「生粋の自国民」を自称するのに自国語を話せることはどれほど重要か
国家は同じ認識を持つ人たちの集合体、組織の一形態であり、さらには政府が統治し社会を維持するための仕組みとして、昔から用いられてきたシステムに他ならない。昨今では情報伝達の多様化と高速化、交通システムの発達、そして移民・難民問題の拡大化に伴い、この国家概念が揺らぎを見せ、同時に自国民であることの認識がどのような判断基準で成されるかに関する論議も活発化している。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社PewResearchCenterが2017年2月に発表した調査結果「What It Takes to Truly Be ‘One of Us’」(※)から、その自国民の認識要素の一つ「自国語を話せるか否か」がどこまで肯定されているかについて確認していく。
国家とその国に属する国民の概念に再検証が論議されている昨今だが、国籍などの法的な問題とは別に、社会様式や習慣からの物差しとして「自国民」たる要素の一つとして挙げられているのが、自国語を話せるか否か。日本ならば日本語、アメリカ合衆国ならば英語といった具合で、それぞれの国で法的に定められた国内共有言語を解し、日常生活で問題なく意思疎通ができるか。これを真の自国民としては重要な要素なのかを聞いた結果が次のグラフ。
調査対象国ではすべての国で肯定派が絶対多数を占めており、重要性を認識している人が9割を切っているのはカナダのみ。重要ではないとの認識もカナダ以外のすべての国で1割を割り込んでいる。同国では歴史的背景から英語とフランス語が公用語であり、双方共に平等な位置づけにあることから(質問ではカナダに対しては自国語の説明で英語やフランス語と説明されている)、回答者に多少の戸惑いがある、または自国語の認識がいくぶん薄いのかもしれない。
他方「大変重要」との高ウェイトで自国語を自国民との認識に必要な条件とする回答率がもっとも高い国はオランダ。次いでハンガリー、イギリス、ドイツ、フランスとヨーロッパ諸国が続いている。日本はギリシャに続き70%が大変重要であるとの認識。
今件に関してアメリカ合衆国に限れば属性別の回答率も公開されている。信仰宗教以外の属性別動向は次の通り。
歳を重ねるに連れて「自国語を話せるのは自国民として欠かせない要素」とする認識が強まりを見せてくる。50歳位以上の34歳までとの差異は実に23%ポイントに達する。他方学歴別では高学歴ほど自国語に対するこだわりが減少していくのは興味深い。
※What It Takes to Truly Be ‘One of Us’
対象国に2016年3月から5月に18歳以上の男女に対して渡り電話による通話アンケート方式(一部は対面応対方式)で行われたもので、有効回答数は約1000件(一部の国ではそれ以上)。それぞれの国の実情に合わせてウェイトバックが行われているが、一部の国では都市部のみの調査となっている。
なお日本に関しても一部ではあるが属性別のデータが報告書本文にて開示されている。それによると50歳以上に限ると77%だが34歳以下では57%に留まる、男性は62%だが女性は77%にも達している、などである。色々と考えさせられる結果には違いない。
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