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保守層からも熱視線~れいわ新選組と山本太郎氏~

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
19年参院選で街頭演説する山本太郎氏(写真:つのだよしお/アフロ)

【1】れいわ新選組は本当に「左派ポピュリズム政党」なのか?

れいわ新選組・全国比例における 保守層からの流入 (NHK出口調査に基づく)
れいわ新選組・全国比例における 保守層からの流入 (NHK出口調査に基づく)

 前参議院議員・山本太郎氏が代表を務めるれいわ新選組が、今次参院選挙で約230万票もの得票を集め、国会に2議席を送り出したことは既知のとおりである。選挙後、れいわ新選組に対して「左派ポピュリズム政党」という批評が相次いで取りざたされている。

 しかし私はこの批評は全く正しくない、と断言する。れいわ新選組が「ポピュリズム(大衆迎合)」かどうかは兎も角として、この政党を「左派」と安易に決めつけられない客観的状況があるのだ。

 実際、NHKの出口調査によると、れいわ新選組の全国比例の得票のうち、自民党支持層からの票は最大で5%とみられている。つまりれいわ新選組が獲得した230万票のうち、約10~12万票は保守層から出力されていることになる。これに加えて、維新や公明の支持層からの票も勘案すれば、確実に10~15万票強近く(>5%)は保守層からの流入だ。

 たとえば「革新政党」とされる日本共産党の得票の中には、自民支持層からのそれが5%も混入することはありえない。保守層から5%の流入を得ているれいわ新選組は、この時点で必ずしも「左派」とは言えないのだ。5%。されど5%は大きい。

【2】なぜ保守層からの票がれいわ新選組に流れたのか

国土強靭化は保守層の岩盤主張だ(イメージです、photoAC)
国土強靭化は保守層の岩盤主張だ(イメージです、photoAC)

 実は私の周りでも「いつもは比例で自民と書くが、今回ばかりはれいわに入れた」とか、「選挙区で自民、比例は山本太郎と書いた」という保守層は少なくはない。「左派ポピュリズム政党」と冠をつけると、直情的にれいわ新選組は「左派政党」と誤解されがちだが、実態は大きく異なっている。

 なぜ少なくない保守層はれいわ新選組(あるいは山本太郎氏)に一票を投じたのか。答えは、れいわ新選組の訴える政策が、保守本流の思想に極めて近いものを多く含むからだ。

2-1)対米自立、アメリカからの独立

 山本太郎氏が繰り返し主張する対米自立、アメリカの属国状態からの脱却は、古くから「自主独立・対米追従からの脱却」を唱えてきた所謂「反米保守」の世界観とぴったり合う。「親米保守」の傾向が色濃い清和会内閣が森喜朗内閣(2000年-2001年)、小泉純一郎内閣(2001年-2006年)、第一次安倍内閣(2006年-2007年)、福田康夫内閣(2007年-2008年)、そして現行の第二次安倍内閣(2012年-)と、5代約16年間続いているので、自民党の中の「反米保守」はすっかり非主流派になった。

 そして保守論壇でも、故・西部邁氏小林よしのり氏など、「反米保守」の流れは正統的な保守ではない、とみなされ「親米保守」が約20年間幅を利かせるようになった。が、古くからの「反米保守」は少なくなったが確実にいる。山本太郎氏の「真の独立国家を目指す」や「日米地位協定の改定」といった訴えは、こうした古くからの「反米保守」の心をつかんだのだ。

2-2)国土強靭化の主張

 山本太郎氏が訴えたのは、国土強靭化に代表される公共事業の積極出動と地震や災害に近い国土形成だ。実はこの世界観の先駆は、京都大学大学院教授の藤井聡氏であり、藤井氏は第二次安倍内閣発足と同時に内閣官房参与に就任している。しかし藤井氏は、2018年12月になって、「安倍内閣では国土強靭化は達成できない」等として内閣官房参与を辞任してしまう。

 ちなみに藤井氏は、同年、前掲した故・西部邁氏が長年編集長を務めた保守論壇誌『表現者』を、西部氏の死去に伴い『表現者クライテリオン』として編集長職を引き継いでいる。山本太郎氏が掲げた「国土強靭化」は、保守層の一部から従前、強く唱えられてきたものである。ここでも、れいわ新選組と保守層の相性は良いのだ。

2-3)TPP反対、反グローバリズム

 いわずもがな、山本太郎氏が唱えたTPP反対や反グローバリズムも保守層の世界観と近似している。反グローバリズムの傾向は前掲した故・西部邁氏のグループ(―俗に”表現者グループ”と呼ばれることも)に根強く、保守派の論客として知られる中野剛志氏や柴山圭太氏、施光恒氏などがその代表格だ。このようなTPP反対―反グローバリズムを唱える保守系論客の一帯を「経済ナショナリスト」と呼ぶ場合もある。

 いずれにしろこの部分でも、れいわ新選組と保守層の相性は良い。

2-4)脱原発

 山本太郎氏の従前の主張である「脱原発」「脱被ばく」も、実は保守層の一部とすこぶる相性が良い。保守層の主流(―櫻井よしこ氏が理事長を務める国家基本問題研究所など)は揃って原発再稼働、原発推進を掲げるが、横一列かというと必ずしもそうではない。保守系活動家として著名な針谷大輔氏による『右からの脱原発』(2012年、ケイアンドケイプレス社)の出版が象徴的であるように、「瑞穂の国の国土を放射能で汚すな!」という国家共同体的な美意識から、脱原発運動は保守層にも一定程度浸潤している。

 保守論壇では、西尾幹二氏、竹田恒泰氏が代表的な「右からの脱原発論者」として知られているが、全体からみれば少数である。だが、「かけがえのない国土を放射能で汚すな!」という主張こそ愛国者の主張相当であることを考えると、またしてもれいわ新選組と保守層の相性は良い。

2-5)消費税廃止

 れいわ新選組の今次参院選挙における目玉政策の一つ「消費税廃止」だが、これも保守層と相性が良い。実は政府が2014年に消費税を5%→8%にあげた時、保守論壇では増税凍結の大合唱が起こった。起こったばかりではなく、その是非や増税経緯の子細をめぐって、保守系論客同士が分裂・対立し、民事訴訟にまで発展した(―詳細はここでは省く)。

 ともあれ、この「消費税廃止」も、「安倍総理のやることはすべて賛成」とする保守論壇の主流とは一線を置いた保守系論客から現在でも根強く支持がある。例を言えば憲政史家の倉山満氏などがその急先鋒だが、保守論壇の主流を占有しているには至っていない。だが前提的にれいわ新選組の「消費税廃止」は、保守層とは相性が良いといえる。

【3】憲法と天皇と自衛隊だけが…

園遊会(イメージです、photoAC)
園遊会(イメージです、photoAC)

 このように、おおむねれいわ新選組の主要な政策は、「左派」どころか、「保守層」に大きく受け入れられる余地があるものばかりなのである。

 ではなぜに保守層がこぞってれいわ新選組に票を入れなかったのか(―それでも5%は入れたのだが)というと、

3-1)山本太郎氏の護憲姿勢

3-2)山本太郎氏の天皇に対する姿勢

3-3)山本太郎氏の自衛隊や安全保障に対する姿勢

 以上3点で「どうしてもそりが合わない」として禁忌する傾向が強いからだ。特に3-2)、'山本太郎氏の天皇に対する姿勢は保守層がれいわ新選組に対する拒絶感として明瞭に存在する事項である。

 これは2013年10月、秋の園遊会に出席した当時参院議員の山本太郎氏が、天皇(現上皇)に直接、手紙を手渡した「事件」を指す。保守派の多くは衝撃と共にこれを「不敬」として断罪し、山本太郎氏を口撃した。この記憶が色濃い保守層は、いまだれいわ新選組に対してアレルギーを持っている。

 しかし、こういった禁忌事項を除けば(―許容することができれば)、れいわ新選組の政策と保守本流の世界観は非常に似通っている。この事実を以てして、私はれいわ新選組を「左派政党」だとか、「左派ポピュリズム政党」と呼ぶことに強い抵抗があるのだ。

 次の国政選挙は衆議院選挙であるが、れいわ新選組に現在以上の保守層が集まれば、同党が与党支持者を切り崩し、より大きな政治勢力を形成する格好の契機と考える。(了)

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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