Yahoo!ニュース

石破茂×古谷経衡 ロング対談「もし”石破総理”なら、日本の国防はどう変わる?」(後)

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
石破茂議員と筆者(衆議院議員会館にて)

1.この対談は、TOKYO FM『TIME LINE』で取材・放送したものに加筆・編集を加えたものです。

2.上記の放送内容の抜粋は、2018年7月10日にTOKYO FM『TIME LINE』にて放送したものをまとめていますのでこちらをご覧下さい。

3.禁無断転載、括弧内*印は筆者の注です

4.今回の対談の細目(後編)/もし「石破総理」なら、日本の国防はどう変わる?/戦争の悲劇からなぜ学ばないのか?/映画『連合艦隊』を観よ/「朝日新聞と中国と韓国をDisっていれば保守」の情けなさ/総裁選への展望

5.本対談の前編はこちらをお読み下さい。

・もし「石破総理」なら、日本の国防はどう変わる?

古谷:(*前編から続く)今、ちょっと軍事の話が出ましたけれども、最近報道ベースでGDPに対し防衛費は2%にしてはどうか、みたいな意見も出てきますけれども、軍事のご専門家でもある石破さんに、ぜひ聞きたいんですが。

 一応、今、日本は政府見解として「攻撃型空母」と、ありもしない、よく訳の分からないくくりをつくって、それを持たない、ということになっていますけれども。どう考えても、それを多目的空母というものかどうかはともかくとして、そういう海洋戦力は、やはり二個機動艦隊ぐらい持ったほうがいいと思うんです。

 でも、やっぱりどこか遠慮があるのか、多目的災害救助艦みたいな名目にしたり、これは耐熱処理を施してないからF-35Bは使えないんだよ、だから「攻撃型空母ではない」とかというふうに、遠慮しているわけですね。安倍さんですら、いま一歩、踏み出してないような気がするんですけれども。

 もし仮に石破さんが総理大臣になられたときには、そういう大胆な防衛力の増強というもに関しては、どう考えていますか。

石破:結局、水上艦を持つのか潜水艦を持つのかという選択だと思っているんです。

古谷:ディーゼル潜水艦ですか。

石破:そう、通常(*ディーゼル、通常動力型潜水艦)。もちろん原子力のほうが瞬発力があるんで、いいに決まっているんだけれども。日本が今から、ディーゼル潜水艦と同じぐらいノイズの少ない原子力潜水艦がつくれるかって、かなり難しいと思っているんです。今の日本のディーゼル潜水艦は、相当、長時間、潜航できますんで。

 そうすると、空母って、それ自体はすごく脆弱な、単なるドンガラ(*空洞)ですもんね。そうすると、それを防御する潜水艦がいて、DDG(*ミサイル搭載型駆逐艦)、イージス艦がいて、あとは、いわゆる対潜用駆逐艦ですな。つまりワンセットを持たなきゃいけない。それが2つでは多分、足りなくて、3つ持たなきゃいけないんだと思うんです。

古谷:3つぐらい。

石破:技術はできます。持てます。ですけど、中国の戦略がこれからどうなる、ロシアの戦略がどうなる、アメリカはどのようにして、このアジア太平洋地域から、だんだん手を引こうとするのか。

 そのときに空母と潜水艦、今、アメリカはタイコンデロガ級(*満載約1万トン)22隻展開を目標としていますが、でも日本の潜水艦って、アメリカと違ってツークルー制じゃないんで、アメリカは航海から帰ってくると、艦長以下、乗員を全部、入れ替えて、また出すわけですよね。

 日本の場合に帰ってくると、お休みして、それからまた出ていくわけで。そうするとツークルー制にすることによって、10隻が20隻の働きができるかもしれない。そうすると給与体系をどうするんだという話に必ずなるわけですけれども。ですから、空母機動部隊なるものには、もう「攻撃型空母」とか「防御型空母」なんて区別はないんです。

古谷:ないですよね。

石破:そんなもの。

古谷:『軍事情報』とか『世界の艦船』を読んでいる層からすれば常識ですが、おっしゃるとおりです。

石破:それを持つことが、何の意味があり、水中艦、潜水艦を持つことに、どんな意味があり、限られた予算の中で、どのようにやっていくのが日本にとって一番いいのか。結局、太平洋戦争で日本が負けたのは、最後は潜水艦に負けたんですよね。

古谷:南方資源ルートにおける通商破壊ですね。

石破:だって駆逐艦なんて菊の紋章が付いてないんだから。商船護衛なんて軽視する、そういう感覚があったでしょ?

古谷:そのせいでどんどんやられましたね。

石破:アメリカが日本の商船攻撃のために潜水艦をものすごい作った。

古谷:真珠湾の劈頭からやりました。

石破:片っ端から、日本の商船団を沈めましたよね。もう一回、海軍の戦略って何なんだということに戻って、そのために必要なお金であれば出すけれども、単に、だって空母を持つのが一等国の証しみたいなところがあるでしょ?

古谷:確かに。ちょっと古いかもしれませんね。

石破:だから中国の遼寧型(*旧ワリャーグ。中国がウクライナから購入)って、やがてそれなりのものになってくると思います。もちろんアメリカとは全く違うけれども。じゃあタイ海軍が持っている……。

古谷:あの10機くらい積める、小さいやつですね。

石破:チャクリ・ナルエベト。

古谷:そうです。満載(*満載排水量)で1万トンくらいの。

石破:おもちゃじゃないんだから。あるいは、ジュゼッペ・ガリバルディ(*イタリアの軽空母―満載1万四千トン)とか、そういうものを持ちたいの?それって違うでしょ、ということだと思うんです。だから空母を持つことが一等国なんて言葉は古いけれども、その証しだみたいな、そんな話じゃなくて、この時代における海軍戦略って何なんだ、ということだと思います。

・戦争の悲劇からなぜ学ばないのか?

古谷:とはいえ中国の物量で来られますと、我が方がいくらF-35を配備し、F-15 を改良したって、絶対量が足りないと思うのです。それから先ほど、海の話がありましたけれども、変わって陸ではようやく与那国に160人の駐屯地ができたとはいえ、人口が、それはむこうは10倍ですからしょうがないんですが、いくら自衛隊員が優秀でも、やはり量的に足りないんではないかなというのが国民一般の感情だと思うんですけれども。

石破:もちろん。

古谷:これはどのぐらいまで増やしていけばいいのか、僕はもっと増やしてほしいんですけれども。

石破:結局、専守防衛という防衛思想は、国土が戦場になることを前提としている、世にも稀なる―。

古谷:そうですよね。

石破:―最もリスクの高い防衛戦略なんだけれども、当面、これを維持していかないといけない。国民に向かって、本当にこれでいいですかということは語らなきゃいけないけれども、これをすぐ変えることは難しい。

 専守防衛って、結局、持久戦だから。日米同盟が本当に機能するまでの間、持たせなきゃいけないわけでしょ。そうすると、持久戦であるが故に、十分な燃料があり、弾薬があり、人員があって、抗堪性(*こうたんせい―ダメージコントロール)があって、初めて持久戦って成り立つわけですよね。じゃあ燃料は十分ですか。「たまに撃つ 弾がないのが たまに傷」なんていう川柳が昔、自衛隊にあったけれども、本当に、それでいいですか。そして人員は全然、足りない。

古谷:著しく高齢化していますね。

石破:ですよね。そうすると、燃料が足りない、弾薬が足りない、人員が足りない、抗堪性はかなり脆弱ですよね。

 私、防衛長官のときに、「F-15を野ざらしにするのはやめろ」と言って、「シェルターをちゃんとつくれ」と言ったんだけれども、徐々に進行していますけれども、結局、シェルターっぽいものって、日本人はあんまり興味がないじゃないですか。だって核シェルターの整備率は0.02%です。

古谷:ゼロに近いですよね。

石破:ゼロです。「今さらつくれるのか」と言うけれども、地下鉄の駅、地下街、そこに換気装置を止める、そういうシステムを作って、トイレと水と食料とを確保すれば、都市部は相当のシェルターができるはずですよね。でもそれをどんなに訴えても、ほとんど動かない。

古谷:なぜ、唯一の被爆国であるのに、そういうことが全く軽視されているんでしょうか。広島原爆で、爆心から一番近い距離(*約170メートル)で生き残った人が燃料会館(*現在でも被爆建物として、広島市平和公園の片隅に現存する)の地下にいたわけであって、あれを聞いたら地下の重要性というものは分かるようなもんですけれども、どうしてここまで鈍感なんでしょう。

石破:だからおっしゃるとおり、シェルターの重要性って、広島に原爆を落としたアメリカが戦略爆撃調査団というものを送って、徹底的に調べて、爆心地の直下で死なない人がいた。結構、生き延びられたわけですよね。

古谷:戦後も長生きなさいました(*野村英三さん―1898年~1982年)。

石破:結局、シェルターだという話になったでしょ?だから嫌なことは見るのをやめようという、そういう日本人の考え方。本当にダチョウという生き物がそういう習性かどうかは別にして、嫌なものは見ない「ダチョウ症候群」みたいなものはある。それで日本って誤ってきたんじゃないんですか。

古谷:しかし、僕も平和教育というものを受けました。『はだしのゲン』を筆頭に、最近、『この世界の片隅に』とか、いろいろ原爆関係のことをずっと読んだり聞いたりしてきましたし、空襲も、神戸の野坂さんの『火垂るの墓』とかをずっと放映してきて、あるいは東京大空襲をモチーフにした『うしろの正面だあれ』は、主人公だけが鉄筋コンクリートの小学校に逃げて助かるんですけど、堅牢な建物や地下空間がいかに重要か―逆に木造家屋が如何に脆弱か―というのは容易に分かろうようなもんなんですけれども、どうしてなんでしょう。それは教育が悪いのか、政治が悪いのか。

石破:政治が語らないからです。

古谷:政治が語らないからですか。

石破:それは小泉内閣で有事法制というものをやった。私は防衛庁長官だった。「これは戦争準備法案だ」と攻撃された。

古谷:言われましたね。

石破:「あの軍事オタクの石破が、これをやるんだ。何と恐ろしい」と。そんな世論でした。だけど沖縄で、なんであんなにたくさん人が死んだ?民間人を戦場に置いてはいけないという当たり前のことが行われなかった。

 なんで東京で、あんなに人が死に、広島、長崎で人が死んだのか。疎開で都市を離れていたのは子どもたちと先生。高齢者も女性も、非戦闘員はいっぱいいた。民間人を戦場に置いちゃいけない。これが有事法制です。阪神淡路大震災で、パトカーも消防車も救急車も赤信号は突っ切った。自衛隊の車両は全部、止まった。

古谷:本当にばかばかしいですよね。

石破:「なんで自衛隊の車両が通れないのか?」と聞いたら、「サイレンを鳴らしてないからです。赤色灯が点滅してないからです」。有事に戦車がサイレンを鳴らして走るのか。

古谷:そのとおりです。

石破:「それは自衛隊が迅速に行動をする、そして民間人を戦場に置かない、これが有事法制です」と言ったら、最終的に民主党まで賛成しました。そういうものでしょ。

古谷:そうです。

石破:政治が語らないんで、どうするんですか。

古谷:そうですよね。6月23日、先の沖縄の終戦の日でも、やっぱり最初から想定していた首里の司令部を放棄して、第32軍が南部に撤退したことで、それにくっついていった避難民を巻き込んじゃったのが原因であって。首里で徹底抗戦して首里で玉砕していれば、それ以南の住民被害は少なかったはずだ、と後世研究されています。その辺は語られないんですよね。

石破:語られない。

古谷:辺野古がどの、平和の礎・・・。それは大変素晴らしいんですけれども、戦術的なこととか本当の歴史というものは、集団自決やひめゆり学徒隊の話は言うんだけれども、じゃああのとき第32軍はどうだったのか。摩文仁(まぶに)のほうに撤退する判断は、あそこでガタガタになったわけですから、間違いだったんじゃないのか。八原さん(*八原博通第32軍高級参謀)の指揮はどうだったのか、という話を全くしないのは、やっぱり政治主導でやっていただくしかないんでしょうかね。

石破:民間人の犠牲を顧みないという恐ろしいところが、この国にはある。

古谷:ですよね。

石破:ですよ。そして、神風特攻隊にしても、戦艦大和の沖縄特攻にしても、何の戦果が得られないことを承知の上で、「大和に生き恥をかかせないでください」という、そういう言葉だけで大勢の人が死んでいった。そういう国であるということ。それをどれだけの人が知っていますか。

・映画『連合艦隊』を観よ

古谷:ちょっと前、『宇宙戦艦ヤマト』のリメークで木村拓哉さん主演で『スペース・バトルシップ・ヤマト』をやりましたし、最近では『男たちのヤマト』なんてのもありましたけれども、何ていうか、超弩級戦艦大和という史実が、ちょっと非常に、異様に美化されているように思います。

「あれ(*大和特攻)は沖縄を助けに行ったんであって、沖縄は捨て石になってのではない」とかいう意見が一部ネット空間であるんですけれども、「本土決戦の捨て石として敵に出血を強要する」と、はっきり当時の資料に書いているわけであって。

 しかも途中で上海方面に行く偽装航路もばれちゃって、どうしようもないということで、日本海軍の栄誉を含めて撃沈されたわけですけれども。そういうものを美化、要するに、端的に言っちゃったら、歴史修正主義みたいなものが、あまりにもすごいな、という気がするんです。そうすると、これは反省ができないんじゃないか。300万人の無辜の同胞の死が無駄になるんじゃないかという、すごい危機感と絶望感を僕は毎日持っているんですが、いかがですか。

石破:吉田満の、日銀の理事までなられましたかね。『戦艦大和ノ最期』という手記がありますでしょう。

古谷:有名な。

石破:あれは本当に名作で、俺たちが犠牲になることで新しい日本が生まれるんだと。本望じゃないかみたいな、その気持ちを、今を生きるわれわれは、どれだけ受け止めているだろうかということだと思います。

 みんな生きたかったんだと思う。みんな、お父さん、お母さん、家族、大切だったんだと思う。でもそれは俺たちが犠牲になることで、いい日本ができる。そういうものがなきゃ救われないです。きっとそれは、きれいごとをいくら言っても遺族は悲しかったし、その後、かなりつらい人生を歩まれたと思う。それを見ることって必要なことじゃないんだろうか。私は、そう思っていて。

 ですから、私はいろんな映画で、あれって反戦映画じゃないかという人もいるけれども、中井貴一が演じていた『連合艦隊』という映画があってね。中井が海軍兵学校を首席で出て、下士官止まりだった父親は、「俺は息子に敬礼をするのが夢だった」と言っていて、敬礼するところから話は始まる。

古谷:残念ながらはっきりと、全編きちんとは見てないです。

石破:これは、ぜひ見てください。

古谷:見ます。

石破:谷村新司の『群青』が主題歌だったの。

古谷:渋いですね。

石破:それで、でも彼は戦艦の艦長さんじゃなくて飛行機乗りになるわけ。お父さんは予備役だったんだけど召集されて、大和の乗り組み員になる。で、出撃をする。もちろん生きて帰れないことは、みんな分かっている。

 息子の中井貴一も特攻隊で出撃する。だけど最後に、大和は護衛を付けずに出るわけよね。護衛に行きたい。「おまえたち、きょうは特攻に行くんだろう」「時間に少し余裕があります」と。「少しの時間でいいです」と。「護衛に付けさせてください」と言って、ゼロ戦が飛んでいくわけです。

 大和の上を旋回して、「来てくれたな」と、帽を振るわけ。帽子をね。そこで財津一郎扮するお父さんが、「もういい」と。「帰れ」と。「帰ってくれ」という言葉で去っていく。特攻に行かなきゃいけないからね。

 ―そして大和は沈む。中井貴一の特攻は、大和が沈んだ、ちょっと後なんです。「お父さんよりも少しだけ長生きできたことが、お父さんより先に死ななかったことが、たった一つの親孝行です」という言葉で終わる。私、これも何十回見て、何十回も同じところで泣いたかな。

古谷:・・・そうですか。

石破:やっぱりそういうものだと思う。だから、どうやったら戦争にならないかを考えるのは、平和の歌を毎日歌うことも大事だ。憲法9条を唱えることも大事だ。だけど、それだけで平和は来ない。

古谷:そのとおりです。

石破:だから、それを徹底的に考えるのも政治の仕事でしょうよ。

・「朝日新聞と中国と韓国をDisっていれば保守」の情けなさ

古谷:その皮膚感覚は、ここ20年ぐらいで、だいぶ変わってきたような気はしますけれども。いわゆる教条的護憲みたいなものが、ちょっとうさんくさいというふうになってきたような気はするんですけれどもね。

石破:そうかな。私は、例の有事法制に民主党まで賛成してくれたとき、つまり参議院本会議場で、私は閣僚席に座っていた。共産党と社民党を除く全議員が起立した。本当に泣けたです。泣いてばかりいるんだけれども。だけど不完全とはいえ、例の平和安全法制、あるいは特定機密保護法、徹底的に反対だという物言いは。

古谷:確かに、野党の追求は激しかったですね。

石破:回帰しちゃったような気がしないではないです。

古谷:ただ、あるときには個別的自衛権は認めるという論調だったので、そこは、昔はそれも認めてなかった「進歩的知識人」も多かったわけで、そこはちょっとだけ進歩したのかなという気がするんですけれども。

石破:ただし「個別的自衛権は認められるが集団的自衛権は認められない」。―それって政策判断ですからね。なんでそれが憲法にいくの。憲法にいくことで、手、触れるべからず、みたいなことになっちゃった。

古谷:確かに、なりましたね。

石破:それはロジカルな世界じゃないわけですよね。野党だってインテリジェンスの高い人はいっぱいいます。

古谷:おっしゃるとおりです。

石破:本当に正面から語って、私の言っていることに、どこに誤りがありますか、教えてくださいという、それって大事なことだと思います。

古谷:しかし、ここまで日本の国防や歴史と大事にされている石破さんが、なぜ、いわゆる「保守層」とか「ネット右翼」から「左翼」だの「パヨク」だのと目の敵にされるのか、私は、もう話せば、お話しするほど分かりません。それは仰るように座標軸が変わったからなんでしょうけれども。複雑怪奇にもほどがある。何なんでしょうか。いったい。

石破:不徳の致すところです。

古谷:石破さんのせいでは当然ではないと思うんですけれども、その辺は、ちょっと謎というか、摩訶不思議というか、本当に、これで日本は大丈夫なんだろうか?と私は常に思います。

石破:そうですね。だから私も「後ろから鉄砲を撃つな」という。

古谷:よく言われますよね。

石破:その言葉をどれだけ言われたことか。それは私だって、めげそうになりますよ。

古谷:そうですか。

石破:何でも今の潮流が正しいんだと言っているほうが、生き方としてはカンファタブルなのかもしれない。

古谷:でもそうすると、民主主義が崩れていきますよね。

石破:ですから、先に述べた反軍演説をしたをした斎藤隆夫は、衆議院を除名になった。でもその後の選挙で、兵庫県の但馬町ですが、翼賛選挙で復活する。

古谷:1942年ですね。

石破:大政翼賛会の非推薦でありながら、圧倒的トップ当選です。ですから、決して諦めちゃいけないんだと思っているんです。保守層、いわゆる保守層からの声も。

古谷:かっこ、いわゆる「保守層」「保守」「ホシュ」ですけれどもね。

石破:目の敵にされるか分かんない。だけどそれは多分、私は「保守ってイデオロギーじゃない」と言っているからでしょう。だから江藤淳さんが言ったように、保守って感覚なのだと思っているんです。

古谷:そのとおりです。

石破:イデオロギーじゃないと思っている。

古谷:そうです。

石破:それは皇室を大事にして、伝統を大事にして、地域を大事にしてという、そういう素朴な。

古谷:そうですよね。

石破:コモンセンスみたいなものですよね。

古谷:おっしゃるとおりです。

石破:保守って、そうなんだと私は思っている。でも、保守をイデオロギーっぽく捉える人は、私の持っている保守感というものは、すごく異質に映るんじゃないんですか。

古谷:今は異常ですね。本当にイデオロギーになっていて、朝日新聞と韓国と中国が嫌いであれば保守だというふうになってしまって、ほとんど一色じゃないでしょうかね。それ、いわゆる「保守論壇」と言われるところ全部。

石破:私は、それを保守だと思っていない。

古谷:僕も思いません。僕も全く思わないです。

石破:だから保守が保守でなくなったときに、これは論壇誌を見ていても、そう思うんだけれども、私が中学生や高校生、大学生の頃に愛読していたのは、特に『諸君!』だったんです。

古谷:僕もです。僕は最後の世代ですけれども。

石破:そうですか。

古谷:僕が大学の終わり頃に休刊しましたけれども。

石破:あそこに一歩、離れて、でも本質を見抜くという、そういう精神が『諸君!』にはあったんですよね。

古谷:あったと思います。

石破:笑うというのも「アッハッハ」じゃなくて、何だろう、「イヒヒ」というのかな。

古谷:口へんの「嗤う」ですよね。

石破:そうそう、口へんの笑う=「嗤う」。そういう精神があったと思うの。今みたいに「保守雑誌」を名乗りながら、なぜかタイトルがローマ字という、その雑誌が幾つも・・・。

古谷:石破さん、それほぼ全部じゃないですか(笑)。

石破:誰とは言わないけれども、私、不思議だなと思いながら見ているんだけれどもね。それはもう本当に、声高に自説を論じ、声高に自分と合わない人を排除するという、そういう雑誌の本が受ける。『諸君!』みたいなものも、とうとう休刊、ほとんど廃刊。

古谷:先に申し上げたとおり、僕の大学のときに終わりました。

石破:・・・になっちゃいましたもんね。

古谷:今は、もうローマ字保守、かっこ「保守雑誌」って、韓国と中国ウォッチ雑誌なんじゃないかと私は思っていますけれども。

石破:でも韓国が、これだけカルチャーを輸出をしている。そしてソウルは人口比300%のシェルターを持っている。そういうような国ですよね。そして韓国も人口大減少が始まるから、韓国語で、韓国語を教えるのをミャンマー語で教えるとか、あるいはベトナム語で教えるとか、そういうことを始めているわけ。

古谷:ソロモン諸島ではハングルが表記言語になりましたよね。あれはびっくりしました。

石破:すごいでしょ。単に韓国をあしざまに言って悦にいる。それは国益も違えば歴史も違うから、それは違うことを認め合った上で、お互い引っ越しできないんですもん。どうやったら近づけるかということは、努力をしないで罵倒をしていればいいんですかね。私は、そうは思わない。

古谷:そうですね。僕もパク・クネ退陣デモ(*2017年)に行きましたけれども、日本のデモとは圧倒的に違います。もうあまりにも違い過ぎて、イデオロギーではなくて、デモのやり方から何から、ちょっとあまりにも日本と、いい意味で進んでいたというふうには思います。

石破:そうですね。だから本当に今、歴史のすごい変わり目で、世界史の教科書、日本史の教科書、何百年か先、何ページか割く時代なんでしょうよ。そのときに、日本だけが素晴らしいんだ、中国をあしざまに、韓国を見下し、それで日本はどうなるんだという思いはありますよね。だから謙虚であることと卑下することは違うはずと思いますけれども。

・総裁選への展望

古谷:そのとおりです。最後に一応、聞いてよろしいでしょうか。9月の総裁選について一言だけで結構でございます。ノーコメントでも結構でございますが、ちょっと興味が。

石破:党費を払っていただいて、党員に選択肢を示す義務は、それはあると思います。しかし、いかなる論点でも必ずきちんと自分が納得し、人が共感できる、そういうような自分でありたいなと思っています。

古谷:なるほど。そうですね。党費を払っている人が、投票権を持つ。

石破:ですね。だから、でも自民党って国民のためにあるんです。

古谷:そうです。国民政党ですね。

石破:自民党のためにあるんじゃないんです。

古谷:そのとおりです。

石破:自民党利益を体現するためにあるんじゃない。国民政党である以上……。

古谷:全く、そう。

石破:党費を払ってくださる党員に対して、日本の国のために自民党は何をすべきですかということを語るべきだと私は思います。

古谷:多岐に及ぶ論題とご質問、ご丁寧にお話しいただき誠にありがとうございました。(了)

本対談の前編はこちらです。この記事(後編)と併せてお読み下さい。

対談前編の細目/変質した自民党/「軍事オタクの左翼」と言われている/黄昏の帝国をどう再興するか/「さらば宇宙戦艦ヤマト」を100回観る。クールジャパンと日本の宿痾/「どうせこれを言ったって分かんないよ」では世の中は変わらない

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

古谷経衡の最近の記事