熱中症による死亡者の動向をさぐる
熱中症による死亡者数は増加から減少へ
熱中症による救急搬送者数とその傷病程度は消防庁で随時集計・公開されている。それとは別に厚生労働省の人口動態調査による人口動態統計でも、熱中症による死亡者数に限れば確認ができる。その実情を検証する。
人口動態統計における「熱中症による死亡者」とは、ICD-10(国際疾病分類第10版)におけるX30(自然の過度の高温への曝露)を死因とするもの。このX30に該当する死亡者数の精査を行う。
まずは単純に、年単位での死亡者数の推移をまとめる。
熱中症はその年の夏の暑さに大きな影響を受ける。そのため、大きなぶれが生じているが、原値でも次第に増加し、この数年では減少に転じている様子はうかがえる。特に猛暑が観測された2010年と2013年に大きく上振れし、影響が大きかったことが見て取れる。
とはいえ、年ごとの気候によるぶれは否めない。そこで毎年の値に関して、その前年と前々年、つまり都合3年分の値を足して平均値を算出し、値を均す方法を用いた結果が次のグラフ。単年によるイレギュラーの影響を抑えることができる。
2012年をピークとして漸減する動きを示しているが、それまでは増加する傾向にあったことがあらためて分かる。特に2006年以降、そして2010年以降と2段階に分けた上昇ぶりが確認できる。今世紀初頭の300人前後から、ピークの2012年では4倍近くの値に増えている。さまざまな要因(高齢・一人世帯化、ヒートアイランド現象の影響、都市部への人口密集化など)はあるが、熱中症による死亡者数は確実に増加していた。
そして2013年以降は漸減に転じている。気候の影響の他に、熱中症対策の啓発が進んだ結果が数字となって表れているのかもしれない。
男女・年齢階層別で見極める
直近分となる2016年分について、男女別・年齢階層別に見たのが次のグラフ。やはり直近2016年分の原値と、過去2年分も合わせた上での平均値の双方を精査する。
若年層から就業層に至るまでは、大よそ男性の方が熱中症の発症(、そして死亡)リスクは高い。これは就業時における外出過程でのリスクが多分に存在するからに他ならない。60代後半以降になると定年退職を迎え、男性も自宅に居る時間帯が長くなり、リスクそのものは女性と変わらなくなる。
80代以降になるとむしろ女性の方が死亡者数が増えるが、これは単純にその年齢階層で存命している数そのものが、女性の方が多いからに他ならない。むしろ年間で百人単位の80代以上の高齢者が、熱中症(との認定の上で)亡くなっている事実に驚きを覚える人も多いはず。
熱中症死亡者の8割は65歳以上
最後は年齢階層別のリスク変化について。要は昔と比べ現在では、どれほど熱中症による死亡者が増減しているかに関して、年齢階層別に検証したもの。イレギュラーな動きを抑える目的で、該当年を含めた3年分の平均値を用いるため、一番古い値として取得可能な2001年分と、直近となる2016年における死亡者数の変化度合いを倍率で示したのが次のグラフ。
若年層は絶対数が少ないため値が跳ねやすいが、それでも1.00以下に留まっており、近年にかけて死亡者が減少しているのが分かる。他方、中堅層の一部と60代以上の高齢層で、大きな増加を示しているのも確認できる。もちろん社会構造の高齢化に伴い、該当年齢階層の人数そのものが増加しているのは確かだが、10年強の間に人数が2倍も3倍も増加しているはずはなく、確実に高齢層における熱中症による死亡リスクが高まったことが確認できる。
結果として各年の死亡者に占める高齢者の比率は増加の一途をたどっている。
今や熱中症による死亡者の8割は65歳以上。今後もこの値は漸増していくことは間違いない。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。