*使用している画像は南丹市公式サイトからの引用です。

・京都府南丹市が元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏を文化観光大使に任命

 2月24日のロシア軍ウクライナ侵攻以降、この戦争はDS(ディープステート,注:世界を陰で操る謎の組織)がロシアに対して仕掛けたもの、とする荒唐無稽な陰謀論を動画や書籍等の中で開陳している元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏について、これが主に右派系の独立ネット動画局を中心に拡散され、日本国内の陰謀論者の根拠になっている事実を、筆者は2022年3月4日の記事「「プーチンさんを悪く言わないで!」という”陰謀論”動画の正体」に詳述した。

 2月24日以降、馬渕氏は開戦前(2014年の、所謂マイダン革命以降等)から同様に陰謀論的世界観を広げ、「ゼレンスキーの背後にDSとユダヤ人がいる」、「ウクライナのロシア軍作戦地域での戦闘被害はすべてウクライナ側の自作自演」、「ブチャ(キーウ郊外の都市)でのロシア軍の虐殺報道は嘘で、やったのはウクライナ側の部隊」などとその主張がエスカレートしている。こういった主張を真に受けた「神真都Q(やまときゅー)」が反ワクチン陰謀論と共に熱心なトランプ・プーチン支持を展開し、リーダー格の男が逮捕された報道は記憶に新しい。

 そんななか、京都市に隣接する南丹市(なんたん=旧園部町・八木町・日吉町、美山町)は市の文化観光大使として2022年4月、その馬渕氏を任命した(任期二年)。任命されたのは南丹市(旧八木町)出身の馬渕氏のほかに8名の合計9人。これらの人々の氏名はいずれも南丹市公式サイトを参照されたい。

 南丹市は、2022年3月14日の段階で、”ロシアによるウクライナへの侵略に対して、南丹市議会議長・前田義明氏と南丹市長・西村良平氏の連名で、抗議声明を発表”している(3月2日には市議会が”ロシアによるウクライナへの侵略に抗議し、即時撤収を求める決議”をしている )。それによると、”この行為(ロシア軍による侵攻)は、力による一方的な現状変更を認めないとの国際秩序の根幹を揺るがすもので、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法・国連憲章違反であり、断じて容認できるものではない。”とある(全文)

 しかし、どう考えても不思議ではないだろうか。南丹市長と議会議長が「ロシアによるウクライナ侵略」とハッキリ言明して抗議しているのに、それとは真逆の「DSがロシアを攻撃している」「ウクライナ側の自作自演」と陰謀論を展開する馬渕氏を市の文化観光大使に任命することは、市や議会の決意と全く矛盾しているのではないか。

 そこで、この文化観光大使の担当である同市秘書広報課に筆者は2022年5月20日に電話取材した。

 電話取材に応じたのは同市秘書広報課のA氏。取材内容を記事化することを快諾していただいた。(以下、A氏を広報、筆者を―と表記する)また記事化のために電話内容は予め録音した。以下のやり取りのうち、強調は筆者。

京都府南丹市美山かやぶきの里
京都府南丹市美山かやぶきの里写真:イメージマート

・経歴だけ見て判断しました。ディープステート云々の陰謀論は承知しています。(南丹市広報課)

―まず馬渕氏が文化観光大使として任命された経緯を教えてください。

広報:就任頂いた経緯というのは、うち(南丹市)の名誉市民でもあり、官公庁で大使をやられたという経歴でお願いしたということですね。

馬渕氏は、ウクライナ侵略については、(ロシア軍が)ディープステートを叩きのめすための戦争をやっている、とずっと主張されているんですけど、このことについてはご存じでした?

広報はい。その辺は個人さんの意見なんで、うちとしては、どうこうということは無いんですけども。

―南丹市はウクライナ支援ということをやっているわけですけれども、馬渕さんが言っていることというのは、市の方針と真逆の事なんじゃないですか。

広報:個人の考え方や思想をですね、考慮して、うちとしてはそこまで考えして任命したわけではないです。

―では、(馬渕氏が)プーチン氏の侵略戦争を肯定しているということを分かって任命したということですか。

広報:いやその、戦争についての肯定否定では無しに、ご本人(馬渕氏)様の経歴だけで考えさせてもらっているだけなので。うちの名誉市民であることと元駐ウクライナ大使というご経歴だけを見ているということなんですね。

―馬渕氏のネット動画や著作での発言について、それを観たり読んだりしたりした有権者が、それを今回のウクライナ戦争の美化とか肯定である、と受け取っていたとしても、それは関係なく経歴だけを見て任命したということで間違いないですか。

広報:そうですね。

―では、文化観光大使がどんなこと言っていても関係ないということですよね。

広報:はい、うちとしては個人さんの発言についてどうのこうのとはできないとおもうんですけど。

もう一度確認しますけど、南丹市としては、馬渕氏のディープステート云々については事前に確認して把握しているんですね?

広報はい、当然その、記事なりニュースなりで拝見はしていますね。

―それ見てどう思いました?

広報:いやそれは、個人の考え方ということで。はい。

・いくら非人道的なことを言ったとしても、個人さんの考えですので。(南丹市広報課)

―元駐ウクライナ大使という肩書を持った人が、日本国内のネット動画等で、全くの出鱈目を言ったり本で書いていると。しかもこういったウクライナ戦争が起こっているときに、(馬渕氏の文化観光大使就任は)社会的影響力が強いと思うんですけど、それについてはどうお考えですか?

広報:南丹市としては特段、今のところは静観しているという状態です。

―なにを静観しているんですか?戦況をですか?

広報:いやそうではなくて、今回取材いただいたこととか、馬渕さんの発言とか、その動向を静観していますということですので。

―普遍的な意味での観光大使としての様子、動向をみていると。

広報:そうですね、はい。

―お話をまとめますと、南丹市としては馬渕氏の発言や主張については肯定も否定もしないという姿勢ですか。

広報:そうですね。

(馬渕氏の主張の中に)極めて非人道的な内容が含まれているということはご存じですか?例えば彼は、キーウ近郊のブチャで行われたロシア軍の虐殺について、存在していない、ウクライナの自作自演であると語っていまして、戦争全体についても、ウクライナとゼレンスキーはナチスなんだと言って、ロシアの侵略を正当化しているんですよね。

広報:はあはあ。

―こういった馬渕氏の発言については、(日本人に留まらず日本国内のウクライナ人からも)大変な批判があるんですよ。それでも、もう、南丹市としては個人が言っている内容については関係が無いと。そういう認識でいいんですね?

広報はい、そうです。

―どんなに非人道的なことを言っていても、経歴だけで判断すると。

広報:あの先ほどから繰り返しています通り、名誉市民と元大使という経歴でお願いしていますので。

・ホロコーストって何ですか?…仮にホロコーストを美化しても、観光大使に任命する可能性はあります。(南丹市広報課)

―では、こういう質問をします。南丹市のその理屈ですと、例えばオウム真理教のテロを美化している人なんだけれども、或いはホロコーストを美化している人なんだけれども、南丹市の出身である程度の肩書がある、という事実があれば市としては以後観光大使に任命する可能性はある、という認識でよろしいんですか。

広報:まあその当然審査というものはありますけど、それでその、お願いするということで。

―じゃあ例えば、ホロコーストを肯定している人物が、南丹にゆかりがあって経歴もあるとなった場合は、繰り返しますが今後観光大使任命の可能性はある、という理解でよろしいんですね?

広報はいはい。出身なりプロフィールなりを見さしていただいてということになりますね。

―ごめんなさいあの、もう一度確認しますけど、例えばホロコーストを美化している人であっても、南丹の出身と経歴であれば観光大使に任命する可能性が市としてある訳ですね?

広報:えーと、あの、ホロコーストっていうのは。ホロコーストって何でしょうか?

―え?

広報:すみません、私、ホロコーストを存じ上げないもので。

―ユダヤ人虐殺ですナチスの。

広報:あー、はあはあはあはあ…。

―ですので、仮にホロコーストを美化する運動をしている人でも、南丹市に所縁があって経歴があれば観光大使任命の選択肢には入ってくると。別にホロコーストを美化していても、それは個人の考えだから市としては関係がないんだと。そういうことですよね。

広報そうですねはい。個人さんがおっしゃっていることについては、うちのほうではどうしようもないですね。相応しいかどうかを判断するということですかね。

―話を今回の馬渕さんに戻します。馬渕さんへの観光大使任命を市が相応しいと判断したんですね?

広報:はいそうですね。

―私個人の感想を申し上げますと、ウクライナ戦争で大勢の人が亡くなっている中、市長や市議会の非難声明等と全く真逆の、ディープステートなどという陰謀論を流布している馬渕さんを文化観光大使に任命するというのはいかがなものと思います。どうもありがとうございました。それでは記事にさせていただきます。(終話)

 果たして南丹市のロシアの侵略非難決議・ウクライナからの即時撤退決議と全く逆の主張であるばかりか、看過できない陰謀論を展開する馬渕氏を「南丹の出身であり元大使だった」というプロフィールと経歴だけで任命した南丹市の判断は正しかったのだろうか。ホロコーストを知らない、という広報担当者の言に大きな不安を感じつつも、その是非は読者の判断にお任せしたい。