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テロは44%が懸念を表明…EUの懸念事項をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 昨年ドイツの首都ベルリンで発生したトラック突入テロ(写真:ロイター/アフロ)

欧州連合欧州委員会(European Commission)は2017年8月までに、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」(※)の最新版となる第87回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのはテロ問題で、全体の44%が懸念を表明していた。移民、経済状況、公的債務がそれに続いている。移民問題の懸念の高まりは昨今急激な上昇を示していたが、今回は前回に続き、直前調査分からは値を落とし、急上昇をするテロ問題がトップに立つことになった。

2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が大きな社会問題化している。対応しきれない一部の国では国境線の封鎖措置も成され、これに伴う衝突も起きている。

さらに移民(難民)が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを覚える地元住民の不満の増加も合わせ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と多分に連動する形でのテロ事件なども多々生じており、情勢はお世辞にも良いとはいえない。各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。

このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から二つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化が良くわかるように、過去4回分も合わせ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年5月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年5月)

回答個数無制限の複数回答では無いため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつある。インフレ・物価高の値も漸減している。

それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まりつつあり、両者の問題の連動性も覚えさせる。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化では無く、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられる。

ただし2016年5月以降は、移民問題はピークを過ぎ、少しずつだが値を落としている。状況に改善が見られたわけでは無いが、これ以上の悪化の動きも無いため、少しずつ慣れてきたのかもしれない。

他方、テロ問題は前回調査で一度値を落としたものの、今回は大きく上昇し、移民問題すら超えて最上位の値を示す形となった。調査が実施されたのは2017年5月だが、それまでの半年に限ってもEU領域内で多数の事件が生じており、テロに対する懸念が強まるのも止むを得ない状態となっている。

移民、テロ問題の懸念の実情は、国単位の動向からもつかみ取れる。上記解説の通り、陸続きで経済的に豊かだと思われるドイツやイギリスに渡ろうとする移民の増加は、当事国においては大きな問題となっている。類似設問を回答者自身の国に関して尋ねた結果が次のグラフだが、そのドイツやイギリスでは移民問題が高い値を示している。テロが生じたイギリスやフランス、ドイツではテロへの懸念の値も高め。

↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年5月)
↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年5月)

2016年3月22日にベルギーの首都ブリュッセルのブリュッセル空港とマールベーク駅で発生し、大規模な被害をもたらした連続爆破テロ事件の影響は、今なお当事国のベルギーには大きな影響を与えている(ベルギーでは2016年8月にも警察本部前でのテロ事件が起きている)。テロは大きな懸念事項として移民と共に挙げられ、問題の複雑さを思わせる形となっている。ドイツでは移民問題がトップだが、それに続いてテロが上位にあり、ベルギー同様の問題の複雑さがうかがえる。

他方、EU先進国でも失業率の高さが問題視されているフランスでは失業問題への懸念が大きく、テロ問題は次点。イギリスは社会健康環境維持がトップだが、続いてテロが続き、相次ぎ発生した事件が社会に与えた影響の大きさが改めて認識される。

ギリシャでは失業問題がトップ、次いで経済状況と続いているが、政府負債に対する不安も大きい。移民問題に関する値も12%に達しているが、前回調査から値は減退している(マイナス3%ポイント)。

昨今ではドイツの実情を受け、ドイツはもちろん他のEU諸国でも移民への対応が厳しさを増している。それと共に社会的混乱が抑えられるのか、あるいは反発が生じることになるのか、先は読みにくい。一方でイギリスがEUからの離脱に関する脱退プロセスを進めており、今後他のEU諸国とは方向性の異なる国民感情を有し、調査結果として現れる可能性もある。ただし移民やテロの実情を見るに、言葉通り「対岸の火事」とするのは難しそうだ。

今なお高い値を示す移民問題やテロ対策の行く末はもちろんだが、イギリスの離脱に絡んだ同国、そして関連しそうな諸外国の動きも大いに気になるところだ。

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※Standard Eurobarometer

毎年2回、5月と11月に行われており、今回発表分が87回目となる世論調査。直近分は2017年5月20日から29日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国及び候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万3180人、EU28か国に限定すると2万8007人。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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