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人生の過ごし方、アリを望むかキリギリスを目指すか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 将来に備えて貯蓄するか、日々の生活を楽しむか……(ペイレスイメージズ/アフロ)

イソップ童話の「アリとキリギリス」は人生の過ごし方を二極化し、いずれかを目指すべきかに関して一つの答えを啓蒙する内容となっている。それでは国民はどちらのライフスタイルを望んでいるのだろうか。その実情を内閣府の定点観測調査「国民生活に関する世論調査」(※)の結果から確認する。

今後の生活におけるスタンスとして、「貯蓄や投資など将来に備える」「毎日の生活を充実させて楽しむ」どちらに力を入れたいかと尋ねたところ、全体では「将来に備える」が32.7%、「毎日の生活を充実させて楽しむ」が59.6%となり、2倍近くの差をつけて「楽しむ派」の回答が多い結果となった。

↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(2017年)
↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(2017年)

男女別ではほとんど差異が無いことから、「備え」か「楽しむ」の観点では男女の違いは無いと判断できる。

一方年齢階層別で見ると、大きな違いが見えてくる。

↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別)(2017年)
↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別)(2017年)

40代までは大よそ同じ回答状況で、「備え派」が5割後半・「楽しむ派」が4割足らずとなり、「備え派」が優勢。そして50代で両選択肢の値が逆転し、それ以降は「備え派」が減っていくばかり。生存可能余年や手持ちの財力を考えれば、当然の結果ではある。見方を変えれば40代までは、主に金銭面で(将来のための蓄財も合わせ)首が回らない状態で、日々の生活を楽しむまでの余力を得るに至っていない人が多いのが推測できる。

今調査結果は国勢調査などの結果を元にしたウェイトバックは行われていないものの、調査対象は層化2段無作為抽出法で選択されており、社会の実情をほぼ反映した年齢階層別人口比で回答者が選ばれる。さらに回収率は高齢層ほど高めとなることから、現在の社会的側面も反映した上での人口構造に近い値を示している(回答率が他の社会行動や意思表明、例えば選挙と同様に若年層ほど低いため、余計に「高齢者の意見が大いに反映される」結果が出る)。その実情から、最初のグラフの全体値だけを見て「世間一般は皆、将来への備えよりも、日々の生活を楽しむことに重点を置いている」と認識するのも、少々実態とは異なる感じは否めない。

過去の調査結果からの経年値について、年齢階層別に精査したものが次のグラフ。これは「楽しむ派」から「備え派」を引いたもので、いわば「楽しむ派」度を示す値。プラスならば「楽しむ派」が多く、マイナスならば「備え派」が多い。

↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別、調査回推移、「楽しむ」-「備える」の値)
↑ 将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか(年齢階層別、調査回推移、「楽しむ」-「備える」の値)

50代がほぼ全体平均周辺を行き来し、20代(2016年分以降は18~29歳)から40代は低迷、60代以降は高止まりを示している。「高齢者は『楽しむ派』」を維持し、「若年層はより『備える派』に」移行しているのが分かる。

特に景気後退感が著しさを見せた、直近の金融危機がぼっ発した2007年以降、若年層のふところ事情が厳しくなってきた、将来に備えて一層と慎重な姿勢(「アリとキリギリス」における「アリ」的行動)を見せるようになったと判断できる動きを示しているのは興味深い。さまざまな社会情勢の変化を敏感にとらえ、冷静に判断し、行動に移しているものと考えられる。また2014年以降に50代の値が急に落ちている(≒「備える」が増えた)のは、早期退職者やリストラをされた人の影響だろうか。2017年にいくぶんの持ち直しを見せたのは幸いではあるが。

概して昨今の「若者の●×離れ」の造語に代表される、「若年層はお金を使わない」は、今件の値が示す傾向が裏付けしていると見ても良い。可処分所得の減少に加えて「日々を楽しむために消費するよりも、将来に備える傾向が強まったため」、上の世代からは「お金を使わなくなった」と見られるのだろう。

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※国民生活に関する世論調査

直近分は2017年6月15日から7月2日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する者の中から層化2段階無作為抽出法で1万人を選んだ上で、調査員による個別面接聴取法によって行われたもので、有効回答数は6319人。男女比は2945対3374、世代構成比は18-19歳が74人・20代467人・30代712人・40代1046人・50代981人・60代1395人・70歳以上1644人。過去もほぼ1年毎に同じような規模・調査方法で行われている。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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