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学歴で大きな差異が…いかなる媒体で読書をしたのか、米国事情を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 読書は人の多様な願望を満たす。媒体を問わずに

日本ではまだ「読書」との言葉を電子媒体に対し用いることへの抵抗が大きいが、欧米ではすでに媒体種類を問わず、文章の集約体を対象として読み進める行為はすべて読書と呼んでいる。そこまで電子媒体が一般的に認識された証でもあるのだが、それではどれほどの人が紙媒体や電子媒体の書籍を閲読しているのだろうか。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社PewResearchCenterが2016年9月に発表した読書に関する報告書「Book Reading 2016」(※)を元に、同国の媒体別の書籍閲読状況を確認する。

まず最初に示すのは、過去1年間における書籍の読書状況。コミックや雑誌などは除く、書籍による読書をしたか否か。媒体種類は問わない。

↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)
↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)

全体では73%が1冊以上書籍を読んだとしている。男女別では女性の方が、年齢階層別では若年層ほど読んだ人は多い。もっとも65歳以上でも67%は読書経験あり。

属性別差異が大きいのは学歴別。最大で2倍近い差が出ている。世帯年収≒貧富の差ではさほど差異が生じていないことから、金銭的な問題よりむしろ、読書への熱意、意思の強弱が関係しているものと考えられる。あるいは必要性の度合いか。

では具体的にどのような媒体で書籍の読書をしたのか。それを属性別で見ていく。まずは全体と男女・年齢階層別。

↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)(属性別)(男女年齢階層別)
↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)(属性別)(男女年齢階層別)

男女間では紙媒体で大きな差が出ており、女性の方が高い値を示している。その差は9%ポイント。電子媒体でも女性の方が高値だが、差異は2%ポイントに留まっている。

年齢階層別では紙・電子共に若年層の方が高い値であることに変わりは無いが、紙媒体の差異がさほど大きくないのに対し、電子媒体では大きな差が生じている。単に書籍を読みたいか否かの意欲に加え、デジタルギャップがハードルとして加わるため、年齢による差異が広がってしまうのだろう。見方を変えればハードルの低い紙媒体は、年齢差をさほど気にしなくても良い媒体であると考えることができる(当然といえばそれまでの話だが)。

続いて学歴や世帯年収別。

↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)(属性別)(学歴・世帯年収・居住地域別)
↑ 過去1年間に書籍の読書をしたか(2016年春、アメリカ合衆国)(属性別)(学歴・世帯年収・居住地域別)

学歴と書籍の読書傾向は強い正比例関係にある。高学歴ほど紙媒体でも電子媒体でも書籍を読む傾向は強くなる。就いている職の上で必要性に加え、元々の読書好きか否かも多分に影響しているのだろう。他方、世帯年収別では紙媒体の読書傾向に大きな差異は生じていないが(それでも3万ドル未満では10%ポイント程度低い)、電子媒体では大きな差が生じている。環境整備にかかるコストが、紙と電子ではけた違いであることの結果といえる。

居住地域別では紙媒体は緩やかな形で地方に行くほど低くなるが、電子媒体ではむしろ都市部よりも近郊の方が高い値を示している。近所に本屋が無くともすぐに読める電子書籍のメリットが出ていると見ればよいのだろうか。

保存スタイルや資料としての使いやすさ、耐久年などの差異はあれど、紙でも電子でも音声でも、書籍には違いない。選択肢が多ければそれだけ書籍に触れる機会も増えることになる。日本では流通や出版業界界隈で何かと物議をかもしているが、読者の視点で見れば電子書籍の登場と普及は、喜ばしい話には違いない。

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※Book Reading 2016

2016年3月7日から4月4日にかけて、アメリカ合衆国に居住する18歳以上の男女に対しRDD方式で選択された電話経由で音声対話によって行われたもので、総対象者数は1520人。うち381人は固定電話、1139人は携帯電話(そのうち636人は固定電話非保有者)。国勢調査の結果に基づいた各種ウェイトバックが行われている。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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