コロナパンデミックにおける日米韓の対応能力比較

コロラド州デンバーでドライブスルー検査にあたる職員(写真:ロイター/アフロ)

初動を誤った各国

私が住むアメリカ東部にもとうとう新型コロナウイルスパンデミックの波が到達してしまった。近所のスーパーでは買い占めが起こり、教会は集まりを自粛し、職場はリモートワークに切り替わった。小中高は閉まり、大学の授業はオンライン授業に切り替わっている。アメリカは三月に入って急にこうした極端な対策を始めたが、そもそも米国疾病予防管理センター(CDC)を含めて政府が初動を誤ったせいで急速に国内感染が広がってしまった。

初動を誤ったせいで危機が拡大しているのは韓国にも日本にも言えることだ。感染症パンデミックに対して、どの国も初期に満足な対応ができなかったのは、今度の課題といえる。幸いコロナウイルスは八割の感染者は軽症もしくは無症状で致死率も3%程度という、殺傷力の強くない感染症だ。これがより深刻な感染症だったらと想像すると背筋が凍る思いがする。

柔軟な規制緩和ができずに初動対応で失敗した米国

アメリカでは、一月下旬に国内最初の感染者がワシントン州で確認された。これを受けて、地域の感染症専門家とその研究チームがインフルエンザ検査を転用して、コロナウイルス検査を実施する方法を提言し、何度も連邦政府に協力を求めたが拒否され続けて何週間も経ってしまった。彼らは二月下旬に入って、これ以上は待てないと政府の承認なしにウイルス検査の実施を敢行した。

だが、この研究チームは独自の検査を即時ストップすることを求められた。

連邦政府が彼らの要請を拒否し、検査を中止させた理由は、この研究チームの研究対象がインフルエンザであり、それをコロナウイルスに変えての検査の転用は許可できないということと、医療行為に直接関わる許可を得ていないということだった。つまり、研究倫理に関する規制を優先した結果、感染状況を早期に把握することに失敗してしまったのである。

また、ほかの専門家も二月中旬頃から初動の重要性、検査の重要性を訴え続けていた。だが、米国は中国からの入国禁止措置で稼いだ時間を事実上、無駄にした。民間の研究機関が独自に検査を開発できるようにしようという声もあったが、米国食品医薬品局(FDA)がそれを許可することはなかった。CDCに至っては、独自検査の開発にこだわった結果、最初に開発された検査が失敗作だった。

現在では、トランプ大統領もCDCも、国内で感染が広がった原因は広範な検査を早期実施することに失敗したせいであるということを認めている。

いかに柔軟に規制を緩和し柔軟に対応できるかが、緊急事態における国家の対応力を左右するといえるだろう。

「早期追跡、早期検査、早期治療」で初動の遅れを取り戻した韓国

韓国政府は初動の遅れとコロナウイルスに対する甘い見積もりによって感染の急拡大を許した。だが、広がってしまった感染を抑え込むために必要な柔軟性を発揮した。

まず早期追跡、早期検査、早期治療をモットーにドライブスルー検査など、感染が疑われる人々に対して大規模な検査を実施した。日本では韓国について「誰でも彼でも検査している」「検査しすぎて医療崩壊が起きている」というデマが流れているようだが、「感染が疑われる人」は徹底的に検査しているというのが実態だ。また、大規模感染が起こった大邱で病床が足りないという事態が起こっているのは事実だが、これについても政府が新たに生活治療センターを準備し、また自宅隔離を支援・義務化するための法整備やアプリ開発などの対応により鎮静化しつつある。

そもそも、韓国は累計で八千人以上の感染陽性者が発見されているにもかかわらず、累計死者数は80人未満である。現在、新規感染者数も激減して退院者数が新規感染者数を上回っているのだから、韓国全土で医療崩壊が起きているわけがない。

「早期追跡、早期検査、早期治療」をモットーとした大規模な検査実施によって感染者数を激減させることに成功した「韓国方式」はWHOも高く評価しており(注)、アメリカドイツオーストラリアなどでは早速「韓国方式」で対応を進めるべく、ドライブスルー検査が導入されている。

イタリアや中国のように街を封鎖して人の移動を制限する方法は、広範な検査によって感染者を把握・隔離・治療するよりもトータルコストが高く、しかも結局のところ感染状況が把握できない。韓国での致死率が1%以下に抑えられているのに対し、イタリアでは7%を超えている状況も、イタリア方式の限界を示している。

情報公開を徹底したことで、政府に対する信頼感を損なわずに済んだことも韓国の対応の評価すべき点である。政府に対する信頼度があれば、買い占めやパニックは起こりにくいからだ。文大統領をはじめとする当局広報関係者はしばしば楽観論を述べてきたが、疾病管理本部(韓国版CDC)は政府の楽観論を否定し、必要な情報を流し続けていた。これはCDCに独立した権限があるため可能なことだ。

文政権の対応については批判的な人でも、疾病管理本部の発信する情報を疑いはしないし、政府が迅速かつ広範な検査を実施したことについても肯定的に評価する人が殆どだろう。マスク品薄問題はあるが、これについても政府が介入することで大混乱を避けている。

結果として、韓国民の政府に対する信頼度は高い。

一方、日本やアメリカではマスク、トイレットペーパー、アルコール消毒ワイプなど大規模な買い占めやパニックが起こっている。これは政府に対する信頼感が低いためであろう。

また、韓国は感染状況や対応を積極的に国外に発信することで、国際的な信用度も高めている。たとえば、3月15日にはカン・ギョンファ外相自らBBCのインタビューに応じ、「検査が我々の方策の中心である。早期発見につながり、さらに感染が広がるのを抑えることができ、感染が分かった人々を早期治療することができるからだ」として、検査の重要性を訴えている。

これに比べて、米国は情報公開に問題がある。ホワイトハウスはコロナウイルスに関するCDCとの会議を秘匿情報に指定したが、これが対応の遅れの原因となっている。専門家であっても保安上の許可(Security Clearance)が無ければこうした会議に参加できず、必要な情報にもアクセスできないからだ。

連邦政府の秘匿情報に州政府はアクセスできない。各地で感染が広がっている中で、情報を秘匿されてしまえば必要な対応は遅れる。さらに言えば、グローバル化がこれだけ広がり感染が世界中に広がっている状況で、情報を一国のそれも一部の保安上層部だけで共有し、外部に隠すのでは不安をあおるだけだ。

情報公開でも検査でも問題ばかりの日本

情報公開の点でも検査の点でも、アメリカ以上に問題が多いのが日本だ。

まず、日本は検査実施数が少ないので、実際の感染者数は報告されている以上であると考えるべきである。

二月初旬の検査数は最大で一日約1500件が限界だった。2月6日から3月15日までの総検査数も12000件に過ぎない。政府は検査数を最大一日7000件程度まで増やす準備があるとしているが、一日二万件の検査を実施してきた韓国と比べれば半分以下だ。

検査数が少なければ感染者数も少なく見えるが、貿易量や出入国者数を考えれば、中国との接点が韓国以上に多い日本で感染者数が低く抑えられていると考えるのは難しい。

しかも、これだけ検査数を抑えているのに、感染者が増えている地域ではすでに病床のひっ迫も起きている。感染者を見つけても病院に収容しきれないという問題が起こっているのだ。

日本の場合、検査を拡大すれば医療崩壊が起きる可能性がある。

コロナウイルスは日本では「指定感染症」である。日本の法律では「指定感染症」に感染していたら無症状でも軽症でも入院隔離措置を取らなければならない。つまり、自宅療養や自宅隔離はできないのである。感染症に対応できる医療機関ではない病院でも入院させなければならないので、院内感染も広がる。

インターネット上では、検査数を増やして感染陽性者数が増えれば、結果的に大パニックとパンデミックを引き起こすことになると危惧する声もみられる。

オリンピックのために感染者数を隠しているのではなく・・・

オリンピックを実施したい安倍政権が、意図的に感染者数を隠す目的で検査を実施していない、という指摘がある。

ダイアモンドプリンセス号で内情を隠匿し、しかも集団感染を引き起こしたことで、日本政府がコロナウイルスに対して全く無対策かつそれを隠匿するために情報操作している状況を国内外に知らしめてしまった。

また、コロナウイルスが広がった際の安倍首相の会見でも、準備していた原稿を読み上げるだけで記者の質問もまともに受け付けなかった。政府広報としか言いようがなく、さらに国内外の不信感をあおった。

だが、筆者は安倍政権がオリンピックのために感染者数を隠そうとしている、あるいはそのために検査数を低く抑えているとは考えていない。

もっと単純に、大量検査をする能力も無く、感染者を病院に収容する能力も無く、無症状者や軽症者は自宅隔離・自宅療養で対応するという柔軟性も無い、というのが実態だろう。日本で自宅隔離・自宅療養を導入したらただの自宅放置になりかねない。こういう実態を隠そうとして失敗しているのだから二重に愚かしい。

そもそも日本にはアメリカや韓国のような、独立した権限を持つ感染症対策の専門組織である疾病予防管理センター(CDC)が無い。

ダイアモンドプリンセス号の件で醜態をさらしたように、感染症が発生した状況でシステマチックに感染症の専門家が迅速に対応に当たる体制が確立していないため、厚労省の役人と散発的に参加する専門家で行き当たりばったりな対応にならざるを得ない。しかも全てが厚労省の管理下にあるため、専門家が何を提案しても厚労省が受け入れなければそれまでだ。

大量検査は政府が「やろう」と決めても容易に導入できるものではない。複雑な衛生設備、検査を実施する人員、採取されたサンプルを検査する人員、需給状況を管理するITシステム、検査に必要な材料の確保、スムーズなロジスティクスなど、入念な企画・準備が必要だ。こうしたボトルネックを解消できずにまごつくその間にも感染は広がる

この点においても、韓国はCDCが中心となっていつかパンデミックが起こるであろう事態を想定して、時間をかけて準備を整えていたといえる。

一方、日本政府は問題を隠し、パンデミックをコントロールできているかのような印象操作をしようとして失敗している。

まずコロナウイルスに関しては指定感染症の規制を見直し、無症状者及び軽症者は自宅隔離・療養対応することで医療崩壊を防ぎながら、広範な検査実施によって「早期追跡、早期検査、早期治療」を実施すべきだ。

厚生労働省は3月17日に『新型コロナウイルス感染症患者の自宅での安静・療養について』という、自治体・医療機関向け情報を出している。医療崩壊が起こりえる場合には、状況に応じて厚労省と相談のうえで自宅療養を主軸とした対策に移行すべきであると提言している。

だが、いったいこの情報はどれほど医療従事者、医療機関、自治体に共有されているのだろうか?この通達が十分に共有されていないからこそ、いまだに医療崩壊を危惧し検査に対して抑制的であるべきだという考えが見られるのではないだろうか。

厚労省は自治体・医療機関向けに自宅療養を奨励しているこの通達を徹底周知すべきだ。

また、国として今から広範な検査実施をするのは難しいというのであれば、自宅隔離・自宅療養を支援・義務化する法整備、支援アプリ開発を急ぐべきだ。韓国は自宅隔離・自宅療養を支援するアプリを他国に提供する準備があるとしている。韓国の支援を仰ぐのも手だろう。

オリンピックは延期すべき

こんな状況でオリンピックを強行しようとしているのは、状況判断能力の無さを更にアピールしているようにしか見えず滑稽そのものだ。安倍首相はG7で「完全な形でオリンピック開催することでG7が合意」したとしているが、少なくともトランプ大統領はその直前にオリンピックは延期すべきだと主張していた。

各国で国際線・国内線フライトの多くがキャンセルされ、代表選考会も次々とキャンセル・延期され、トレーニング施設なども閉鎖している中で、誰がオリンピックに出場するのだろうか?スター選手も出ず、新記録も出ないオリンピックなど面白くもなんともないし、がらんどうの会場で観客も声援も無いなかで競技をしなければならない選手も気の毒だ。半年なり一年なり、状況が落ち着くまで延期することを前提に対応を考えるべきである。

最後に、日本政府は早急に独立した権限を持つ日本版CDCを立ち上げなければならない。

注)

WHOの「検査、検査、検査」の声明について一部で誤訳が広がっているようだ。

広範な検査の重要性を訴える声明でWHOは「疑わしきは全て検査」を強調しているが、その上で医療崩壊を避ける方策としてケアの優先順位を付けるべく次のような提言をしている。

「多くの国々ですでに医療施設において軽症者までケアできるような容量をオーバーしていることも我々は把握している。このような状況では高齢の患者と持病のある患者を優先すべきである。」

つまり、検査で陽性になったから自動的に入院させるのではなく、医療施設に余裕がない国は無症状や軽症者は自宅療養させるべきである、ということだ。検査の優先順位の話ではない。

なお、この声明には「WHOは感染確定者の接触者の検査はCOVID-19の症状を示している場合においてのみ推奨する」という注釈が付けられている。これを以って「日本は検査拡大すべきではない」と解釈するのは早計である。というのも、WHOには多くの発展途上国も加盟しており、医療機関、医療従事者、検査キットともに非常に限られた数しか準備できない国も少なくないからだ。こうした国々に配慮すれば「どのようなケースを優先的に検査すべきか」について注釈を加えるのは当然のことである。声明そのものはあくまでも広範な検査の重要性を訴えるものである。日本のような先進国でこの注釈を以って「検査は抑制的に」とするのは曲解である。

(文中の感染者数・死者数などの数字は3月15日時点で確認したもの)