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若者を”利用”する右翼と左翼

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

共産党に若者の入党が激増?

8月13日付の京都新聞(電子版)の中に興味深い記事を見つけた。7月1日、政府が集団的自衛権の憲法解釈変更を閣議決定して以来、共産党への入党者が急増、その中でも若者の入党者が急増している、という記事だ。重要部分を引用する。

2カ月半で5100人の入党があり、閣議決定以降は3000人以上に上ったという。(中略)党によると、入党者のうち39歳以下が3割を占めるなど若者が多く、集団的自衛権だけでなく、ブラック企業や原発、消費税など、党の主張が幅広い世代に支持されているとみている。

出典:(京都新聞 2014.8.13)共産、入党者が急増 2カ月半で若者ら5100人

記事からは、今年5月15日から7月末までの間で、約5100人の新規入党があり、その内の3割が「39歳以下の若者」である、ということを強調している。つまり共産党が若者から支持を受けていることを強烈に印象づけているように思えるのだが、この記事の中には巧妙な嘘が混じり込んで居る。「若者」の定義を「39歳以下」と大きく幅をもたせていることだ。

確かに、広義の「若者」「青年層」が39歳以下、というのは事実だ。たとえばJC(日本青年会議所)はその入会資格を39歳以下の青年、と定義している。しかし20歳の新陳代謝活発な大学生と、下腹部が膨らみだし、ガンマGTPが基準値を大きく超えた酒焼けの37歳の脂肪肝の男性を同列に語るのは少し無理があると思う。合コンの席で39歳の女性が「私は若者だ」と自称するのを、ほとんどの男性が「イタイ」と思うのと同様だ。

狭義の若者、というのはやはり24歳以下、広くとっても29歳以下となることは自明だ。わざわざ同新聞が「39歳以下」と幅をもたせたのは、「若者」の定義を29歳以下、にすると「共産党への入党者に若者が多い」というヘッドライン・バリューが喪失するからだろう。

共産党へ新規に入党した5100人の内、逆説的に記事から伺えるのは70%が40歳以上であるという事実であり、全体の平均を取れば新規入党者の平均年齢は良くてアラフォー、せいぜい40代中盤~50歳前後になる事は間違いないだろう。「共産党に若者が続々と入党している」という京都新聞のこの記事には、「共産党が若者に支持されている」という、巧妙な印象操作が隠されているように思える。

「ネット右翼」の平均年齢は38歳、高齢化する右と左

一方、共産党の対極にあるとされる保守陣営にも、ほとんど同様の現象が起こっている。私が2012年12月から翌2013年3月ごろにかけて行った大規模調査では、インターネット上で保守的、国粋主義的な言説を行う所謂「ネット右翼」の平均年齢は38.15歳と出た。詳細は、30代が32%と最も多く、39歳までの年齢層が約55%、だった(拙著『ネット右翼の逆襲』(総和社)2013.4刊、P.115より。その他、拙著『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト、2014.4月刊)など)。

この年齢分布は「ネット右翼」の平均年齢を示しただけなので、政治団体に入党するような「濃い」ユーザーの平均年齢は、「ネット右翼」の平均年齢に、相応の加齢が加味されることは予想される。それを考えると、「共産党の新規入党者の3割が39歳以下」という状況と、その対極にある保守陣営のそれは、そう大差がないと考えられる。右も左も、新規参加者には、狭義の若者(29歳以下)は極端に少ない。

私は仕事柄、三桁に及ぶ保守派の集会やデモ活動の現場に足を運んでいるが、20代は希少種。参加年齢の下限は良くてアラサー、その主力は30代後半から65歳未満の中・高年層である。政治集会の会場には、頭髪の後退した男性や白髪の老人の姿が圧倒的である。2013年に日比谷公会堂で行われた沖縄関連の反基地集会(共産党や社民党、それに自治労系の団体が結集していた)に参加した際にも、同じ印象を受けた。殆どがリタイヤ組などの年金受給年齢相当の人々ばかりであった。こうした「高齢化」現象は、左派、右派の両方に特徴的に見受けられる現象である。

このような、右と左のイデオロギー陣営に共通するのは、そういった集会、デモ行進の中に極少数訪れる若者(29歳以下)の存在をことさらに極大し、「自分達は若者から支持を受けている」と喧伝するところである。くだんの沖縄関連の反基地集会には、集会後のデモ行進の先頭に「東京ユニオン」の関係者であると思われる比較的若い主催者(といってもアラサー)が配置されていた。「このデモには、若者が多く参加している」という印象を、沿道の聴衆に印象づけるイメージ戦略だと感じた。

”若者”をアクセサリーにするイデオロギストたち

一方、保守派と目される集会やデモ隊の行進では、必ず極少数の若者の参加を引き合いに出し、「今日のデモには、若者からの支持がありました!」と熱狂的に締めくくる姿が散見されるのである。左右双方とも、「若者からの支持」「若者の参加」を何か重大な「戦果」のように吹聴し、それをアクセサリーのように吹聴する傾向が強い。何故か。

それは、若者をイノセントな存在であると定義し、そこからの支持は自らの言説の中立性を証明するものと思っているので、とりわけ「若者からの支持」に拘るのである。つまり若者は無知であり、無垢の存在である。その「白紙状態」の若者から信任を受けるという事が、自らの言説が「若者」という客観存在から観て正当で或ることのリトマス試験紙になっている、と感じているからである。若者から支持を受ければ受けるほど「自分たちは色眼鏡に依らない、客観的な存在である”若者”から信任を受けている正統な存在」という自己評価が存在しているのだ。

しかし、若者は無知で無垢だ、と思っている左右両陣営の「ジジ」「ババ」には、言うまでもなく若い世代への蔑視が存在している。若者は前提的に馬鹿だ、と思っているからこそ、若者からの支持に殊更客観的な”価値”を見出している。ところが若者は無知でも、無垢でもない。殆どの若者は、「ジジ」「ババ」世代の頓狂なイデオロギーの主張を、「客観的に」判断した結果、そこから遠ざかっている。「集団的自衛権の憲法解釈変更でただちに徴兵制になる」という主張と、「憲法を改正すれば日本はすべてうまく行く」という主張は、客観的に判断してどちらも極端でトンデモな主張だ。そんな異様な主張を拡声器で繰り返した所で、多くの人間から支持を受けることは不可能である。

多くの若者は、そういった頓狂でトンデモな主張を咀嚼した結果、そこから遠ざかる道を選んでいる。そこに関与せずに、飯食ってセックスしてアニメ観て寝るのが「通常の」若者の動態であり、それは若者が無知で無垢な「イノセントな」存在、だからではない。右も左も、極僅かに、集会やデモ活動に参加する”若者”を、自らのイデオロギーの正当性の担保に利用している。これは不健全である。若者を馬鹿にし続け、みずからの権威のアクササリーとして「ジジ」「ババ」が利用し続ける限り、この国の左右陣営がこれ以上の伸長をすることは難しい、と思う。

参考

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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