「防衛・安全保障への対策」は実際にどれほど望まれているのかをさぐる
「防衛・安全保障」を強く望む層とは
昨今の日本周辺事態の情勢変化を受け、これまで以上に注目を集めているのが「防衛・安全保障への対策」。日本国民自身にはどこまで望まれているのか。その実情を内閣府が2017年8月に発表した、定点観測的に調査を行っている「国民生活に関する世論調査」(※)の内容から確認する。
まず最初に示すのは直近年分の政府への要望の一覧。提示された選択肢の中で「防衛・安全保障」は36.2%の人が要望している。順位としては5番目。上位には「医療・年金等の社会保障の整備」「景気対策」「高齢社会対策」「雇用・労働問題への対応」が並ぶ。
意外に思う人もいるかもしれないし、当然、むしろまだ低いと感じる人もいるだろう。
この「防衛・安全保障」を求める声の大きさをいくつかの属性別で見たのが次以降のグラフ。
居住地域別では都市部の方が高く、地方に行くほど低い値が出ている。東京都区部では4割以上の人が防衛・安全保障への(より強固な)政府施策を要望している。あるいは有事の際に被害を受けやすいから、との認識があるからなのだろうか。
性別では男性の方が、年齢階層別では歳を経るほど要望が強くなる。男女別の差異は容易に理解できるが、年齢階層別では意外な動向。むしろ歳が上の人ほど、拒否反応が強い≒「防衛・安全保障」への要望値が低いように思えるのだが。
就業上の地位別では関連性が特になさそうなこともあり、法則性の類は見受けられない。自営業主と主夫が大きく出ているのは、男性が多いからだろうか。
職業別では無回答が過半数を超えている…が、これは該当属性の総数が9人でしかないため、統計上のぶれと見た方が道理は通る。それ以外では管理職や専門・技術職が高めだが、これも男性比率が高いがゆえの結果だろう。普段から各種情報の取得に慣れており、重要性を認識しやすいとからとの解釈もできるが。
属性別動向としては「男性」「都市圏居住者」「中堅層から高齢層」「日頃から情報に目ざとい人」に高めの傾向が出ていると表現できるだろう。
昔と今とではどのような意識の違いがあるのか
それでは過去ではいかなる想いが寄せられていたのか。1998年以降の全体値の動向を示したのが次のグラフ。良い機会でもあるので、政府が担う施策として類似の項目である「外交・国際協力」を併記してグラフを生成する。
2006年の値が突出しているが、これは調査直前の2006年8月に北方領土近辺で、根室市のカニかご漁船第31吉進丸がロシア警備艇に銃撃の上拿捕され、漁船の乗組員1名が射殺、3名が拘束された(第31吉進丸事件)のを受けての動向。それをのぞけば多少のぶれはあるものの、防衛・安全保障と外交・国際協力共に年々上昇しており、対外施策の重要性を認識しているようすがうかがえる。
他方この数年に限れば、外交・国際協力は頭打ちとなり下落(直近年はいくぶん持ち直した)する一方で、防衛・安全保障は漸減のあとに直近年で大きく上昇を示している。昨今の東南アジア情勢、特に半島問題や中国の対外姿勢を受けてのものだろう。両者のかい離が数年に渡り生じるのはこれまでに無かった現象であり、過去とは状況が変わりつつあることを予見させるものでもある。
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※国民生活に関する世論調査
直近分は2017年6月15日から7月2日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する者の中から層化2段階無作為抽出法で1万人を選んだ上で、調査員による個別面接聴取法によって行われたもので、有効回答数は6319人。男女比は2945対3374、世代構成比は18-19歳が74人・20代467人・30代712人・40代1046人・50代981人・60代1395人・70歳以上1644人。過去もほぼ1年毎に同じような規模・調査方法で行われている。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。