のほかに中国と韓国も含まれていましたので、見出しを「日本などが」に訂正しました。また、見出しと本文でそれぞれ「殺人」「殺人を犯しながら逃げている」としましたが、原文の該当部分"getting away with murder"は、「好き放題にする」という表現であるため、「好き放題だ」(見出し)と「好き放題にやっている」(本文)と訂正しました。

出典:【訂正】トランプ氏、日本などが貿易で「好き放題だ」と非難 対抗措置を警告(AFPBB News)

そのため、今記事における該当記事への指摘部分は削除しました。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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