主な死因別の死亡率の変化をさぐる
人は必ずいつかは亡くなる定めだが、死因(亡くなった原因)は多種多様。死因の動向は社会の実情を映す鏡でもある。厚生労働省の調査「人口動態統計」の公開データから、100年以上に渡る日本の死因別死亡率の変化を確認する。
グラフ中の比率は「%」表記の無い限り、基本的に人口10万人比(人口10万人あたり何人がその年に、その死因で亡くなったか)。1899年以降継続して直近分となる2016年分まで、そして戦後に限って再構築したもの、さらには直近年分の値の実情、計3つをグラフ化する。
戦前は「肺炎」「結核」を死因とする死者が異様に多かった。公衆衛生の整備が(今と比べて)立ち遅れていたこと、医療技術の未熟さ、健康管理に関する世間一般の非医学的な慣習などが原因として挙げられる。また、「スペイン風邪(インフルエンザ)」「関東大震災」など大きな世の中の動きに、今件グラフも値の変移を見せることも把握できる(先の東日本大震災による「不慮の事故」での増加もわずかながら確認できる)。
他方戦後の1995年におけるイレギュラー的な動きは、やはりグラフ中吹き出しで触れている通り、死因判定などの仕組みの変化(人口動態統計の説明には「死亡診断書の注意書きの記載」「ICD-10による原死因選択ルールの明確化」とある)が原因として挙げられる。突然医学・健康分野における変異が生じたわけではない。
戦後の動向に限って見返すと、終戦直後は「結核」が戦前同様に1位にあったものの、医療技術の発展、予防策の浸透などで大幅に減少する。代わりに「悪性新生物(いわゆる「がん」)」「心疾患」「脳血管疾患」「肺炎」など、高齢化と連動して発生しやすい疾患が増加している。
「悪性新生物」の上昇傾向に関しては、「がんが強力化している」「がん対応策が立ち遅れている」などの誤解を招くことがある。しかし実際には「他の死因リスクが減った」「がんに発症、亡くなりやすい高齢者の総人口比が増加している」のが原因。
今件グラフでは特に、戦前と戦後の動向を見比べ、公衆衛生や医療技術の進歩でいくつもの疾患による死亡事例を減らせることができた事実、そして特に戦後に入って増加を見せる死因(「がん」「肺炎」)が、高齢化によるものであることを見定めるのが肝要である。
蛇足だが、主要死因には該当せず今件記事の折れ線グラフでは記載していないものの、今後増加することが容易に想像できる「老衰」に関する死亡率を挙げておく。
意外に思えるかもしれないが、戦前の方がむしろ老衰による死亡率は高かった。これは直上のグラフなどからも分かる通り、平均寿命が短かったからに他ならない。悪性新生物や心疾患を発症し、直接起因として亡くなるより前に、老衰で亡くなってしまう人が多数いたまでの話。
昨今では再び上昇しているが、こちらは急激な高齢化に伴うものである。とはいえ、今なお1950年代後半の水準でしかない。ただし今後悪性新生物などの治療法の開発が進めば、この値はさらに増加していくことだろう。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。