アメリカ中間選挙での共和党の「敗北」から日本が学ぶべきもの

中間選挙後の記者会見でトランプ大統領に質問する記者たち。(写真:ロイター/アフロ)

11月6日にアメリカの中間選挙が終わり、共和党、民主党の双方が勝利宣言をした。

結果として、上院(Senate)は共和党が51%の議席を確保し、下院(House)は民主党が51%の議席を確保した。

日本の報道はこの状況に対して「ねじれ国会」と批判的だが、アメリカ国内でこの状況を「ねじれ」とする報道は見られない。

そもそも、それぞれ異なる党が二つの議会で多数を占めるのは、健全な議論を経たうえで立法するという民主的立法プロセスに不可欠なもので、それを「ねじれ」と批判的に見るのは「議会で議論すべきではない」と言っているのと変わらない。

日本の報道が衆院と参院の多数派が異なる状況を「ねじれ」と表現するのは、「政権与党の方針に従え」と言っているのと同義だ。

そんな民主主義を根本から否定するような御用報道はアメリカでは見当たらない。

たとえばアメリカでは両議会の多数派が異なる場合「divided」つまり「分断・分割・分離」であり、単に異なるものとして表現される。

日本の報道が「ねじれ国会」などと言って「本来あるべきものからずれている」という印象を与える語感で表現するのは、政権与党こそ「本来あるべきもの、正しいもの」であるという印象操作に過ぎない。

さて、今回の選挙結果を受けて、トランプ大統領は「トランプ氏はマジックを持っている。彼は驚異的な票ゲッター&選挙キャンペーン者だ、とフォックスニュースで言っていた」と大喜びしているが、共和党内には反トランプを前面に出している候補もおり、必ずしも「トランプの共和党」の勝利ではない。

今回の中間選挙は、白人至上主義、LGBT差別、人種差別、移民差別を匂わせて「私たちのアメリカ」を前面に押し出した共和党と、人種的・性的マイノリティ、女性、移民などの活躍を掲げて「多様なアメリカ」を押し出した民主党の戦いであった。

まず、今回の選挙では女性、人種的マイノリティ、LGBTQなど歴史を塗り替える候補が多く当選した。

全米初のネイティブアメリカン女性、ムスリム女性、最年少女性、ゲイ公表男性が議員、知事として誕生したほか、いくつかの州で「初の黒人女性」が当選し、さらには女性が下院史上最多議席数を獲得した。

大統領選挙でロシアの介入を許したのではないかと言う疑惑をかけられているトランプ氏にとって、下院での敗北は手痛いものである。

おそらく下院では民主党がトランプ氏に対する捜査を始めるだろう。

これに恐れをなして、トランプ氏はすでに「民主が下院でロシア疑惑で捜査するようなら、上院で民主に関するありとあらゆる疑惑を捜査してやる」と脅しをかけている。

また、下院が民主党に奪還されたことで、トランプ氏が掲げていたオバマケア(保険制度)解体も絶望的になった。

今回の選挙でアメリカ国民がもっとも重要な問題として掲げていたのが保険制度であった。

オバマ政権はオバマケアの導入によって下院の議席を失ったとされていたが、今回の選挙では、民主はオバマケアのおかげで下院の議席を奪い返すことができたのだから、皮肉なものだ。

下院での民主党勝利を導いたアメリカ国民は、保険制度を守るとともに、極右化するトランプ政権下でどうにかバランスを維持することに成功したと言える。

また、上院・下院選挙が注目を浴びている一方で、州知事選でも7つの州を奪取した民主党が大躍進した。

アメリカ国内でのトランプ大統領支持率は4割だが、これは「トランプが何をやろうとも支持し続ける層」であると言われている。

事実、共和党支持者の9割近くがトランプ支持をしているのに対し、民主党支持者での支持率は1割にも満たない。

ほんの数年前に民主党から鞍替えして、人種差別、LGBT差別、女性差別をいとわない言動で共和党候補として大統領に当選したトランプ氏は、中道共和党候補にとってはマイナス要素でしかなかった。

たとえば、「最も青い(青は民主党のイメージカラー)共和党候補」と呼ばれている中道派のマサチューセッツ州のチャーリー・ベイカー知事は今回の選挙期間中、トランプ氏のことを「 極悪の、恥ずべき、分断主義者だ」と批判していた。

また、メリーランド州のラリー・ホーガン氏は、伝統的に民主党が強い同州で共和党候補として初めて二期連続当選したが、彼もトランプ氏の反移民政策や反温暖化の態度に強く反対しており、自身の勝利は「私が共和党員として州知事をしてはいなかったからだ」とコメントし、トランプ共和党との距離を明確にしている。

日本の報道では「トランプ政権は経済に強いのになぜ下院で負けたのか?」というコメントが見られる。

だが、トランプ政権が「経済に強い」と主張しているだけで、実際に「経済に強い」わけではない。

トランプ政権が主張する「経済の強さ」とは、オバマ政権時代の経済トレンドの延長線に過ぎないからだ。

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図はアメリカの失業率を示したものである。

オバマ政権(2008-2016年)が始まる直前の2008年10月にリーマンショックが起こり失業率が跳ね上がったが、一貫して失業率は下がり続けている。

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同様に、リーマンショックの影響は貧困率を上昇させたが、第二期オバマ政権以降、貧困率は下がり続けている。

オバマ政権時代の経済施策やグローバル経済の動向に連動して上向いてきた経済トレンドに便乗して「経済に強い」とうそぶいているのがトランプ政権なのである。

しかも、保護主義的政策で世界各国に貿易戦争を挑んでいるトランプ政権の経済施策が早々に限界を迎えるのは明らかである。

すでに、トランプ経済がオバマ経済を下回るという試算も出ている。

今回の選挙での下院選での共和党の敗北は、アメリカ社会を分断し、世界を敵に回す政策を続けるトランプ政権に二期目があるのか、国民の目が厳しく光っていることを示す結果だった。

そして、こうした国民の目となり耳となり、政治を鋭く分析し、批判しているのがアメリカのジャーナリズムである。

中間選挙の翌日、トランプ大統領の記者会見では記者たちが質問を浴びせかけた。

その中でも舌鋒鋭い質問をし続けたCNNのジム・アコスタ記者を、トランプ氏は「失礼な酷い人間だ」とけなし、ホワイトハウスへの立ち入りを禁止した。

アメリカの報道はトランプ氏のこの行動を強く批判している。

日本の記者たちが記者クラブで決まり切った質問で、しおらしくしているのとは大違いだ。

国民の目となり耳となって鋭い質問をすることもせず、政権批判どころか政権の見解を垂れ流すだけの御用報道しかしない報道に存在価値は無い。

今回の選挙では、アメリカ国民の冷静な選挙行動とそれを支えるジャーナリズムの底力が垣間見えた。

成熟した民主主義社会、市民社会の在り方の一つとして、日本の人々にとっても学ぶところの多いものであった。