アメリカを入れたTPPに固執するな

トランプ次期米国大統領のTPP離脱宣言。かえっていいのでは?(写真:ロイター/アフロ)

自民党によるTPPの強行採決、トランプ次期米国大統領のTPP離脱宣言、中国が参加意欲を見せているなど、何かとTPPが話題になっている。TPPとはTrans-Pacific Partnershipの略で、いわゆる地域間自由貿易協定の一つである。

地域間自由貿易協定で有名なのはEU(ヨーロッパ連合)やNAFTA(カナダ・アメリカ・メキシコの北米三国)がある。貨幣を共通のものにしたり、関税を撤廃したり、人の移動を自由化したりと、協定の内容によっても様々だが、いずれも自由貿易協定を結ぶ目的は、各国の法律や規制によって貿易の際に生じる不便さを緩和しよう、というものである。

自由貿易協定には地域間のものもあるが、二国間で行われるものも多い。トランプ次期米国大統領はTPPを離脱する代わりに、米国にとってより直接的利益となる二国間自由貿易協定に注力すると言っている。

地域間にせよ二国間にせよ、自由貿易協定の難しさは互いの国内産業を圧迫し、雇用や国内の経済環境に必ずしもプラスとなる影響を与えるわけではない点であろう。また、環境保護や労働法などの「規制」に対する私企業からの圧力が強まり、国民を守るための手段が狭まっていくことも問題だ。

たとえば、NAFTAでは営利活動を制限し利益を阻害する要因に対して、企業が訴訟を起こせるという規定がある。これによって、協定に参加しているアメリカ、メキシコ、カナダ政府はそれぞれ私企業から何件もの訴訟を起こされており、中には数千億円の賠償金を求める訴訟も含まれている。いずれも環境保護や労働者の保護に対する規制が企業の経済活動を制限し、利益を阻害しているという訴えである。特に環境保護や労働者保護に関する規制の多いカナダは参加国の中でも最も頻繁に訴えられており、1994年の協定批准以来、合計で30回を超える訴えを起こされている。これまで、カナダ政府は合計で1億7000万ドル、メキシコは2億400万ドルを訴訟に負けて企業に支払っている。アメリカはこれまで訴訟に負けたことはないが11回訴えを起こされている。賠償金はもちろん税金から支払われているのだから、企業は「お前たちを守るための法律は、俺にとっては損害だから弁償しろよ。俺たちが儲かればお前たちにもいいことあるからよ」と、国民を恐喝しているようなものだ。

企業にとって、こうした訴訟の一番の目的は賠償金を勝ち取ることそのものよりも、「企業にとって不利なことをしたら訴訟リスクが高まるぞ」と脅しかけ、政府が委縮し、自ら規制を緩和することにある。

これは、自民党が弁護士を引き連れてテレビ局に乗り込んで公職選挙法違反の政党CMを流せと脅しかけた事件や、高市早苗総務相が政治的公平性を欠く放送を繰り返した放送局に電波停止を命じるなどと脅しをかけたことにより、メディア側が自主規制をかけて、政府批判を行わなくなっているのと似ている。

公権力がメディアに圧力をかけてはならないというのは、疑問視さえされない常識であったはずだが、安倍政権になってからは、自民党はおもなニュース番組に対して細かい部分まで毎日のように抗議し、訂正を求め、注文をつけている。そして、メディア側はいちいち対応していられないので、次第に『文句を言われない表現にしよう』と、委縮し自主規制してしまう。

自由貿易協定によってあらゆる「貿易障壁」に対して私企業がいくらでも圧力をかけてよいことになれば、政府の側は規制することそのものに対して委縮してしまう。それは、国民が民主的に選んだ一国家の立法府・行政府に対して、国内外の企業がいくら脅しをかけて金をむしり取ってももよい、というのと同じである。しかも、国民や国土、環境を守るための規制に対して脅しをかけ、賠償金を勝ち取るというのだから、これでは国民主権ではなく企業主権である。

自民党の議員が国会で多数派であるということと、国民が個別具体的な政策に対しる賛否は全くの別問題だ。その事実を無視して、まともな議論もなしに、国民主権の民主主義を脅かすリスクの高い自由貿易協定を強行採決したというのだから、自民党というのは売国奴そのものである。こうした無理な自由貿易協定や経済自由化の帰結が英国のEU離脱、アメリカのトランプ氏勝利の背景にあったということを自民党が理解していないのであれば、むしろ自分で自分の首を絞めようとしているというべきで、もはや何がしたいのかわからない。が、将来の見通しが真っ暗な日本国民としては、そんな自民党の自作自演の茶番に付き合っている余裕などない。

TPPには日米が中心となって経済圏を形成し、中国をけん制するという国防上の目的もあるという話があるが、本土攻撃してくるわけでもない中国をけん制するために、国民主権をいけにえにするなど、本末転倒である。

一方、中国がTPP参加に意欲を示しているという。こうなると中国をけん制するというTPPの国防目的は果たせないが、その代わり、中国と経済協力を加速することによって国防リスクを未然に防ぐ外交ルートを作ることに生かせるのではなかろうか。TPPの協定内容には日本の国民主権、社会保障制度、雇用、環境、健康を脅かす内容が多く含まれていたが、アメリカが離脱するのならば、当初の協定内容を貫く必然性もあるまい。中国が入ってくるならば、協定内容を丸ごと見直して、よりアジア圏のつながりを強化するような自由貿易協定を目指したらよいのではなかろうか。