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伸びるのは「食指」か「触手」か・言い間違いされる言葉たち

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 食指は伸びるものではなく動くものです

人間の記憶は案外曖昧なもの。似たような、そして実は異なる言い回しで覚え、利用している場合が多い。使っている本人は正しいとの認識の上で使っているが、いざそれが間違いだと分かった時、恥ずかしさを覚えてしまう。そんな経験は誰にでもあるはず。

小学館が同社発行の国語辞典「大辞泉」編集部による調査データとして2013年10月に発表した資料によると、世間一般において「本来の言葉、言い方」と「本来とは異なるが良く使われている言葉、言い方」で併用されている50の言葉のうち、もっとも良く「本来とは異なるが良く使われている言い回し」が使われているのは「間が持てない」だった。

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↑ 次の意味を表す言葉として普段どの言葉を使っているか(上位十位)(赤棒が正解)
↑ 次の意味を表す言葉として普段どの言葉を使っているか(上位十位)(赤棒が正解)

「間が持てない」とは、途切れがちの会話などをうまくつなぐことが出来ない状況を指す言い回し。これを「間が持たない」と表現している人が7割近くもいる。

思い返してみれば、確かに「間が持てない」よりは「間が持たない」の方が見聞きする事例が多い。ちなみに検索すると「間が持てない」は約130万件、「間が持たない」は約265万件が該当する。類似検索事例もあるものの、「間が持たない」の方が良く使われている可能性が高いことを示している。

第2位の「声をあららげる」は「荒らげる」であり、「声をあらげる」とする表現は誤り。しかし利用者が増えている現状に伴い、主要メディアでも「あらげる」を使うことを許す事例が増えている。むしろ新聞やテレビで「あららげる」という表現は滅多に見聞きしない(例えばNHKの放送文化研究所「放送現場の疑問・視聴者の疑問」では、使う人が多い事から、放送中でも「あらげる」を使うのも認めるようにした、とある)。

今件グラフ中の言い回しは誤用されている事例が多いだけに、内容を確認して「え、この言い方って間違いなの?」と驚かされるものが多い。例えば「触手(しょくしゅ)を伸ばす」だが、「食指(しょくし)を伸ばす」という誤用回答は4割で、正解の2倍近くもいる。しかしよく考えれば、ヒトの「食指」は「動く」ものであり、「伸びる」ものではない(「食指が動く」は中国・春秋時代の古事が由来となっている)。似たような意味を持つ、そして発音も似ている「食指が動く」と「触手が伸びる」が頭の中で混ざり合い、一つになって「食指が伸びる」となってしまったと考えれば(正しいか否かはともかく)道理は通る。

一次ソースとなるリリースでは間違った言い回しについて「言葉は時代と共にさまざまな状況変化を受けて、言い回しも意味も変化していくものであり、今回挙げた『異なる言い方』が必ずしも間違いとは言い切れない『場合もある』」と説明している。また今回取り上げた言い回しでも、「相手に意味が伝われば、言葉としては責務を果たしたことになるのだから、間違った言い回しでも良いではないか」と主張する人もいる。

それも一理はある。しかし相手が本来の、正しい言い回しを知っていた場合、誤用は「別の意味に解釈されてしまうリスク」を背負うことになる。出来れば正しい言い回しで、言葉を使いこなしていきたいものだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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