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続・自動車は手が届きにくい存在になっているのか…可処分所得と自動車価格の関係

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 可処分所得とは所得のうち自由に使える金額。何か月分で…!?(ペイレスイメージズ/アフロ)

検証材料とするために、まずは可処分所得そのものの動向を

いわゆる「若者の自動車離れ」と呼ばれる言葉・現象の理由の一つとして、若年層の所得の増加が車の価格上昇に追いついていないとの見解がある。その実情を可処分所得の動向と自動車の価格を公的資料から抽出し、精査してみることにする。

まずは可処分所得。これは総務省統計局の「家計調査」から必要な値を取得する。ただし今件主旨の精査に耐えられる期間の値が取得できるのは、二人以上世帯のうち勤労者世帯かつ農林漁家世帯を除く世帯の値に限定されるので、その値を用いる。単身世帯はまた事情が異なるのだが、必要な値が取得できない以上、精査は不可能。

なお可処分所得とは家計の収入(月収や臨時収入、配偶者の収入など)から、非消費支出(税金や社会保険料)を引いた値。収入のうち自由に使えるお金と考えれば良い。

次に示すのは、その可処分所得の推移。消費者物価指数などによる修正は加えていないので、素の額面となる。良い機会でもあるので、該当世帯の平均世帯構成人数も併記しておく。

↑ 平均可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯・農林魚家世帯を除く)(円)
↑ 平均可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯・農林魚家世帯を除く)(円)

可処分所得は高度経済成長期において急こう配で上昇し、バブルがはじけた前後でそのカーブは緩やかになるものの、上昇は継続。ピークは1997年の49万7036円。そしてその後は緩やかに下降し、2005年前後で一度下落は止まり、直近の金融危機以降再び下落、ここ数年は横ばいに推移している。実収入の減退だけでなく、社会構造、特に年齢構成比の変化に伴い、多分に非消費支出の増加が生じており、それによって可処分所得が削られている。

他方、世帯構成人数も漸減を示している。これは単身世帯の増加だけでなく、夫婦世帯においても少子化が進んでいる現れといえる。何しろこの半世紀で、二人以上世帯・勤労者世帯・農林魚家世帯を除くとの条件に限っても、世帯構成人数がひとり近く減ってしまっているのだから。

自動車価格は可処分所得の何か月分か

可処分所得の推移が取得できたので、本題として「自動車価格はその年の可処分所得の何か月分か」、つまり「月次可処分所得・自動車購入係数」を算出する。自動車の価格は総務省統計局の「小売物価統計調査」で長期経年データが確認可能な「小型乗用車・国産・排気量1500cc超~2000cc以下」の車種の価格を比較対象とする。

現時点では1970年から2016年分まで各値が取得できるので、その範囲で計算を行う。例えばこの値が10ならば、その年の二人以上世帯・勤労者世帯・農林魚家世帯の可処分所得10か月分で自動車が買える計算になる。この値が小さいほど、自動車は手に届きやすいことになる。

↑ 月次可処分所得・自動車購入係数(自動車価格÷可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯・農林魚家世帯を除く))
↑ 月次可処分所得・自動車購入係数(自動車価格÷可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯・農林魚家世帯を除く))

値が取得可能な最古の1970年では6.31。これがピーク時の1990年には2.94にまで下がる。この時は可処分所得の大よそ3か月分で自動車が買えたことになる。

直近の2016年では7.44。バブル時と比べれば約2.5倍ほど自動車は手が届きにくい存在と考えられる。バブル前の値と比較すると、最古の1970年の値6.31よりも大きな値を計上してしまっている。これは2015年において調査対象となる車種の一部で、高価格な、そして最近普及率が上昇している車種が追加された結果のようだ。ともあれ「可処分所得の観点で、過去と比べて自動車が取得しにくくなった」との表現を用いねばならないのは事実ではある。

自動車の所有・維持には本体代金以外にも多種多様なコストが発生する。しかしそれらは本体の代金と比べれば単価は安く、また例えばガソリン代は1980年代以降は大よそボックス圏内で推移しており、さらに自動車の高性能化に伴う燃費の向上などを考慮すれば、利用コストの上昇分は本体価格ほどには取得ハードルとはなり得ない。

無論、毎月の維持費をそろばん勘定した上で、その維持費と所有・利用によって得られる便益を天秤にかけ、購入しない・手放した方が良いと計算できる事例もあるだろうが、その度合いを中長期的に推し量ることは困難である。

ともあれ、大勢としては高度成長期にかけて自動車には手が届きやすくなり、バブル期がピーク、その後は少しずつ距離が大きくなりつつある。直近の月次調査結果においては、2015年で生じた大規模な上昇の後、自動車価格はほぼ横ばいを示していることから、今後も今件係数は高値を維持し続ける、つまり自動車は手に届きにくい存在となり続けることだろう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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