具体的な職務・職業スキル・産業スキル・職業経験が求められない日本の新卒採用・人事システム

あたま、使ってる?(写真:アフロ)

前回は、日本の若者が学校で学ぶ就業スキルは世界でもトップクラス、しかもトップとボトムの差も小さいのに、そんなポテンシャルのある若者を企業が育成できていないことを指摘しました。ここでいう就業スキル(Employability)とは数的思考力、読解力、IT思考力で測られる学力、つまり就業できるポテンシャルのことです*。

高いポテンシャルを持っているにもかかわらず仕事でそれを活かせないケースは院卒者に顕著です。大学院まで出てエクセル打ちやコピー取りをやらされてやる気を失うなどというのは、私の周りでもよくある話です。

自分の思考力より低いレベルの思考力しか求められない仕事についている日本人

日本では相当な数の労働者が、仕事で要求される思考力が自身の思考力より低い職に就いており、職場で問題解決力を使う場面も低いという調査結果が出ています*。

若者に限らず、就労者全体で見た場合の特徴として、日本はスキルド・ワーカー、セミスキルド・ホワイトワーカー、セミスキルド・ブルーカラー、単純作業労働者と仕事の種類別に見ても、全てのグループでスキル習熟度が高いことも特徴です。大卒以上かそうでないかによっての習熟度にはっきりと差はあるものの、その差が小さいことも特徴です。

学力に基づく就業スキルがこれらの調査で重視される理由は、IT化、産業の高度化など「ブレインワーク」の重要が高まっており、価格競争で不利な先進国が世界で生き残るために不可欠なスキルでありポテンシャルだと考えられているからです。しかし、こうした高いスキル習熟度をもつ日本の労働者は仕事でそれを使う機会が少ないようです。読解力と筆記力の使用頻度はOECD平均より高い一方、数的思考、IT思考力、問題解決力が求められる頻度は平均より低いのです。本来であればこれら全てをフルに活かしてこそ「ブレインワーク」によって優位性を生み出すべきなのに、それができていないのです。

高度専門職から単純作業労働者まで、学校卒業直後の若者は今の世界に求められているブレインワークをやっていくのに必要な就業スキルは高いのに、それに見合った質の高い仕事につき、そこで「頭を使う」ことが少ないのです。

ここで、日本の若者の状況を詳しく見てみましょう。

職場で裁量を持って仕事をしている16-29歳の割合
職場で裁量を持って仕事をしている16-29歳の割合

まず、職場で裁量を持っている若者の割合は世界一高いのですが、これはみなし店長、バイトリーダー、ワンオペのような人たちがいることを考えれば理解しやすい順位でもあります。この項目の上位はスウェーデン、オーストリア、ドイツ、ノルウェイです。

仕事を通じて学んでいる16-29歳の割合
仕事を通じて学んでいる16-29歳の割合

次に、「仕事を通じて学ぶ」ということについては下から3番目。すでに知っていることだけで頑張ろうとしているのか、すでに知っていること以外求められていないのか、いずれにしても仕事を通じて新しいことを学び、仕事に関わるスキルアップの機会が少ないのです。この項目で上位にいるのは、フィンランド、オーストラリア、スウェーデン、イギリス、アメリカです。

職場で問題解決スキルを使うと答えている16-29歳の割合
職場で問題解決スキルを使うと答えている16-29歳の割合

また、職場で「問題解決スキルを使う」と答えている若者の割合は下から2番目。つまり、毎日同じようなルーティンワークばかりなのか、言われたことだけやっているのか、自ら考えるということをする必要に迫られていないのです。この項目の上位は、アメリカ、オーストラリア、イギリス、チェコ、韓国です。

周りと協調して仕事をすると答えている16-29歳の割合
周りと協調して仕事をすると答えている16-29歳の割合

一方、「周りと協調して仕事をする」と答えている若者の割合は高く、上から4番目。先輩や上司に気を遣い、余計なことをして怒られないように言われたこと以外はやらないようにする、そんな姿が目に浮かぶようです。この項目の上位はノルウェイ、オーストラリア、デンマーク、フィンランドです。

仕事を通じて成長できない!?

高いポテンシャルを持って入職し、責任感を持って周りと協調しながら仕事をこなす一方、仕事を通じて具体的に職業やキャリアに役立つスキル形成に問題を抱えている様子が伺えます。

私自身、大手企業に努める20、30代の人たちから転職やMBA受験の相談を受けることも多いのですが、「あなたの専門は何ですか?その専門を生かしてどのようなキャリアを考えていますか?」と質問したときに、答えに窮する人が多く、一体、企業は何をやっているのかと憤りさえ覚えます。自分の専門が何かさえわからない状態では、その企業を出て転職、ましてや世界で勝負するのは難しいでしょう。

でもこれは若者の責任、働いている人たちの責任ではありません。ジョブローテーション、本人の専攻や興味と関係のない部署への配置など、日本企業の人事システムの問題であり、そこと密接に関連している新卒一括採用の問題です。

企業の人事は昨今「即戦力になる人材」を協調していますが、それが具体的にどのような職業スキルや経験を持っている人なのかということを明確に示すことはしていません。

就業スキル(employability=就業できるポテンシャル)と職業スキルは全く異なるものです。職業スキルとは、その職務の遂行に必要な具体的スキルです。会計、プログラミング、データ分析、旋盤技術、自動車整備技術、法務知識、社会保障制度に関する知識などがこれにあたります。そういった職業スキルとその分野の経験にもとづき、「あなたにはこの仕事をしてもらいます」ということが決まっていれば、ミスマッチは減ります。

ところが、新卒採用では「職務・必要な職業スキル・経験」が明確に示されていません。学生はうろたえながらも、「こんな仕事をさせてもらえるに違いない。こんな仕事がしたい。」と思いながら一生懸命ES を書き、面接を重ね、胸を膨らませて入社してから「これ、やりたかった仕事と違う」ことに気づき、やる気を失うのです。

新卒一括採用は戦前・戦中・戦後の官民合作システムの残滓

こうしたミスマッチが起こる理由は、採用の時点で仕事内容、求められるスキルレベル、労働条件などが明確になっていないこと、企業側もそれを求めていないことです。

その最大の原因は戦前・戦中・戦後を通じて「官民合作による経済成長」を目的に成立した新卒一括採用システムと、学年で輪切りにする年功序列システム・終身雇用制度にあります*。特に「文系職」の場合にはジェネラリスト志向が強いため、具体的な職業スキルが無く就業スキルだけの状態で就職し、入社後もジョブローテーションや本人の希望を無視した配置などにより、職業・産業に特化した具体的スキル形成ができないまま働き続け、管理職になるシステムです。

高度成長期の官民合作系大手製造業が中心であった産業構造では、このように「誰もが同じ仕事を同じようにこなし、歯車のように代替可能」な採用・人事システムは高い効率を生み出すものでした。しかし、今は大量生産大量消費の時代ではありません。このようなジェネラリスト志向の仕事の進め方で、国際競争を生き残ることは難しいでしょう。社員一人一人が考え、成長する必要があります。

新卒採用をしている限り「スキル」のある学生、即戦力の学生は入ってこない

新卒一括採用の場合、学生側には就業スキルつまり「採用してもらえるポテンシャルを示せるスキル=学力(学歴)」があれば採用されるので、学生のうちから職業スキルを磨くということをする必要がありません。そもそも「一括採用」でどこに配属されるかもわからないので、前もって産業・職業スキルを身につけておいても、それを使える保証さえないのですから仕方の無いことです*。学生のうちに産業・職業スキルを磨くことも、職業志向を持つことも、それに関連する経験を持つことも求められていないのです。

その顕著なものがIT思考力でしょう。日本人の読解力・数的思考力(習熟度)は世界トップであるにも関わらず、IT思考力(エクセル・ワードを使える程度のもの)は平均をやや上回る程度です。そして、ITを活用した問題解決能力における日本人の平均習熟度と比較した場合、職場でのICTと問題解決能力の利用が低いのです。ITスキルで採用されるわけでも、ITスキルを職場で使うわけでもないのですから、学生のうちに必要のないものを身につけようとしないのは当たり前です。国際的には、このスキルが今もっとも「熱い」にも関わらず、です。

職業・産業スキル、職業経験が評価されない新卒一括採用という仕組み

本来、就職希望の学生が、職業スキルを磨き、インターンやアルバイトなどでその分野の具体的経験を積むことで、実際の職探しを有利に進めることが仕事マッチングでは理想的です。しかし、職歴や職業スキルを重視しない新卒一括採用では、そうした自己研鑽が必要とされていないのです。プログラミングがちょっとできて、IT関係の小企業でアルバイトしている非有名大学出身者より、超有名大学を出ている普通の学生の方が大手企業での就職には有利でしょう。

そもそも毎年何千人、何万人の応募者をさばかなければいけない大手企業の新卒採用で、担当者に一人一人の経歴やスキルを丁寧に見る余裕などありません。学校名で切っていく「効率重視」になるのは避けられないのかもしれません。

ここでもう一度、OECDのデータを参照してみましょう。

学校と仕事の連携があると答えた16-29歳の割合
学校と仕事の連携があると答えた16-29歳の割合

「学校と仕事が連携している」つまり、インターンシップなどが高校や大学の授業として取り入れられている、と答えた若者の割合は日本は下から6番目です。上位にいるのはオランダ、エストニア、ノルウェイ、オーストラリア、ドイツです。諸外国では学生時代のインターンやアルバイトなども職歴として評価されるので、学生のうちからせっせと自分が「この分野で働きたい」「この分野の専門家になりたい」と思っている分野で仕事をして、職業スキルと職業経験を磨きます。

理由として、新卒一括採用ではなく、あくまで「必要なときに必要な職業スキルと経歴を持つ人を今必要なポジションに入れる」ことが採用システムの基本であることが大きいでしょう。

おかげで、日本のように何の仕事をするのかもわからないのに大手企業に応募が殺到する一方で、中小企業が人材確保にあえぐという問題が起こりにくくなります。採用者も求職者も「職務・職業スキル・職歴重視」なのです。

日本で各種資格やパソコンなどの職業スキルを磨くこと、企業と提携した単位付きインターンシッププログラムや、キャリア教育に熱心に取り組んでいるのは、名門大学よりも地方国公立大学やいわゆるFラン私立大学、女子大などの非名門大学です。これらの大学は「学生の就職先新規開拓」にも熱心で、地域の中小企業を訪問したり、インターンシップなどを通じて企業との交流を持つことにも積極的です。「大学に行く意味がない」などとバカにされている非有名大学の学生の中には、就業スキル、職業・産業スキル、職業意識や経験もしっかりと身につけている者も多く、それを支援する体制を整えている大学も多いのです。

彼らは東京に本社があるような大企業には就職せず、地域の中小企業を中心に就職していきます。派遣など非正規になることもありますが、スキルがあればどうにか食べていけます。「ほどほどの人材」を支えているのは、「新卒一括採用」「偏差値序列」で採用を決めていく大企業や有名大学ではなく、その枠の外にある企業や大学なのです。逆説的ですが学歴で不利であるがゆえに、職業スキルがなければ就職できない、食べていけない状況にあるからこそ、その事実に気付けた学生は、大学就職部や教育熱心な教師たちの力も借りて、地道に自分の力が活かせそうな就職先を探そうと必死になるのです。

この就職スタイルや就職の志向性こそ、世界の大学生の就職の主流とも言えます。「Fラン大学生」「文系私大」「地方国公立大学は潰せ」などとバカにする論調は多いですが、彼らこそ、日本を救う鍵かもしれませんよ。

日本の若者の多くが、学校ですべきことはしっかりとこなし、高い就業スキルを持っています。そして、就職する前からキャリアについて考え、職業スキルを身につけることにも意欲を持っているのです。

しかし、それがいわゆる大企業の新卒採用では評価されず、入社後も産業・職業に関わる明確なスキルも形成できずにもがき苦しむか、ただ社内の流れに乗っているのです。そして残念なことに、彼らが日本の経済、社会構造、就職システムの主流を形成し、既得権益としてのさばっているのです。

非有名大学との連携やインターン受け入れ、高卒採用、女性採用などでは中小や新興企業の方が大手企業よりはるかに積極的ですし、外国人採用においても「優秀な人を取ったらたまたま外国人」という回答をする企業も多いのです。既存の新卒一括採用だけでは人材が確保できず、ポテンシャルだけで入ってくる若者をゼロから育てる余裕が無いからこそ、さまざまな取り組みをしているのです。それでも人材確保に苦戦している。既得権益を享受できないとは、そういうことです。かつて官民合作型大企業の企業のあり方に異を唱え、独自路線から始まった企業も、大企業となった現在ではこの既得権益を支える側に回ってしまっています。

個を重視する教育と全体主義の企業人事の陥穽でもがく若者

今、学校教育で重視されているのは「個の重視」です。一人ひとりの個性や意思を尊重することを主眼に教育を行っています。かつては教育も全体主義でした。戦中・戦後の製造業の生産ラインに立つ人材、経理などの事務処理を黙々とこなし、代替も容易な人材を効率的に大量生産できるのは全体主義的教育でした。学校教育を通じて出来上がった人材は、そのまま「割り当て」のように大手製造業に就職し、本人の能力やスキルではなく、年功序列で給与や待遇が上がるのは効率的な人材配置でした。

教育業界は年齢による横並びは維持しているものの、部分的ではあれ全体主義を脱却しました。そして、企業も「マネジメント・プロジェクト経済」へと移行する世界の流れに沿って「求める人材イメージ」は変化しています。

しかし、 いまだに採用・人事はこの大量生産・大量消費時代の残滓を引きずっています。専門性が無いジェネラリストが主流を占め、人事部が一括採用する採用・人事システムにあって、「私たちの事業に必要なのはこのスキルだ。なぜなら私たちはこういう将来像を描いているからだ。はこのスキルのある人にこの仕事、あのスキルのある人にあの仕事を任せる予定なので、こんな人物に来てほしい。」ということを明確にできないでいるのです。過去の栄光によってかろうじて体裁を保ているけれど、もっと競争が激化していけばひとたまりもないでしょう。

だから、有名大学を出た人しかいないような、超有名企業や大手企業の国際的競争力が限定的なのかもしれません。

私は新卒採用そのものを丸ごと否定しているわけではありません。ポテンシャル採用が主流だからこそ、学生の職探しが容易な側面はあります。しかし、人事が中心となって大学名をフィルターにして一括で採用し、その後も本人の適性やポテンシャルに合わせた育成・配置をせず、ピカピカのポテンシャルを持った若者を錆び付いたジェネラリストにしてしまうのでは、若者にとっても企業にとっても互いに不幸なだけです。

たとえば、同じ新卒採用でも、具体的な職務・職業スキル・職務経験を示して全体ではなく部門ごとの採用枠を増やす、アルバイトから正社員登用の枠を増やす、学校との連携を強めてインターンをもっと受け入れるなど、少しずつでもできることがあるのではないでしょうか。新卒採用の仕組みに大きな影響力を持つ大企業がこうした問題点を改めれば、その影響によって日本全体の採用や人事評価の仕組みが変化するはずです。