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4マスは両社共新聞のみプラス(電通・博報堂売上動向:2017年10月分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 電車内の広告も立派な広告。日本の主要広告代理店の動向は…(筆者撮影)

4マスは両社共前年同月比で新聞のみプラス

日本の広告代理店で売上ではツートップとなる電通と博報堂(※)。両社の月次売上で直近分となる2017年10月分が出そろった。その内容を精査する。

まずは両社の主要項目ごとの前年同月比を計算し、グラフ化する。

↑ 二大広告代理店(電通・博報堂)の2017年10月分種目別売上高前年同月比
↑ 二大広告代理店(電通・博報堂)の2017年10月分種目別売上高前年同月比

昔ながらの主力メディア、具体的にはテレビ・ラジオ・新聞・雑誌の動向を確認すると、今月は紙媒体では新聞が両社共プラス、ラテと呼ばれる電波媒体はすべてマイナス。全体的には新聞を除き軟調だったと判断できる。

電通の紙媒体はここしばらくの間軟調さが続いているが、今月は新聞のみが両社共1割超えの上げ幅。これは2017年10月22日に投票が実施された第48回衆議院議員総選挙に向けて、選挙活動としての各種広告が積極的に打たれたのが要因だと考えられる。同様に選挙活動用の広告媒体として用いられるインターネットや、一般広告でも大きなプラスが計上されているのがその証。ちなみに前回の衆議院議員総選挙(2014年12月2日公示、12月14日投票)が影響した2014年12月でも、新聞は電通がプラス9.9%、博報堂はプラス5.2%を計上していた。

インターネットは両社共にプラス。また前年同月でもその時の前年同月比で大きなプラス幅(電通はプラス22.9%、博報堂は44.3%)を計上しており、反動による大きな足かせを振り払い、さらに上昇した実態がうかがえる(2年前同月比を試算すると電通はプラス45.9%、博報堂はプラス61.4%)。博報堂ではこの傾向は数か月継続した動きで、同社におけるインターネット広告の成長ぶりが再確認できる。

一般広告も選挙の恩恵を受けてか大よそ堅調。電通の「その他」が大きく下げたのは気になるが、後は電通のOOHメディアがわずかに下げたのみ。

両社の各年10月の売上総額の推移

次のグラフは電通の今世紀(2001年以降)、博報堂の2006年以降における、毎年10月分の売上高総額をグラフにしたもの。年を隔てた上で同月における比較となるので、選挙やオリンピック、FIFAワールドカップのような、広告と深い関係を持ち、売り上げに大きく影響を与える事象が無い限り、季節による変動を気にせず中期的な動向を確認できる。

↑ 電通月次売上総額推移(各年10月、億円)(~2017年)
↑ 電通月次売上総額推移(各年10月、億円)(~2017年)
↑ 博報堂DYHD月次売上総額推移(各年10月、億円)(~2017年)
↑ 博報堂DYHD月次売上総額推移(各年10月、億円)(~2017年)

10月動向に限ると、リーマンショックによる不況で落ち込んだ2009年を底に回復していたものの、震災とその後の空前なまでの円高による景況感の悪化で再び失速、その後政権交代による政情変化を受け景況感が持ち直し、それと共に売り上げも回復の動きを示している。ただし今回月は選挙特需による底上げもあったため、直近年分の前年同月からの増加をそのまま額面通りに「回復傾向にある」と受け取るのは、留保した方がよいだろう。

今件記事では日本の大手広告代理店として、売上高、取扱い領域の幅広さ、対象地域の広さ、日本国内に与える影響力など、多数の面で最上位陣営となる電通と博報堂2社の動向を精査している(もちろん日本には両社以外にも多数の代理店が存在する)。一方で両社は同程度の規模では無く、売上・取扱広告の取扱範囲には小さからぬ違いがある。

そこで次に両社部門の具体的な売上高を併記したグラフを生成し、その実情を確認する。それぞれの部門の具体的な市場規模や、両社間における違いが、成長度合いでは無く現状の売上の観点で把握できる。

↑ 電通・博報堂DYHDの2017年10月における部門別売上高(億円)
↑ 電通・博報堂DYHDの2017年10月における部門別売上高(億円)

インターネットは毎月目覚ましい成長率を計上しているものの、売上金額=市場規模としては他のメディアと比較すると特段大きいわけでは無い。また、4マス以外の一般広告市場が大きな規模を示していること、テレビの広告市場がひときわ巨大であることなどが一目でわかる。テレビは電通、博報堂共に、各社の全売り上げの4割強もの額面を示している。

一方電通と博報堂との間では、全項目で電通の方が単月売り上げは上。部門によって得手不得手があるため、ラジオのようにあまり変わらない部門もあれば、テレビのように大きな差を示す部門もある。

最近では電通の軟調ぶりが気になる。試しに2015年1月以降の4大従来型メディアとインターネット広告の前年同月比をグラフにすると次の通りとなる。

↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(電通、2015年1月以降)
↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(電通、2015年1月以降)

2015年後半に入ってから額面の大きなテレビがプラス圏を大よそ維持し合計額をけん引していたが、直近7か月間はマイナスに沈んだままで焦りを覚える。また新聞や雑誌の軟調さは相変わらず。今月の選挙特需がいかにイレギュラーな動きであったかがよく分かる。他方雑誌のプラス圏への顔見せは2015年4月と8月、2017年6月の3か月、新聞は2016年8月と2017年2月の2か月に限られている。来月以降は再び低迷に戻ってしまうのだろうか。

■関連記事:

30年近くに渡る広告費推移をグラフ化してみる(経済産業省データ)(上)…4マス+ネット動向編

30年近くに渡る広告費推移をグラフ化してみる(経済産業省データ)(下)…ネット以外動向概況編

※グラフなどにおける社名や項目の表現について

項目名は両社で多少表現を違えているが、インタラクティブメディア(電通)=インターネットメディア(博報堂)=インターネット、OOHメディア(電通)=アウトドアメディア(博報堂)である。また「一般広告」とは4マスとインターネット以外の、従来型の広告を意味する。

一部で博報堂について博報堂DYHDと表記しているが、これは博報堂DYホールディングスを指す。博報堂DYホールディングスは「博報堂」「大広」「読売広告社」と「博報堂DYメディアパートナーズ」を完全子会社として傘下に置く広告グループの持株会社で、今記事では公開されている「博報堂」「大広」「読売広告社」の広告代理店子会社3社の売上を合算して各種計算を行い、博報堂(DYHD)の売上としている。また、記事中の表記も原則として「博報堂」は「博報堂DYホールディングス」を意味する。子会社の博報堂単体の動向では無いことに注意。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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