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日本の極右と欧米の極右の根本的差異~日本では”欧米型極右”は誕生していない~

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
2016年における東京都内での極右のデモ行進(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

・日本では”欧米型極右”は誕生していない

 先般の東京都知事選挙で、元在特会(在日特権を許さない市民の会)会長で現「日本第一党」党首の桜井誠氏が、落選したとはいえ約18万票を獲得し、前回都知事選(2016年)から約1.5倍の得票伸長したことは大きな注目を浴びた。

 この原因は、2014年の東京都知事選挙における東京都内での右派の基礎票約60万票が、「親安倍7割」「反安倍3割」に分裂したことにより、60万票×30%=18万票という計算式で、「反安倍まで亢進する極端な排外的右派」が元来の右派層から分離して顕在化したに過ぎず、東京における極右勢力自体が伸長したわけではない、というのが私の分析である。

 しかしこの桜井誠氏の得票伸長について、「東京(日本)でも欧米型の極右排外主義勢力が伸長した」とする者がいる。これは端的に言えば、全く正しくない。日本の極右と欧米の極右は、そもそも似て非なる存在である。

 日本の極右は、一見欧米の極右と同じように「移民反対、外国人排斥」を唱えるが、その実態は社会の実勢にまったく即していない。日本における実質上の移民政策として批判される「技能実習生制度」は、現下日本の正社員の雇用を脅かす状況になっておらず、また外国人が排他的コロニーを形成するには至っていない。

 これはどういうことか。欧米に一度でも行ってみたらわかることであるが、正社員の解雇条件が緩い特にアメリカでは、簡単に現住アメリカ人の職を非アメリカ出身者が「簒奪」している状況がある。またこれは今に始まった事ではないが、人口密度が低く、国土の広いアメリカでは人種ごとに居住エリアが色分けされている傾向が強く、いわゆる移民や移民の子孫が特定の箇所や地区に集住し、その他の人種との交流頻度が低い傾向にある。東海岸や西海岸の大都市では比較的この程度は低いが、郡部や中南部に行くと、アメリカにはヒスパニックでも「プエルトリコ系」「キューバ系」「メキシコ系」等の居住地がそれぞれ明瞭に別れ、模擬コロニーとして点在している。いわゆる「アフリカン・アメリカン」でも、例えば「ハイチ系(注*ハイチはカリブ海国家であるが、フランス植民地時代にフランスのアフリカ植民地からの移民が定住し、黒人国家になった)」と「ガーナ系」「ナイジェリア系」「ケニア系」の居住地はかなり明確に色分けられている場合がある。

 欧州ではどうか。イギリス・フランスは伝統的に広大な植民地帝国であったので、英仏語を話す旧植民地出身者移民やその子孫が現地人の雇用を圧迫している。イギリスではインド系、アフリカ系。フランスではモロッコやチュニジア系がそれぞれ模擬コロニーを国内に作り、現地人の雇用を「簒奪」している。ドイツは二度の大戦で敗戦国になったので旧植民地を持たないが、歴史的関係から主にトルコ系移民とその子孫が模擬コロニーを作り、社会問題に発展している(その他に当然シリア難民等もいる)。

 こうした欧米で盛んな極右は、「現実の実社会で、移民やその子孫に雇用や居住地を圧迫されている」という、評価はともかく実態を伴った危機感を有している。だからこそ彼らは外国人の排斥を訴え、地方議会はおろか国政でも議席を有するまでに伸張した。

 しかし日本の極右は、欧米の極右と言っていることは似ているが、根本的差異が存在する。それはひとえに、日本では「現実の実社会で、移民やその子孫に雇用や居住地を圧迫されて”いない”」という事実である。また日本は、人口稠密で住宅地や商業地が近接しているか混在しているので、仮に定住外国人がコロニーを作ろうとしても、アメリカのように排他的な地区にはなりえない。

 事実、群馬県にある「群馬のブラジル」こと群馬県大泉町には確かにブラジリアンコミュニティが存在するが、そこには当然在地の日本人が居住し混在しているので、コロニーを作るまでには到底至っていない(拙稿を参照のこと)。例えば東京でも新大久保のコリアンタウン、葛西のインドタウンなどがあるが、これも職住混在地帯であり、外国人が排他的コロニーを作っている状況ではない。また日本は、かつて植民地を持ったが戦後も日本語を母国語とする宗主国の立場にはなり得なかったので、日本語という同じ言語を話す旧植民地からの移民は存在しない。

 よって日本人の雇用が、欧州のように「言葉の非障壁」を理由に脅かされることは皆無の状況である。在日コリアンなど、戦前からの歴史的背景がある人々等を除き、例えば銀行窓口や自動車企業のディーラー窓口で、外見上明らかに「(日本の)母国人ではなく、事実上の移民かその子孫と類推される」と思われる人々に会った経験があるだろうか?ほとんどの日本人は「まず無い」と答えるだろう。これが欧米と日本社会の決定的違いである。

 事程左様に、日本社会において、日本人の雇用は外国人に「簒奪」されている状況でもなければ、日本社会の都市や地域の一部に「きわめて排他的な外国人の模擬コロニー」が形成される状況でもない。

 むしろ日本社会においては所謂「実習生や留学生」が日本社会に様々な恵沢をもたらしているのが事実である。日本人が傾向的に嫌がる仕事―例えば肉体的重圧を伴う農業や漁業、林業、ある種の機械部品等の製造ライン(もしくは繁忙な都心のコンビニ等)は、いまや「実習生や留学生」という外国からの低賃金労働者が居なければ成り立たない。当然、既知の通り彼らは派遣業者や中間業者等による悪質なピンハネや労働基準法違反の条件で働かされている実情が問題視され、むしろ日本社会における外国人は、日本人の職を奪ったり、日本人の居住地を奪ったりする存在とは逆で、人権が抑圧され、蹂躙されているという由々しき事態がある。

・日本の極右の排外の理屈は都市伝説とデマ

都市伝説のイメージ(フォトACより)
都市伝説のイメージ(フォトACより)

 つまり欧米の極右は「自らの社会生活に”その価値観の評価はともかく”危機感を感じている」からこそ排外主義に走る。しかし日本の極右は「自らの社会生活に危機感を感じていない」にもかかわらず排外主義に走る。これを以て、日本の極右と欧米の極右はその背景が全く違う、異質の存在であると思わなければならない。冒頭に書いた通り、都知事選挙で極右が伸長(顕在化)したことを以て、日本社会で「欧米と同じく極右・排外主義勢力が増えている」とするのは、根本的に間違った認識なのである。

 ではなぜ日本の極右は「自らの社会生活に危機感を感じていない」にもかかわらず排外主義に走るのだろうか。当然欧米のように正社員雇用が韓国人や中国人移民を奪われてもおらず、都市部に外国人コロニーが形成され日本人の居住環境が脅かされているという状況もない。よって彼らの排外の根拠は、このような生活実感には求めることができないので、畢竟ネット上に跳梁跋扈する陰謀論やデマを根拠とする。

 本稿冒頭で記した在特会がまさに、存在しない「在日特権」を根拠に、主に在日コリアンに対する排外(強制送還など)を主張したことが証左のように、日本の極右の排外の理屈は欧米とは全く異なる陰謀論である。政財官、テレビや新聞などの大メディアが在日コリアンや韓国人に支配されている、というありもしない陰謀論が跋扈しだしたのは、ネット右翼の誕生と軌を一にする2002年頃からである。

 彼らは、在日コリアンは各種税金免除等の特権があり、日本の政財官に深く入り込んでいる―というある種妄想的陰謀論を根拠に、彼らの排斥を主張した。しかし2002年から約20年弱が過ぎ、いわゆる「在日特権」はいくら探しても全く立証することが出来なかった。

 在日コリアンは税金を払わなくてもよい―という、言い換えれば都市伝説は、いくら探しても見つからなかった。在日コリアンの犯罪は所謂「通名特権」によってメディアにより隠蔽されている―というが、事実新聞でもテレビでも雑誌でも、「韓国籍(朝鮮籍)の男」などと堂々と報じられている。かろうじて朝鮮総連等の固定資産税免除(減免)などの事例が自治体によりけりで存在したが、北朝鮮による日本人拉致問題に対する世論の沸騰を受け、こういた措置もゼロ年代から次々と廃止された。「在日特権」は無かった。これにより、2010年代中盤から急速にネットの右派界隈においてでさえ、在日コリアンや韓国人を排斥する理屈として「在日特権」を持ち出す事例は急速に減退した。いくら探しても実例が無いから当然である。

 その代わり彼らが持ち出したのは、「アイヌには特権がある」とか、「沖縄の米軍基地反対派には韓国人が動員されている」などのデマであった。筆者は北海道の出身だが、アイヌを出自とする本道在住者は、犯罪を犯せば普通に逮捕され報道されている。沖縄の米軍基地反対派には韓国済州島の海軍基地建設を巡り、日本側市民団体と連携している事例があったので、確かに沖縄における基地反対現場に韓国本土から来た韓国人が存在する事例はあったが、実際に現地に数十回足を運ぶと、彼らの存在はごくごく微小かつ例外的で、基地反対派の多くは他でもない沖縄県民そのものであり、また本土から来た場合でも、そのほとんどが「成田闘争」などを経験した老齢の活動家である。「在日特権」を外国人排斥の理由にできないので、今度や北方や沖縄に、その排外の理屈を求めたネット右翼は、所詮は都市伝説か、事実があいまいなデマに頼るしかなかった拙稿を参照のこと)。

 要するに、日本の極右の排外主義は、都市伝説や空論に基づいており、社会生活の実感とは無縁である。この日本の極右と、曲がりなりにも、過去数十年(或いは数世紀)に亘って公式に移民を受け入れ、職を「奪われた」り、都市に疑似コロニーを「建設されたり」して社会生活の実感を伴う排外主義をその評価はともかく主張する欧米の極右を一緒くたにしてはいけない最大の理由がここにこそある。

 日本では、総人口の約98%が日本人で、未だきわめて均質的な社会が形成されている。日本の極右が、都市伝説やデマや空論に頼らず、欧米の極右と同じように「社会生活の実感を伴う排外主義」に「転換」するのは、現在ではない。近い将来そういうことが起こらないとは言えないが、それは欧州のように「移民とその子孫」が総人口に占める割合が10%とか20%を突破しないと起こりえない。

 日本は公的に移民政策を採用していないので、このようなことは実際には起こりにくいばかりか、現状では再三述べた通り、「社会生活の実感を伴う」外国人の増加がもし起こっていたとしても、それは日本社会に低賃金・重労働における非正規雇用の充足という恵沢をもたらすばかりで、欧米型排外主義には結び付かない。日本の極右と、欧米の極右は、これほどまでに差異があり、日本の極右の排外の理屈とは、ネット上に乱舞する都市伝説やデマに頼らざるを得ないほど脆弱なものであると認識しなければならない。日本では”欧米型極右”はいまだ誕生していないのである。(了)

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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