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天候要因が影響し現状も先行きも下落…2018年1月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の善し悪しはどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが…。(写真:アフロ)

・現状判断DIは前月比マイナス4.0ポイントの49.9。

・先行き判断DIは先月比でマイナス0.3ポイントの52.4。

・天候不順が景況感に大きなマイナスの影響を与えている。

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2018年2月8日付で2018年1月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは先回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「天候要因などにより一服感がみられるものの、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足やコストの上昇に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資などへの期待がみられる」と示された。

2018年1月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス4.0ポイントの49.9。

 →原数値(季節調整前の値)では「よくなっている」「ややよくなっている」が減少、「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加。原数値DIは49.1。

 →詳細項目はすべてで下落。「小売関係」のマイナス5.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「製造業」「非製造業」。

・先行き判断DIは先回月比でマイナス0.3ポイントの52.4。

 →原数値では「よくなる」「変わらない」「やや悪くなる」が減少、「ややよくなる」が増加。原数値DIは52.8。

 →詳細項目では「小売関係」「非製造業」のみプラス。最大の下げ幅は「飲食関連」のマイナス4.8ポイント。基準値の50.0を超えている項目は詳細区分では「飲食関連」以外の全項目。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復しているのだが。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年1月)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年1月)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から4.0ポイントのマイナス、詳細項目ではすべてで下げ。最大の下げ幅はマイナス5.4ポイントで、それなりに大きな動きではある。

景気の先行き判断DIは「小売関連」「住宅関連」「非製造業」以外はすべて下げ。下げ幅は最大で4.8ポイント。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年1月)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年1月)

「飲食関連」が基準値割れ。それ以外は基準値を超えている。

天候不順と原油価格の上昇がマインドに大きな影響を

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・今月は低温が続き、昼夜問わず街の動きに鈍さがあったが、観光客のタクシー利用は確実に増加しており堅調さを保っている(タクシー運転手)。

・例年にはみられないほどの悪天候の影響で来客数が落ち込んでいる。今年は特に大雪や暴風の日が多いため、客の来店意欲も落ち込んでいる(百貨店)。

・灯油価格やガソリン価格の上昇、野菜相場の高止まり、寒波による来客数の減少など、消費者のマインドは冷え切っている(スーパー)。

・大雪の影響によって、来客数が例年の90%と過去36か月で最も苦戦している。県外からの予約はキャンセルが殺到し、隣県からのマイカーによる来店が途絶えたことが大きく影響している(高級レストラン)。

■先行き

・春闘では大企業、中小企業共に大幅な賃上げが見込まれ、個人消費の拡大に一層の弾みがつく(百貨店)。

・食料品については、客の財布のひもが固いことで値段が下落傾向にあったが、ここにきて少しずつ高単価の商品も売れ始めるようになっており、今後は安値競争からの脱却も視野に入ってきた(スーパー)。

・ガソリン価格の上昇が新車販売へどのように影響するか、今後の動向が気掛かりである(乗用車販売店)。

・野菜、カニ、鍋の材料の値上がりが激しく、この先の景気に影響を及ぼし、不安定になるのではないか(一般レストラン)

冬の勢いが強まる形での天候不順による影響が多方面、主にマイナス方向に生じているのが分かる。食料品の価格上昇は売り手からすれば販売単価の引き上げにつながるためよかれ悪しかれだが(チェーンストア業界ではプラスに働くことが多い)。また客足動向そのものや原油価格の上昇に伴うガソリンや灯油の価格上昇は総じてマイナスに働いており、消費マインドを冷やす形となっている。

季節動向やガソリン価格の動きへの関心が強かったためか、今回月では人手不足に関わる話は全国規模では見受けられない。

企業関連の景況感でも天候不順の影響が色濃く出ている。

■現状

・客の反応は入札の際の条件面において厳しいところが多くなってきている。付加価値をプラスしないと厳しい状況である(通信業)。

・寒さが厳しく客足が鈍い。受注量が減少し、積雪の影響で運送遅延による返品も発生しており厳しい状況である(食料品製造業)。

■先行き

・当面は工事発注量が増加見通しにある。ただし、施工能力は限界にきており、しばらくは受注困難な状況であると考える(建設業)。

・原材料や資材価格の値上げ傾向が鮮明であるが、大手ユーザーへの価格転嫁は進まないことが予想される(金属製品製造業)。

「積雪の影響で運送遅延による返品も発生」といった具体的な被害も見受けられるほど、今回月の指標の軟調さが天候に影響を受けていることが改めて認識できる。

雇用関連では人手不足に関わる懸念が見受けられる。

■現状

・派遣登録数が一段と少なくなっており、求人の依頼が増えるばかりで処理できない(人材派遣会社)。

■先行き

・求人数の増加と求職者の減少は変わらないが、人手不足が中小零細企業の経営を圧迫する事案もあるため、景気としては上向きとはいえない(職業安定所)。

雇用市場が完全な売り手(優位)市場(=就職側の有利市場)な現状では、企業としては現状の人手をつなぎ止め、新規の人手を呼び寄せるための環境改善を行なわねばならない状況にある。そのような状況下においては、例えば派遣よりは正規をとの考えが企業・就職希望者双方に及ぶため、派遣登録者が少なくなるのは致し方ない。そのような場面で相変わらず派遣に頼る企業は、状況判断としては正しいのか否か(職種として仕方が無いケースもあるが)。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を見渡すと、「人手不足」の文言を多数見受けることができる(現状27件、先行き40件、合わせて67件)。そのためにコストがかさむが販売価格に反映させると競争力が落ちる、売上減と経費増で困るなどの話が目に留まる。これらは見方を変えれば労働条件の改善やコストの適正化への動きにつながるだけに、正しく市場原理が作用するための一プロセスと見ることもできよう(コメントの中には保険関連の法的基準を厳守するとコスト高となるので求人が難しくなるという、首を傾げたくなるものも見受けられる)。

昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは状況が異なることを認識すべきには違いない。

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※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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